雨乞い(雨恋)

伯人

第1話 出逢い

 俺は、犬だ。名前は“タロウ”という。歳は3歳。どこにでもいる雑種だ。俺は、生まれたばかりの時に、川に捨てられていた。そして、保護施設で、1年ほど世話を受けた。よく世話はしてもらったが、俺は何の為に生まれてきたのか分からずに日々を過ごしていた。譲渡会の時に、この家に里親として引き取られた。飼い主の、マサル君がウルトラマンが好きで、名前をつけてくれた。俺はこの名前が気に入っていた。マサル君は、小学5年生。元気いっぱいの男の子だ。マサル君は、俺をいつも可愛がってくれた。それに、学校から帰ってくると、いつも、おやつも食べずに散歩に連れて行ってくれた。暑い日も、寒い日も、雨の日も、風の日も、雪の日も、決まって同じコースを散歩してくれた。俺は、一日の中で、その時間が一番楽しかった。

 雨の日は、マサル君は、カッパを着て、俺にもカッパを着せて、散歩に行ってくれた。


 梅雨の時季になった。ほぼ毎日、雨が降っていて、晴れの日が待ち遠しかった。


 ある日のことだった。隣の家のガレージで、子猫が、雨に濡れ、体を震わせながら、雨宿りをしていた。マサル君は、優しい子だった。子猫の様子を見ると、一旦、家に帰り、タオルと、温めた牛乳、パンを持って子猫の元へ戻った。子猫は、少し怯えながらも、パンと牛乳を口にした。

 俺も、昔に捨てられた身だ。子猫の痩せた姿を見て、“この子も捨てられたのかな?”と心が痛んだ。子猫は相当お腹が減っていたのだろう、直ぐに食べ終わってしまった。子猫は満足したのか、マサル君にすり寄ってきた。そして、「ニャ~オ。」と子猫は甘えた声を出した。マサル君は、「よ〜し、よし。僕が、お父さんと、お母さんに君を飼ってくれるようにお願いしてみるよ。」と言って、子猫を撫でた。

 マサル君は、家に帰り、夕飯の時に、両親に子猫を飼って良いか尋ねた。しかし、両親は、そのことに反対した。「マサルは、タロウを飼っているでしょう。猫は飼えません。」そう母親から言われた。マサル君は、「お願い!お願い!痩せていて、可哀想な子猫なんだよ!」と両親を説得し続けた。しかし両親の意見は変わらなかった。

 それからも、雨の日は続き、雨の日になると、子猫は、ガレージで体を震わせていた。マサル君は、その日、その日に、子猫をタオルで拭き、温かい牛乳とパンを食べさせるのだった。このときは、タロウは、これで安心だ。マサル君が世話をしてくれれば、きっとこの子猫も元気になる。そう思っていた。

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