第1話 ”通称”A地区【AI-Remix】
働き蟻の法則――全体の2割がよく働き、6割はたまにサボることもあるが働き、残りの2割は働かない。昨日までの僕は、そのよく働く2割の一員だった。
30年前、ベーシックインカム制度が施行された。その制度が決まるとすぐに、全ての都道府県で「B地区」の開発が始まった。仕事を一切辞め、国からの支給で暮らす人間は、このB地区と呼ばれる区域に移住しなければならない。仕事を続ける人々は、首都や県庁所在地などの「A地区」と呼ばれるエリアに住む。A地区には巨大なビルや商店が立ち並び、公共交通機関も発達している。住居も庭付きの一戸建てばかりで、これが働く人間の特権だ。B地区以外の郊外も特別区域となっており、仕事をしている人たちは大きな別荘を建て、休日にはそこでのんびり過ごすこともできる。裕福な人々ばかりなので争いごとなど起きず、治安は非常に良く、セキュリティも万全だ。仕事は基本的にリモートなので、「満員電車」という言葉はもはや死語となった。働きたい意思を持った人間が好きなだけ働くので、「ブラック企業」という言葉も概念も消え去った。働きたい人間は何時間でも働き、その対価を受け取り、優雅な生活を送るのだ。
僕は子供の頃からパソコンやゲームといったITに関することが大好きだった。学校ではコンピューターに関する専門的な勉強を専攻し、卒業後はシステム開発・構築をするIT企業に入社した。毎日遅くまでコンピュータと向かい合い、オンラインで仲間と議論を重ね、より良い製品を世に送り出していた。そして、リリースできたら一気に休むのだ。1ヶ月まるまる休んで海外で豪遊することもあった。A地区の人間は皆そうやって目いっぱい働き、目いっぱい遊んでいる。僕もその一人だった。
その日までは。
僕の目の前に広がるA地区の煌びやかな街並み。その中で、僕は何も感じられなくなっていた。仕事への情熱も、遊びへの興奮も。何かが変わったのだろうか。そう思いながら、僕は新たな選択を迫られることになる。
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