第4話 《4》悪役令嬢は不安に思う

 それは、私の元婚約者だった王子が色々やらかしてせっかくギリギリ王族だったのに王籍から放り出されたらしい。との風の噂を耳にした頃のこと。





「えっ?こっそり娼館に通っていた事が発覚した上に娼婦に特殊なプレイを強要して断られたら権力を振りかざして暴れて娼婦にケガをさせて、追い出された先で酒に酔って全裸になったと思ったらたまたまそこにいた御婦人(老女)に襲いかかって女性蔑視発言した上に赤ちゃんプレイを要求した?しかもその御婦人が陛下のお母様の従兄妹で、隣国の現国王の母親?!……ソレって未だに現役で国政を動かしていらっしゃる女傑として有名な方じゃないのぉ?!」


 久々に聞いた元婚約者の噂はとんでもないものだった。


「あらまぁ、それで王籍から抹消されて鉱山に労働奴隷として送られたと……」


「婚約者であったお嬢様の暗殺計画を企てた事は(ムカつきますが)有耶無耶にした親バカ陛下も、さすがに今回は無理だったようでございますわ。しかも、有耶無耶にしていたそのお嬢様暗殺計画も芋づる式でバレたようでして……大変お怒りになり、王子を処分しないのならばそれなりの考えがあるとかなんとか脅されたと……いい気味でございます」


「へぇー。それは大変だったみたいねぇ」


 王子ルートだったはずのヒロインにも見捨てられた王子の結末などなんの興味もないが(暗殺されるところだったし)、そんな特殊性癖を持っていたならヒロインに見捨てられるのも納得だ。というか、もうマジほんとに婚約破棄できてよかったぁ。と心底思うくらいしか感想が出てこないが。


「御主人様は、もう王子の事は気にならないの?」


「……ルーク?!また突然背後に現れるんだから」


 またもや背後に姿を現したと思ったら侍女たちがいるのも構わずに後ろから腕を回し私に抱きついてくるルークにドギマギが止まらない。


 あぁ、今日もかっこいい。好き。あんな王子なんか今となってはどうでもいいが、王子が浮気してくれたおかげで今ルークがこうして私の側にいてくれるのだと思えば感謝しなくもない。だからといって同情なんかしないし助けようとも思わないが。


「え、王子の事?別にどうとも……」


 そこまで言ってから、もしかして元婚約者が酷い目に合ってるのに冷たい薄情な女だと思われたかしら?!と不安になった。だが、私の気持ちは全100%ルークに傾いているので元婚約者に割り振る分は欠片もないのだ。


 だって、ルークが好きすぎてめっちゃ好きなんだから!ああぁ……やっぱり今日も極限大好きぃ!!好き過ぎて溶ける!


「あ、あの……薄情かもしれないけれど、もうそんなに王子の事をどうこうとは思わなくて……」


「……御主人様」


 やっぱり、冷たい女だと思われたわよね?でも嘘はつけないわ。そうよ、所詮私は冷酷無慈悲な悪役令嬢だもの。攻略対象者であったルークはヒロインのように無償の愛を振り撒くような女性が好きなはずなんだから、私のような悪役令嬢なんて……。


「よかった。じゃあ、トドメを刺していいよね?」


「へ?」


 にっこりと、それはもうにっこりと。極上の笑顔を向けたルークは「もしも御主人様がまだあの王子になにかしら思う所があったらそれなりに裏工作してからにしようかなって思ってたんだけど、なんとも思ってないなら堂々とどうにかしても大丈夫だよね?」と早口に言い捨て、私が「う、うん。うん?」と曖昧に頷くものの、嬉しそうにしながらすすすーっと私から離れ、どこかに行ってしまったのだった。







「ルークは、どうしたのかしら?」


 もしかして本当なら真実の愛の相手となるはすだったヒロインの元恋人がどうなるかが気になったのだろうか?それとも、悪役令嬢である私の事を見極めるつもりだったのか……。これがヒロインならば例え一度は見捨てたとしても無償の愛を向けて助ける為に翻弄した事だろう。きっとルークはそんなひたむきなヒロインを愛したはずだ。ルークに愛される為にはどうするべきかなんてわかりきっている。


 でも、私には無理だと本能が告げるのだ。だって私の愛は全部ルークにしか向かないのだから。


 無償の愛?博愛主義?そりゃ、小動物とかなら愛でたりするし、幼い子どもを見れば可愛らしいとも思うけれど……ルーク以外の攻略対象者に#そんな気持ち__愛情__#など出てくるはずがない。無理に自分を偽って着飾ってもそんなメッキか剥がれる瞬間はすぐやってくるだろう。後から「嘘つき」とルークに罵られるくらいなら最初から素直に言動する方がいいと思ったのだが……。



 首を傾げる私に侍女が「そうですね……、でもルーク様なら安心していいのではないですか?ルーク様ですから。だってルーク様ですよ?」となにやら念押しするように告げてからお茶の準備をし始めたのだが、なぜかルークが公爵家の中で確実に地位を築いている気がしてならなかった。


「……うーん?」


 再び首を傾げるも、ここまで使用人たちの信頼を勝ち取っているルークなのだからそれなりに公爵家の事も考えてくれてるのかも?とも思う。元々ルークは自分の気持ちに一直線な性格のはずだし、治癒師と覚醒したものの公爵家のおかげで命拾いしたと思い込んでいる事もあり、恩義に感じているはずである。ルークとはそうゆう人なのだ。そして、なによりも……ルークは未だにヒロインを腹違いの妹と勘違いしているはずだ。


「ルーク……」


 もしも、本当の事がわかったらルークはどうするのだろうか?実はヒロインは半分血の繋がった妹ではなく、本当は血の繋がりなど無く堂々と愛し合える存在なのだと知ったら……。


「……ルークは、いつまで私の従者でいてくれるのかしら」


 思わずそんな不安を口にすると、その場にいた使用人たち全てが「いや、一生いるでしょ?確実に」とツッコミを入れてきたのだが、なんで?








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