第6話 トーマス

 美智恵が戸谷と別れた後、吉岡に会う為に経営学部の校舎に向かうと、途中でトーマスに出会った。

「確か、美智恵だったね。そんなに慌ててどうしたんだい?」

 トーマスはまるで、ビバリーヒルズ青春白書の登場人物の様に手を交えてオーバーリアクションとも言える仕草で美智恵を問いただした。

急いでいた事もあり、要点だけ話してその場を去ろうと動き出すと、トーマスが美智恵の肩に手を掛けた。

「面白い!」

「えっ⁉︎」

「僕も探すのを手伝っていいかい?」

 美智恵は何が面白いのか理解が出来なかったが、広い校舎の中無闇に探してもと今更ながら我に返り、トーマスと一緒に探すことになった。

「彼は経営学部だろ?だったらあっちの校舎にいる可能性が高い」

 トーマスの指差す先を見ると、そこは普段は授業では使われる事のない、有名人が講演を行う時だけ使われる講演会場だった。美智恵はそんなわけないだろうと、ため息をつき留学してきたばかりで校内を碌に知らないトーマスと一緒に探すことにした自分に後悔した。

「今日、校舎を歩いていたらトヨビシ自動車のCEOが講演に来ると言う紙が掲示板に貼ってあった。経営学部なら必ず聞きに行っている」

「えっ?」

 美智恵はそんな張り紙が貼ってあった事すら気づいていなかったのに、今日初めて学校に来たにも関わらずそんな細かい所までチェックしているトーマスに驚いたしまった。

「そんなに驚かないでよ。この世の中で僕の通る道にある情報は、全て頭に入れるようにしているだけだよ」

 トーマスの言っている事は常人では考えられない事だった。歩いている時に入ってくる情報全てを脳で処理していたら、とてもじゃないが他に何も出来なくなる。普通に考えれば嫌味にも取れる言動だったが、吉岡に一刻も早く会いたい美智恵は、普段の『あーいえばこう言う』性格はなりを潜めてしまった。

「凄い!トーマスあんた使えるじゃん」

美智恵は早速トーマスの手を握って講演会場に向かった。


「着いたぁ」

講演会場に着くと美智恵は扉を開こうとするが、トーマスに静止されてしまった。

「駄目だよ美智恵」

 そして先程と同じ様にトーマスは元いた校舎の時計を指差した。

「ここに講演時間が書いてある。まだ講演中だ。人に物を頼む時は礼節を重んじなければならない。それが出来ないと交渉事はうまく行かないよ」

「でも、この中に吉岡が居るとは限らないし・・・」

「君の目的は吉岡に早く会う事かい?それとも吉岡にお願いを聞いてもらう事かい?」

 ニコッと笑いながら当たり前の事を問いただした。いつもなら何か一つでも言い返す美智恵がトーマスに対しては突っ込む事すら出来ない。

美智恵達は、そのまま講演が終わるまで外で待つ事にした。

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