憎悪

急にアンバーが部屋に訪ねて来なくなった。


二日程、姿を見せてない。


ベティに訊ねても言葉を濁して教えてくれなかった。


毎日頑張っていた訓練もやっと軌道に乗ってきたのに、ルイから暫く相手が出来ないからと言われ、部屋から絶対に出るなと釘を刺されていた。


それでいて城内は何が慌ただしい。


何が起きているのか不安になるが、それを知る術がない。


「…何なんだよもう…」


圏外のスマホの画面を開いたり閉じたりして暇を持て余す。


登山道具の中に小型のソーラーバッテリーがあったので充電はできる。


ただ、電話としては役に立たないのでカメラと音楽を聴くだけの道具になっていた。


「…なんだかんだ1ヶ月くらいか…」


もうここに来てあっという間に時間が過ぎていた。


自分が急に消えて家族はどうしてるのかな…


そんなことが脳裏に浮かぶ。


自衛官の父親と警察官の母は豪気な性格で、細かいことを気にしないタチだ。


電話は週一でするかしないかくらいだし、北海道に単身赴任中の父親とはしばらく会ってすらいない。


大学のために引っ越してからというもの、まだ母とは直接会っていない。忙しいそうだ。


「マジで息子が孤独死しても気づかなさそうだな…」


笑えない事を思いながら僕はスマホの写真を見てた。


猫の写真がいっぱいに溜まっている。


愛猫のルーだ。


どこにでもいる、白とグレーの毛並みにまだら模様の猫。


顔はキレイなハチワレで、耳の先だけ白い。


懐っこい性格で、何時もオレンジの鼻先を僕に擦り付けていた。


僕が大学に上がる直前に死んでしまったけど、一番仲のいい親友で兄弟だった。


懐かしい写真を見ながらベットでゴロゴロしていると、部屋の壁の向こうが急に騒がしくなる。


壁を殴る音と誰かが怒鳴っているような声が壁越しに聞こえた。


何事だろうと思っていると入口の魔法陣が光り、重なるように二人がもつれながら部屋に現れた。


「なるほど、お前が居ないと出入りできなくなったわけだな…陛下も面倒なことを…」


部屋に入ってきたのはベティとベティの首を腕で抱え込むように締めあげている青年だった。


ベティは青年の腕から逃れようともがくが、彼はさらに彼女に回した腕に力を込めた。


「あ、あぁ…ぐ…」彼女の口から絞り出すように悲鳴が漏れる。


何が起きているのか分からず、僕は目を見開いて動けずにいた。


そんな僕を青年が睨みつける。


彼は見たことがある。


最初の日にアンバーと一緒にいた褐色の肌のエルフの王子、イールだ。


「何でそんな事を…」


「…何でだと…」怒りを込めた声が低く彼の口から漏れた。


彼の顔を見てたゾッとした。


鬼のような形相で僕を睨みつけている。


こんなに強烈な怒りをぶつけられるのは初めてだ…


体が竦んで動けない僕にイールが吠えた。


「お前たちが!お前らのした事の報いだ!


人間め!人間なんて…人間なんて殺してやる!」


何があったか分からないがご立腹の様子だ。


何度も呪詛のように「殺す」と繰り返す青年は正気には見えない。


逃げるのが正解だろうけど、身体は言うことをきかない。


立ちすくんだままでいると、首を締めあげられていたベティが、イールの腕を振り払おうと強く噛み付いた。


「ぐぅっ!クソッ!」


噛み付かれた痛みに耐えかねて、イールはベティを床に叩きつける。


苦しそうに咳き込みながら起き上がろうとするベティにイールの蹴りが入る。


顔を蹴りあげられたベティが悲鳴を上げて床に転がった。


「貴様!まだ人間の味方をする気ならお前も殺してやる!」


イールは素早く短剣を抜き、ベティに向かって思いっ切り振り下ろした。


赤い血が床に飛び散った。


「ギャッ」獣のような悲鳴が部屋に響き、僕の全身が粟立った。


目の前で知っている人が刺された…


僕は力なくその場にへたり込んだ。


足に力が入らない…何も出来ない…


「グゥゥ…ギャオォ」獣のような呻き声を上げながら抵抗するベティ。


自分の体に刺さった短剣を抜き取られないようにしっかり掴んで放さない。


「返せ!クソ!獣が!」


苛立たしげにイールが怒鳴る。


蹴られようが踏まれようが、彼女は頑なに短剣を放さなかった。


不意に彼女と目が合った。


痛みを感じているはずなのに、彼女は僕に向かって微笑んだように見えた。


僕の中に恐怖とは別の感情が湧いた。


「うわぁぁぁ!!」


叫びながら目の前の青年にタックルした。何でそんなことしたのか分からないが、考える余裕も他の選択肢も無かった。


急に動いた僕に対応出来ずに、イールは僕の体当たりをもろに受けてよろけた。


「ベティ!ベティ!」傍に寄って声をかけると、彼女は少しだけ視線を動かして僕を見た。


出血が床に広がり続けている。


早く止血しないと…でもどうやって…


「そいつはすぐ死ぬ」


ゾッとする冷たい声が聞こえた。


「お前を殺しに来たのに、つまらない邪魔が入った。


所詮半分人間だ、私たちとは違う半端者だ」


「こんな事して…こんな酷い事して何とも思わないのかよ!?」


「人間が、私や、私の友ステファノにした事はこんなものじゃないぞ!」


怒り狂うイールは聞く耳を持たない。


ステファノって誰だよ?と思ったが今はそれどころじゃない。


どうやら友達の身に何が起こったらしい。


その原因が人間だったということだ…


イールが手を頭上に掲げたのを見て嫌な予感がする。


僕は慌てて、床に転がって動かないベティを抱き抱えた。


イールとは言葉が通じそうになかった。


戦うなんて度胸は僕にはない。


そうなると残りの選択肢は逃げるしかない。


そう思って出入口のタペストリーに向かって僕はダッシュした。


何とかしてアンバーに助けてもらわないと…


「逃がさん!二人とも死ね!」


イールが「アヴァロム」と声を上げた。


後ろで嫌な気配が蠢き、獣の気配がした。


ヤバい、ヤバい!


なんか分からんが危険だ!


無我夢中に逃げる僕の背中に衝撃が走った。


無様な悲鳴をあげて壁に叩きつけられる。


痛い…


顔を上げると、さっきの衝撃で一緒に飛ばされたベティが床に倒れていた。


「ごめん、ベティしっかり…」


左の腕が上がらない。脱臼したみたいにジンジン痛む。


それでも動く方の腕を彼女に伸ばした時、大きな獣の足が彼女を容赦なく踏みつけた。


生暖かい獣の息が僕の顔に当たる。


「うっわぁぁぁ!!」悲鳴をあげて慌てて後ずさった。


牛くらいの大きさの漆黒の狼が目の前で牙を剥いていた。


黄色い凶暴そうな目玉が僕にロックオンされている。


声も出せないが息も出来ない。


指一つ動かせない。


「アヴァロム、そいつらは私の敵だ」


狼がイールに命令されて飛びかろうと身構える。


手で咄嗟に頭を庇った。


噛まれる!そう思ったが、狼は何故か僕に向かって唸るのを止めた。


恐る恐る顔を上げると、その場で困ったように足踏みしながらキャンキャン吠えている。


「どういうつもりだ、アヴァロム!


その人間を殺せと言ってるんだ!」


イールがアヴァロムに怒鳴りつけるが、狼は巨体を伏せて困ったように僕とイールを見比べた。


もしかして、と思い、恐る恐る腕を差し出す。


狼は僕の腕を避けるように尾を丸めて後ずさった。


狼が怯えた原因を見てイールが叫んだ。


「何でその腕輪をお前が持っている!」


僕を守ってくれたのはアンバーから貰った腕輪だったらしい。


「クソッ!人間のくせに!何なんだよお前は!!」


アヴァロムが尻尾を巻いて逃げ出したので、彼のプライドが傷ついたらしい。


もしくは、僕に特別な腕輪が渡されていた事が気に入らなかったのだろう。


「お前は絶対生かしておかない!


私たちの国にお前みたいな人間は必要ないんだ!!」


怒り狂ったイールは僕の髪の毛を鷲掴みにして床に叩きつけた。


抵抗という抵抗も出来ずに頭の衝撃に体の自由が奪われる。


華奢な腕をしているくせに、思った以上に力がある。


「人間がステファノにしたように、手足を切り落とし、目玉を抉って内蔵をぶちまけてやる!」


彼はまくし立てるようにそう言って、僕の腰に下げた剣に手をかけた。


「…何だ?何で抜けないんだ!畜生!」


イールが剣を乱暴に引き抜こうとするが、剣は鞘に収まったままビクともしない。


焦燥感が怒りを増幅させている。


「もういい!」と叫ぶと剣を抜くのを諦めて、イールはやり方を変えた。


僕に馬乗りになって首に手をかけた。


体重をかけて力一杯締め上げる。


「死ね!お前なんて!この国に必要ない!死ね、死んでしまえ!」


自分を正当化するためなのか、彼はずっとそんな事を言っていた。


頭がぼんやりして何も考えられなくなる…


僕は…死ぬんだ…


ベティに悪いことをしてしまった。


守ってくれようとしてくれたのに、無駄にしちゃってごめん…ごめんねベティ…


✩.*˚


陛下に先日の襲撃事件の事後報告を済ませて、ふっと奇妙な勇者のことが過ぎった。


部屋から出るなと釘を刺していたので暇を持て余しているかもしれない。


「シャルル、先に戻っていろ。私は用事を片付けて戻る」


連れていた部下にそう告げて、城の一角にある勇者に宛てがわれた部屋に足を運んだ。


「…何だ?」


何やら部屋の方から嫌な臭いが漂ってきた。


鼻の利く私にはそれが何の匂いかすぐに分かった。


鉄の錆びた匂いと混ざって怒鳴り声や争う声が聞こえてきた。


次いで獣の悲鳴を聞いた。


「ベティ?!」


悲鳴は彼女の声に似ていた。次いで耳に届いたのは「殺してやる!」と言う怒号だった。


聞こえてくるのはミツルの部屋からだったが、その声は彼ではなかった。


「イール様が何故…」


第一王子は人間が大嫌いなはずだ。


自分からわざわざ出向くとは考えられないが、さっき彼が自分の口から目的を発していた。


「殺してやる」と…


明確に殺意を持って行動しているのは明らかだ。このままではベティとミツルの身が危ない。


陛下から出入口の魔法陣を書き換えたと説明を受けていた。


中に入るには陛下か、ベティの許可が必要だ。


焦る気持ちを抑えて、できるだけ冷静に対応しなければ…


この場を離れる訳にはいかない。大袈裟だが、首から下げている警笛を取り出して息を吹き込んだ。


警笛は鋭い音で城内を駆け巡った。


何事かと、先程別れた部下が戻って来た。そして陛下もすぐにミツルの部屋の前に駆けつけた。


「ルイ、何事かね?」


「陛下、申し訳ございません。イール様がご乱心です!


私をこの中に入れてください!勇者とベティが危険です!」


これだけでは説明不足だったであろうが、陛下はすぐに状況を察して、私に「行け」と命じた。


陛下の許可を頂戴し、魔法陣の綴織タペストリーは我々を受け入れた。


隠し部屋に部下と共になだれ込むと、目の前には勇者に馬乗りになったイール様の姿があった。


その両手はミツルの首を締め上げている。


急に現れた侵入者に驚いたイール様は、視線をミツルから私に向けた。


この際、順位などは関係ない。目の前の強行を止めるために、体当たりしてイール様をミツルから引き剥がした。


イール様はぶつかった衝撃で弾き飛ばされたが、すぐに立ち上がると私を睨んで怒鳴りつけた。


「ルイ!貴様、兄に向かって何をしたのか分かってるのか!!」


「私は陛下の命令に従ったまでのこと」


《陛下》と聞いたイール様の顔がみるみる青ざめた。


「イール…」と背後から陛下の声がした。


その場に現れた陛下の姿に、イール様も言葉を失った。


眼窩にに光る赤い光が一際強い光を放っていた。陛下の入室で、部屋の空気が一瞬にして凍えるほと寒くなる。


やましい事がなくとも、この空気に本能的に恐怖心を抱いた。


陛下は部屋を移動すると、倒れていたミツルの傍らで膝を折った。


「イール、本当にお前がやったのか…」


陛下の問いかけに、イール様の息を飲む気配が伝わった。


ミツルの左腕は変な方向に曲がり、首にはくっきりと手形の痣が残っていた。


近くに倒れているベティに至っては、出血が酷く苦しそうに浅い息をしている。彼女は必死にミツルを護ろうとしたのだろう。


もっと早く駆けつけていれば、と胸が痛んだ。


陛下は懐から皮の巾着を出して、その中からポーションのアンプルを取り出した。


「ミツルとベティに飲ませなさい、口に流し込むだけでいい」


居合わせた部下にポーションを預けて、陛下はゆっくりイール様に歩み寄った。その圧に押されて、あの気の強いイール様も後ずさった。


「ここで何があったのか、お前の口から聞きたい。


イール。お前がしたことを正直に話しなさい」


口調は穏やかだが、その言葉に乗った怒りが伝わってくる。


イール様が答えなくとも、血まみれのローブが何があったのかを物語っている。


「わ、私は…私は、ステファノの仇を…」


ようやく絞り出した声は震えていた。


自らを正当化しようとする言葉に、陛下の纏う気配が更に禍々しいものになった。陛下の怒りが部屋の空気に満ちた。


「ステファノがそう望んだのか?


それともウィオラがそう望んだか?


違うだろう?お前の勝手な、個人的な感情だろう?」


陛下の言葉に、イール様は口を噤んで俯いた。弁解の言葉は更なる怒りを呼び込むだけだ。


「ベティは忠実に私の与えた命令に従った。


ミツルは命の危険があったのに剣すら抜いていない。


それに比べてお前はなんだ?」


陛下の問いかけにイール様は俯いたまま答えなかった。


大きなため息を一つ吐いて、陛下はさらに言葉を続けた。


「答えがないのならよい。お前には失望した…


イール、お前の処分は追って下す」


陛下は何も言えないイール様に背を向けた。


「そのポーションは応急処置だ。


医者メディコスを手配を頼む。


イールからは第一王子の地位を剥奪する。


西の塔ウェスト・トゥーリムに幽閉せよ」


陛下からのイール様への処遇はかなり重いものだった。


「お言葉ですが、陛下…


あそこは随分使われておりません…仮にとはいえイール様を幽閉するには…」


「命令だ」と短く厳しい返答は私の意見を拒絶した。陛下の強い怒りにそれ以上意見などできるはずもなかった。


✩.*˚


「二人の容態は?」とルイの部下に声をかけた。


このような事態になるまで気付かなかったとは…


自分の無能さに腹が立つ。イールの怒りは理解できなくもないが、だからといって無関係の二人を巻き込んで良いことにはならない。


「医師の判断がなければ何とも…


ただ、出血は止まりました」という返答に胸をなでおろした。大事には至らなかったようだ。


「分かった、代わろう。お前はルイを手伝え」


短く「御意」と答えて、彼はベティの傍から離れた。


床に寝かされていたベティを抱き上げると、彼女はまだ短剣を握っていた。


まだ凄い力で握っている。絶対に渡さないという意志を感じた。


「ベティ、聞こえるか?」


ベティの瞼が少し揺れた。


アンバーはまた新しいポーションを取り出してベティの口に注ぎ込んだ。


閉じていた瞼がゆっくりと開いた。


右目が赤く充血している。


彼女は目を覚ますなり、すぐに周りをキョロキョロと見回した。


「ミツルなら大丈夫だ」とアンバーが告げると、ベティは安堵したのかボロボロと涙を流した。


短剣を握っていた手の力が抜ける。


「申し訳ありません…申し訳ありません…」


「謝るのは私の方だ。


イール相手にベティはよくやってくれた。」


彼女の忠義を褒めて、乱れた髪を撫でた。彼女の手から力が抜けて、乾いた音を立て凶器は床に転がった。


彼女を抱き上げて、床からミツルが使っている寝台に移動させた。


「少し休みなさい」


「ミツル様のベットが汚れてしまいます。


私は床で…」


「気にするな、また新しいものを用意する。


今は無理せず休みなさい」


できるだけ優しい声でベティを労い、次いでミツルの元に駆けつけた。


「ミツル、ミツル…」


彼に声をかけると、ミツルは視線で反応を返してくれた。


ベティほど酷い怪我では無いものの、喉を潰されているから苦しそうな呻き声を上げるので精一杯のようだ。


くっきりと残った手形が痛々しい。


「一度ならず二度までも、君を危険に晒した…


本当にすまない…不甲斐ない私を許して欲しい」


「…ご、れ…」


ミツルが掠れた声で何か伝えようとする。腕を重そうに上げて私に腕輪を見せた。


「ごれが…だずげで、ぐれだ…」


王子の腕輪。


部屋の隅で黒く固まっているイールの使い魔の事だろう。


恨み言を言ってくれてもいいのに、彼は私に助けられたと言ってくれた。


なんとも優しい子だ…


その言葉に私の抱えていた黒い感情が柔らかくなるのを感じた。


「そうか、役に立ってよかった。


苦しいだろうから無理して喋らなくていい」


「…アンバー」


「何だ?」


ミツルは私が思いもしなかったことを口にした。


「ステファノのこと…教えて…」


思いもよらない言葉に、返答に窮した。


何故彼のことを知っているのか、と思ったが、イールが彼に教えたのだろう。


まだ黙っていたかったが、彼も無関係ではなくなってしまった。仕方ない…


「分かった。体調が戻ったらきちんと話す。


だから今は休んでくれ」


ミツルは私の言葉を信じてくれたようで、微笑んで小さく頷いた。


とりあえず、きちんと処置ができる医者が来るまで二人とも安静だ。残念ながら、私は治癒魔法が使えない。


いつまでも床に転がして置くわけにはいかない。ミツルを抱き上げて、ベティが横になっているベッドに彼を寝かせた。


ミツルの姿を見たベティは慌てて身体を起こそうとした。


「やあ、ベティ」


何とも気の抜ける口調でミツルが彼女に話しかけた。


「ベティのおかげで助かったよ…ありがとう」


「そんな事…私…」オロオロと返事に窮するベティを見てミツルが力なく笑った。


「僕は何も出来なかった…


いつも世話ばっかりかけてごめんよ…


大怪我だったでしょ?大丈夫?」


「自分の心配してください!


何で、もう…あなたって人は…」


ベティがまた泣き出してしまった。


顔を手のひらで覆って泣き出してしまったベティに、ミツルは何度も「ごめんよ」と謝っていた。


「僕、ルイに殺されるかも…」ミツルがボソッと呟いて笑う。


「ルイさ、ベティの事好きらしいよ。知ってた?」


急に脈絡もなくとんでもないカミングアウトを始めたミツルにその場が凍りつく。


頭が働いてないのだろうか?


そこにルイがいるのだが、ミツルは気づいてないようだ。


「僕のせいで怪我させちゃったし、泣かせてしまったから…ルイにぶっ飛ばされるかも…


ベティ、守ってくれる?」


「はい」ベティが真面目に返事をする。


「引っ掻いて噛み付いて蹴り入れて追い払います」


「…いや、僕の話聞いてた?


そんなの好きな人にされたら立ち直れなくなるよ…ルイってあの見た目で割とハート弱いから…」


「ミツル、もう喋らない方がいい。本当に喉が潰れるぞ。


あと、ルイに怒られても知らないからな」


「えー…黙ってて下さいよ…」


「いや、本人そこに居るから…」そう言って部屋の入口付近を指さした。


ルイの背中からは不機嫌そうな空気が滲んでいる。耳は後ろを向いているし、尾は苛立たしげに揺れていた。


「え?うっそ!何で?!」ミツルは驚きの声を上げて咳き込んでいた。やはりまだ喉が苦しいらしい。


「彼が私を呼んだんだ。助けて貰ってそれは無いだろう?」


ルイは咳き込んででむせているミツルに恨めしげな視線を送って低く唸った。


「ミツル…お前後で覚えていろよ…このお喋りが」


やれやれ…今度はこっちか…


勇者の存在が、しばらく悩みの種になりそうだ…

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