第3話 思い出の避難小屋
「吉岡と相談してみる」
美智恵との電話を切った綾子は、どうやって吉岡に伝えるかに困ってしまった。
(タカ怒るかな?でも14年も前の事だし・・・)
綾子がトーマスの事を好きだった事は当然知っている。そして吉岡は綾子の心からトーマスが消えるまで何も言わずに待っていた。そして付き合ってからも一度もトーマスの事を口に出すことは無かった。
吉岡が仕事から帰ってくると、久しぶりに美智恵から連絡があった事を伝え、戸谷の事も話すと、意外な反応を吉岡は見せた。
「もっ、もう、じゅ、じゅうよねんも前の事だし・・・」
普段冷静な吉岡が、まるで浮気現場に彼女が現れたぐらいの、しどろもどろになりながら、目の焦点が綾子と合わない。
「どうしたの?何か知ってるの?」
「いっ、いや、なっ何も知らない」
女性の感という曖昧なものでは無く、10年吉岡の事だけを見てきた綾子は何かを隠していると確信を持ち、強引に吉岡と共に戸谷に会いに行く事になった。
待ち合わせは車椅子に乗っている飯原の事を考えて、神住山の登山口から500m程歩いた所にある中坂小屋で戸谷と会う事になった。久しぶりの山登りに冬山でないとは言え緊張しながら吉岡達6人は小屋へ向かった。久しぶりに中坂小屋に着くが、懐かしさは込み上げて来なかった。理由は14年前と同じ木造の小屋だったが、戸谷の会社が管理する様になって改修され、面影も無い程に綺麗になっていた。小屋の中に入ると戸谷が出迎えてくれて、近くを流れる川の水でコーヒーを振舞ってくれた。
一向がコーヒーを飲みながら中を見渡すと外見とは違い所々昔の面影が残っている事に気づいた。
「懐かしいなぁ。ここでトーマスと上本が喧嘩したよな」
飯原が当時を懐かしむ様に突然本題へと話を進めた。
「そうだったな。東都大と早政大合同の楽しい登山になる筈だった。それが、俺の実力不足のせいでみんなを危険な目に合わせてしまった」
申し訳なさそうに飯原を見ながら、戸谷が謝罪した。だが、全員が今更謝罪されても14年も前の事である。誰一人として戸谷を恨んでいる者などいなかった。それよりも全員が気になっているのは、ペンション事業に乗り出し、小屋や休憩所を何故管理し始めたかだった。誰から話し始めるかを全員が様子を伺いキョロキョロと見回していると、
「俺を疑って来たんだろ?」
口火を切ったのは問い詰められる筈の戸谷だった。その戸谷は冷静にコーヒーを飲みながら大学時代を振り返り始めた。
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