第2話 真実の序章
七年前
木村典江は元夫である
家を出てすぐ出会った長野隆二との間に子供が出来て結婚した。決して子供が出来たからと言う訳では無く、隆二の真面目な所が大好きだった。煙草は吸わなかったし、常に隣を歩いてくれる懐の深い男性だった。
しかし、結婚して五年ぐらいした頃から典江が煙草を嫌っているにも関わらず吸うようになった。育児をしている時も、煙草の煙と匂いが部屋中に充満して邪魔で仕方が無かった。何度も喧嘩をして、煙草を止めなければ離婚をすると幾度となく離婚届を突きつけた。しかし、隆二は娘の為に離婚をする気は無いと素気なく返してきた。そんな隆二には嫌気がさしていた。
しかし、あの日は違った。典江が離婚届を突き付けたら、隆二は「もう、無理だ」と、突然大きい声を出して荷物をまとめて出て行った。典江はようやく出て行った隆二に対してせいせいした気持ちしかなく、家の平和を壊す犯罪者を退治したぐらいにしか思えなかった。
(煙草を吸うゴミと一緒に娘を育てたら、遥子が不憫で仕方がない。)
稼ぎ頭の隆二が出て行った木村家では、贅沢は出来なかったが、典江のフルタイムでのパートと国からの支援で凌いできた。典江は遥子がいたから頑張り、娘の為ならと朝晩働き、趣味のウィンドウショッピングで試着を楽しんでストレスを発散し、つつましやかに生活をしてきた。
そんな自分の幸せより、娘の生活と言う日々の中、衝撃の法改正が行われた。
財政赤字が膨らむ政府が増税を重ねた結果、独身者と子供がいない世帯を中心に反発が強まり、原則生別世帯への児童扶養手当が廃止された。原則というのは離婚時にDVが認められた場合は除外された。この法改正は一部では悪法やら改悪と言われてしまう物だった。児童扶養手当を目当てにありもしないDVをわざわざ訴えたり、補助を受ける為に自ら傷をつけて訴える者が多発した。
典江は調べれば調べるほど納得が行かなかった。児童手当とは元々、死別世帯を対象にして支払われる遺族年金が元になっており、生別に対しての不公平感から生別世帯へも支給されるようになった制度である。それなのに、ある日突然生別した世帯にだけ不支給が決定された。独身者や子供がいない世帯の言い分としてはら自分で結婚して、自分で離婚したくせに、年間約50万円、10年間で500万円の税金を受け取るのは不公平と言う。
しかし、全員が自分勝手に離婚しているわけでは無い。子供の事を考えて離婚している家庭も多い。典江の家庭でもゴミを排除する為に離婚を選択した。それなのに一方的に廃止を決められた。
(今ある国の支出を減らす前に、取るべき所から取る方が先じゃ無いの?子供を育てると言うのは日本の未来を育てる事と一緒で、独身税を取る方が先でしょ?子がいない世帯より、子がいる世帯を優遇するのは当たり前じゃないの?)
考えれば考えるほど怒りが込み上げてきた。
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