怠惰の神の使徒となり、異世界でのんびりする。筈がなんでこんなに忙しいの?異世界と日本で怠惰の魔法を使って駆け巡る。

七転び早起き

クエスト「アズール家族を救え」

第1話 ゴッズタイムキリング

 僕は中里春馬なかざとはるま。十七歳の高校二年生。


 広島県のとある街に住んでいる。両親は共に雑貨の輸入販売店を経営をしており、裕福な家庭になると思う。そして僕には少し歳の離れた兄と中二の妹が居る。


 兄の雅人は親の血を濃く受け継いで頭がよく、昨年大学を出て親の仕事を手伝い始めた。妹の真奈は頭がいいだけでなく、運動神経もいい上に容姿もいい。ただし性格はキツイ。

(小さい頃は、「お兄ちゃんのお嫁さんになるの!」と言って、いつも僕に付いて回って可愛かったのに‥‥)


 僕も頭の出来は悪くない。小さい頃から少し教えてもらうだけで何でも出来た。勉強も運動もだ。そして僕は勘違いをした。


『僕は何でも出来る特別な人間』だと‥‥‥


 小学生の頃は授業だけで家で勉強しなくても、常に上位の成績であった。仕事が忙しい両親は家に帰ることが少なかったが長男と可愛い娘に愛情を注ぎ、次男の僕はほぼ放置状態。

 家政婦が居るので困る事は無かったが、愛情には飢えていたと思う。


 何でも出来ると思っていた僕は、塾にも行かず勉強もしなかった。それでも成績は上位のままだった。だから両親も何も言わなかった。(放置状態だったしね)


 友達関係については、普通に遊び友達は居た。ただし親友と呼べる存在は居ない。

 僕は臆病者だった。人の意見を尊重して嫌われないようにしていた。自分が意見する場合は、反対する人が出ないように常に周りの目を気にしながら考えて発言していた。


 そんな僕は本音を言わず、人との間に境界線を設ける性格になっていた。人付き合いは悪くないんだよ?ただ、上辺だけ取り繕った人間関係だったけどね。


 そして僕は中学生になっても何も変わらない。塾も行かず勉強もしなかった。人間関係構築の為に部活はしたよ。バスケ部。


 バスケ部に入って友達は増えた。一線を引いた外側の友達が。一応は楽しい学生生活だった。だけど本音で話せる友達は居ない。


 そして中学後半になると感じてくる。学力が追い付かなくなってきている事を。そして徐々に成績が上位から滑り落ちていく。

 それでも僕は少し本気を出せばいつでも上位に戻れると思っていた。バカだよね。

 気が付けば中学生活あと僅か。そして真ん中より少しだけ下の成績になっていた。


 僕はやっと少しだけ頑張った。


 高校受験の為に勉強した。少しでもいい高校に入ろうと。僕は臆病だけど見栄っ張り。

 自分は特別な人間だと思っていたので頑張って勉強した。そして運も味方をしたのか、有名私立高校に入学することが出来た。


 だけどそこまでだった。


 さすが有名私立高校。僕は入学して最初のテストから常に成績は下位。そこで奮起して勉強すればいいのに長年の習慣はなかなか変わらない。そして上辺だけの友達付き合いも嫌気がさして一人で居ることが多くなった。


 そして家でダラけた生活を送るようになり、次第に学校に行くのも面倒になった。そんな僕は高校二年になると同時に引きこもり。


 季節は高二の夏。


「ふわぁ~、よく寝た」


 時刻は朝の10時を少し過ぎたところ。僕はベッドから起き上がると部屋のドアを開けた。部屋の前にはお盆に乗った朝食が置いてある。

 家政婦さんが作ってくれたものだ。僕はお盆を持って部屋の中に戻り、部屋の真ん中にあるテーブルに置いてから、テーブルにあるノートパソコンの電源を入れた。


 僕の部屋は十二畳と広い。セミダブルのベッド、勉強机、ラグを敷いた上に座の低いテーブルとソファーがある。床に座るタイプ。小さいけど冷蔵庫もある。そして部屋の隣は四畳ほどのウォークインクローゼット。

 なんと贅沢な部屋だろう。家政婦さんも居るし、引きこもりには最高の環境だ。


 ノートパソコンでお気に入りのアニメを見ながら朝食を食べる。朝食はサンドイッチとサラダ。僕が遅く起きる事が判っている家政婦さんは、冷めても美味しく食べれるものを準備してくれる。素晴らしい家政婦さんだ。


 僕はメモ用紙に『美味しかったです。ありがとう』と書いて、完食した朝食のお盆に添えてドアの外に置く。会って話をすることはあまり無いが、小学生の時からずっと勤めてくれている家政婦さん。唯一僕の境界線の中に居る人物と言っていい人である。


 冷蔵庫からコーヒーのペットボトルを取り出してテーブルの前に座る。そして僕はコーヒーを飲みながら立ち上がったノートパソコンでネトゲの検索を始めた。


「この間までやってたRPGはクリアしたけどあまり面白くなかった。なんかこう変わり種のネトゲがないかなぁ」


 色々キーワードを変えて検索するが、どれも似たような題目と内容のものばかり。そして十分ほど検索をしていると突然ノートパソコンの画面がブラックアウトした。


「えっ?なんで?壊れちゃった?」


 停電かと思ったがノートパソコンの電源ランプは点灯している。そして部屋のエアコンも元気よく作動していた。


 どうしようかと悩んでいるとノートパソコンの画面に文字が浮かび上がってきた。


『ゴッズタイムキリング』と‥‥‥‥


 そして静かに流れる音楽。その音色は心を落ち着かせるようでいて、闘志を掻き立てるようでもあった。


 僕がその音色に聞き入っていると、追加でメッセージが表示された。


『あなたは選ばれた。怠惰たいだの神に。


 あなたは怠惰の神の使徒となり、異世界で怠惰の神の信仰者を増やすのです。


 使徒となる or ならない


 ★一度だけのチャンス。「ならない」を選択した時点で二度目は無い。』


 いったいこれは何なのだろう。


 説明文かヘルプがあるのではとマウスで色々な場所を調べてみたが、二択の選択項目しか反応しない。僕は新手のウィルスかと思い電源ボタン長押しで強制終了したが無理だった。


 怖くなった僕はコンセントから電源コードを抜いてバッテリーパックも取り外した。だが画面は消えなかった。


 僕は震える手でペットボトルを掴み、勢いよく残りのコーヒーを飲み干した。そしてゆっくりと深呼吸をし、少し落ち着きを取り戻す。


(これは普通の事では無いよな。『ゴッズタイムキリング』か。訳すと「神々の暇潰し」となるが‥‥‥そして怠惰の神。僕が引きこもりだから選ばれたのか?)


 僕は考える。そして答えを出した。


「とりあえず決めるのは明日にしよう」


 引きこもり必殺技「先延ばし」である。


 僕はまだ昼前だというのに、ベッドに戻り布団を被って深い眠りについた。


 さすが引きこもり歴半年。いつでもいつまでも寝れる技を修得済みであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る