第83話 技術班長の作戦(後編)

「僕の作戦はこの『蘇生の魔道具』を利用することだ」


 そう宣言するヒナタ。

 だが真意はまだ読み取れない。

 リラ、アイラ、それにワクは黙ってヒナタの考えを聞くことにする。


「『交換』によってリラちゃんの身体にハレーの魔力を吸収させるまでは同じだ。

 だけれどそれじゃ勢いは弱まらない。だからこの『蘇生』を使おうと思うんだ。

 リラちゃんが吸った魔力をこれに移し、更に発動させる。

 これによってハレーの魔力を吸い続けることができるはずだ」


 『蘇生の魔道具』は人間三人分の魔力が必要。

 リラの魔力量であるならば人間三人分の魔力などすぐに溜まる。

 その上で、魔道具を発動させることで溜めた魔力を消費。

 そうすることでハレーの魔力を半永続的に吸い出してやろうという考えなのだ。


 リラの思いつきを聞いた瞬間にここまで考えていたとは。

 さすが天才魔道具研究者。飛び級で技術班班長にまで上り詰めただけはある。


「でも待って」


 アイラが声を上げる。

 当然、その話を聞けば疑問が湧いて出る。


「つまりハレーの魔力をリラ様を介して『蘇生の魔道具』に移すってことよね?」

「そうだよ!」

「だったら直接、移すことはできないの? そうすればリラ様の精神が移る心配もないんじゃないの?」

「それができないんだよ……」


 ヒナタは首を振りつつ諦めたようにため息を吐く。


「理由は単純。『蘇生』を発動したら、『交換』の特性によって魔力が循環するからだ」

「なるほど……」


 その言葉を聞いてリラが頷いた。


「ん? どういうことだ?」


 ピンと来ていないのは専門家ではないアイラとワク。

 彼らに説明するためにリラが「え~と……」と空を見上げた。


「つまりですね。初めは『蘇生の魔道具』には魔力がないからハレーの魔力を吸収するんですが、溜まった魔力で『蘇生の魔道具』を発動したら範囲内に魔力が放出されます」

「そう。ハレーも『蘇生』も範囲型の魔道具。

 つまり有効範囲内に魔力が放出され空気を吸い出したり身体を治療したりする」

「その範囲が被ってしまって、真ん中に『交換の魔道具』があると両方に魔力があるわけですから、特性によって交換・循環が行われるんです」

「交換に移行すれば結局ハレーの勢いは変わらないままになる。それどころか永遠に終わらなくなるかもね」

「となると、やはり『交換の魔道具』と『蘇生の魔道具』の間につなぐ役目が必要になるんですね?」

「そうだよ。しかもできるだけ魔力貯蔵量が大きい方がいい」

「わたしがいた方がよさそうですね……あれ? ですが『蘇生の魔道具』とわたしはどう繋ぐのですか?

 持ったままだと、『交換の魔道具』の交換範囲で発動することになってしまいますよね?」

「そこであれの出番さ」


 そう言うと、ヒナタはワクを指差した。


「んぁ? 俺か?」


 急に指名されたワクは驚き目を瞬かせ自分を指差す。

 だが、ヒナタは首を振って、指をワクの腰に向けた。


「違う違う。ワクさんが持っているやつだよ」

「あ?」


 そう言って腰を見ると、ワクの腰には鎖で繋がった手錠のようなものがあった。

 ジャラジャラと音を立てて、ワクは持ち上げる。


「これのことか?」

「それ、『送魔の魔道具』でしょ? 隣国に出張に行った時、見かけたんだ」


 ギバとハレーが繋がれていた鎖だ。

 遠距離で魔道具を使うために作られたそれはその用途のためかなり長くできる。

 ワクは意図せずシュントを捕まえるために地下牢から持ってきていたが、まさかここで活躍できるとは。


「つまりわたしにその魔道具を繋ぎ、『蘇生の魔道具』に魔力を送るということでしょうか?」

「その通り! それであれば『蘇生』は『交換』の有効範囲外で発動できるし、半永久的に吸収できる!

 ハレーの魔力は尽きることも夢じゃないよ!」


 希望が見えてきた。

 色々な魔道具を組み合わせることにリラは年相応に興奮した。


「ぜひやってみましょう!」

「リラちゃんならそう言うと思ったよ」


 ヒナタがそう笑みを浮かべる。

 ワクとアイラも嬉しそうに頷いた。

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