第3話 噂【AI-Remix】
子供の頃から、僕の耳にはB地区の噂が絶えなかった。B地区の住人たちは毎日浴びるように酒を飲み、朝も夜も区別のつかない生活を送っているという。住民の大半は病気を抱え、子供たちは朝から晩までゲームに没頭。ケンカや殺人、強盗にレイプといった犯罪が絶えず、警察のサイレンが鳴りやまない時間はないというのだ。廃墟のような家々が立ち並び、火事も多い。B地区の住人はもはや人間ではなくケダモノだと、大人たちは口を揃えて言っていた。犬はオオカミに、猫は虎のように獰猛になっているのだと。
そんな噂のB地区に足を踏み入れた僕が最初に感じたのは、驚くべき静寂だった。大騒ぎをする人もいなければ、大音量の音楽も聞こえない。警察のサイレンすら全く耳に入ってこない。子供の頃に聞かされたあの恐ろしい噂は一体何だったのだろうか。
静まり返った部屋の中が不気味に感じられた僕は、備え付けのテレビを点けてみた。B地区のニュース番組にチャンネルを合わせると、最初のニュースは次回のチケット配給のお知らせだった。月曜の朝6時に一斉に配られるチケット。B地区ではお金の代わりにチケットで買い物をするのだ。食料品のチケット、生活用品のチケット、電化製品のチケットなどがあり、支給される枚数は一律で決まっている。20歳になるまでは年齢によって枚数が異なるそうだ。チケットはすべて電子決済で、写真付きの住民カードを使って支払う。チケットの貸し借りを防ぐために本人確認も兼ねているのだ。
B地区には大きなショッピングモールがあり、住民たちはそこで買い物をする。売っている物は、A地区で売られている物の廉価版が多いようだ。酒やタバコ、お菓子だろうが、チケットの範囲内であれば好きな物を購入できる。電化製品も一流メーカーではないが、購入することは可能だ。パソコンやゲーム機も買える。ただし、品揃えは少なく、性能も見た目も普通の物しかない。何をするにもチケット内でできる範囲で平等が保たれているのだ。僕はニュースを見ながら、このチケットの手引きを読み、B地区の制度を理解した。
何もせずとも食べることには困らない。これがB地区の制度なのだ。手に入る物が平等だと、人間は争わないらしい。妬みという感情がB地区でも消え去ってしまったようだ。子供の頃から聞いていたB地区の噂は、今となっては全くのデタラメだったことがわかったのだ。
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