第8話 トーマスの嗜好

 トーマスと美智恵、吉岡が約束の日に喫茶店に到着するが、まだ飯原たちは来ておらず、店内で待つ事になった。10分程談笑していたが、流石に従業員の圧が強くなり、三人はアイスコーヒーを頼む事にした。注文をして店員が席を離れるとトーマスはその従業員の後を追いかけ、何やら会話を始めた。

戻ってきたトーマスの両手には溢れんばかりのガムシロップを乗せて戻って来た。

「そのガムシロップどうするの?」

「君達も使うかい?別料金で貰ってきた」

「私も吉岡もいつもブラックだから・・・」

 トーマスは優しさで持ってきてくれたのかも知れないと思い、やんわりと断りを入れた。普通追加で一個や二個頼む人はいるだろうが、テーブルに置かれたガムシロップを数えると一〇個もあり、とても三人で使い切れる量では無かった。

 そして席にアイスコーヒーが届くと、どう見てもトーマスの前に置かれたアイスコーヒーの量が少ない。トーマスはその七分目までしか入ってないグラスにガムシロップを一個、また一個と注いでいく。

コーヒーの中が氷とは別に透明なコントラストを描いていた。トーマスの前にだけ置かれたスプーンでそのコーヒーを混ぜ始めた。

「ねぇ、ガムシロ入れすぎじゃない?」

「甘いのが大好きなんだ」

 トーマスは笑顔で答えてくるが、とても甘党の一言で片付けられる量では無かった。

「一口貰っていいか?」

 吉岡が興味を持ったのか、トーマスのコーヒーを少し飲ませてもらった。

「美味しいだろ?」

 吉岡は想像はしていたが、その想像を遥かに上回る、液体とは思えないドロッとした濃度の高い砂糖水が口の中に入ってきた。その砂糖水はコーヒーの苦味や酸味を全て中和し、ほのかにコーヒーの香りが鼻に入ってくるだけで口の中は甘みしかない。

「甘っ!」

 飲んだ瞬間、口の中に甘みが広がり、必死に唾を作り出し、甘みを消し去ろうとした。

 三人がコーヒーを半分程飲んだ頃合いで飯原達が悪びれもせず、席に到着した。




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