第31話 今の僕に出来ること(1)
僕は緊急クエスト『ダルタンを救え』で異世界サルバルート王国の王都付近の森に転移した。そしてその森で五人の白狼族と出会い、ダルタンが三日後に処刑されることを知った。
夜が明けて、夜通し火の番をしていたラスカル以外のメンバー四人が起きてきた。僕はそれを見てラスカルと話した後に作っていたサンドイッチと暖かい飲み物を結界テーブルの上に並べていく。そのサンドイッチは食パンを横半分に薄く切ったモノにマヨネーズを塗って具材を挟んだものだ。(カラシがあったら良かったけど無いので諦めた)
具材は厚焼き玉子焼きとレタス。そしてハムとトマトを挟んだモノの二種類だ。僕は中学までは幼馴染みと桜子さんとで料理をよくしていたので割りと得意なのだ。
そして暖かい飲み物は粉末のコーンポタージュだ。それとあっさりしたものも必要かとリンゴジュースも並べておいた。
「「春馬兄ちゃん、おはようだぜ!」」
朝から元気なリンドとランド。二人はテーブルに並べてある朝食を見て「うはー!朝からご馳走だぜ!」「春馬兄ちゃん、朝御飯ありがとう!」と賑やかに話しながら椅子に座る。
そして食べるのを待って、他のメンバーに早く座るよう急かしている姿が微笑ましい。(すぐに食べると思ったけど意外だな)
「春馬さん、おはようございます。朝食の準備をお手伝いしなくてすいませんでした」
そう言って僕の前に来たのはアンナを抱き上げたサリーナだ。そして抱かれたアンナはまだ眠たそうな顔をしている。(うーん、いつも眠たそうな目をしてるからよく判らん)
「サリーナさん、アンナちゃん、おはよう。朝食は簡単なものだから大丈夫だよ。それよりもリンドとランドが待ちきれないみたいだから、早く座ってご飯食べようか」
「ふふ、はい判りました」
そのサリーナは昨日の夕食と同じ場所に座り、抱いていたアンナを椅子に座らせる。他の皆も同じ席だ。僕とラスカルも席に着くと手を合わせて一斉に挨拶する。
「「「いただきます!」」」
そう言った僕はハムサンドから食べる。ハムの塩気とトマトの酸味がバランスよく、そしてマヨネーズが二つの味を纏めてくれる。(うん、普通に美味しいね)
前を見るとリンドとランドが同じ様にサンドイッチを食べていた。
「この薄切りの肉?生なの?でも旨いな!これなら幾らでも食べれるぜ!」
「リンド!この卵が入ったやつも旨いぜ!特にパンに塗ってある白いのが最高だ!春馬兄ちゃん!これなんてソースなの?」
さすがマヨネーズ。異世界でも人気だな。
「はは、これはマヨネーズって言うんだ。卵から作ってるソースなんだけど、保存方法も含めて作り方が少し難しいんだ。僕の村から持ってきたから街とかでは売ってないと思うよ」
それを聞いて残念な顔をするリンドとランド。そして密かにサリーナも悲しげな顔をしていたのには笑った。
「はは、サンドイッチは多めに作っておいたから、残ったら持っていってね」
「はい!ありがとうございます」
喜んで一番に返事をしたのはサリーナであった。(ふふ、喜んでもらえて嬉しいな)
「サンドイッチも旨いが、このコーンポタージュか?お湯に溶かすだけでこんな美味しいスープが飲めるのは凄いな。冒険者達に売れば大儲け出来るぞ?」
そう言ったのはラスカルで、カップに入れたコーンポタージュを美味しそうに飲んでいた。
「そんなに珍しいの?でもそんなに数が無いんだよね。ラスカル達にも少しだけど分けるから飲んでね」
「ほんとか!1人で狩りに行くこともあるから助かる。春馬ありがとうな」
そんな感じで賑やかな朝食が終わり、ラスカル達は王都に戻る準備を始めた。と言っても肉になる獲物を狩る事が出来なかった為に、手荷物は武器と少しだけ物が入ったリュックのみなので直ぐに準備が終わる。
そのラスカル達は春馬の前に横並びになって別れの挨拶をするのであった。
「春馬兄ちゃん、美味しいご飯ありがとう!今度は俺達の家にご飯を食べに来てくれよな!」
「「待ってるぜ!」」
二人で息を合わせ挨拶をするのは最後まで元気なリンドとランド。
「春馬さん、とても楽しい1日でした。リンドも言ってましたけど王都に来られたら会いに来てくださいね。アンナも待ってますから」
そのアンナはサリーナと手を繋ぎ顔をふせていた。寂しいのだろうか。僕はそのアンナの前まで行き膝をついて視線を会わせるようにした。そして魔法の腕輪からタルクにと買っていた黄色のリュックを取り出した。そのリュックの中にはお菓子が詰まっている。
「アンナちゃん、これは僕からのプレゼントのリュックだよ。この中にはお菓子が入ってるからリンド達にも分けてあげてね」
その春馬の言葉に顔をあげたアンナの瞳からは大粒の涙が流れている。そしてそのアンナはリュックを見ることなく春馬に抱きついた。
「お家で待ってるから必ず会いに来てね」
そう言ってアンナはリュックを受け取りサリーナの元に戻って行く。その顔は少しだけ頬を赤くしていた。
うん、これは絶対会いに行かないとアンナちゃんに怒られそうだな。
「アンナちゃん、必ず家に遊びに行くから待っててね」
「ははは、随分とアンナに懐かれたな。もう嫁に貰ってやれよ。それから王都に来たら必ず顔を出せ。なにか協力出来ることがある筈だ。俺達は親友なんだから遠慮はするなよ」
ラスカルはそう言って僕の肩を強く叩いた。それはまるで「一人で抱え込むな」と言っているようだった。
「ありがとう、ラスカル」
僕の言葉にラスカルは頷き、そして四人を連れて王都に向けて歩き始めた。その白狼族の五人組は時々振り返り、僕に手を振ってくれた。
僕はこの白狼族から色々なものをもらった。それは人の暖かさ、心の安らぎ、思いやり、そして親友だ。
「よし、これからダルタンを助ける為に、僕に何が出来るか確認しよう」
僕の武器はサバイバルナイフと魔法の腕輪、そして怠惰の魔法だ。この武器で戦えるようにこの森で二日費やして鍛えるぞ。
「待ってろよダルタン。必ず僕が助けて家族の元に連れて帰ってあげるから」
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