第20話 傭兵のフリする貴族の娘、貴族の娘になった傭兵に魔力の使い方を教わる
「君は魔力というものを知っているな?」
屋内が徐々に騒がしくなってきた。使用人たちが動き出し、朝の準備が始まる。
そんな中、屋敷の中庭では、眉間に皺を寄せた偉そうな少女の前で畏まる壮年の男の姿があった。
リラ、そしてギバだ。
「はい。魔道具を扱う際に必要な力のことですよね?」
「そうだ」
そして魔力は平民よりも貴族、下級貴族よりも上級貴族の方が多い傾向にある。
もちろん例外はあるが、魔力の量によって格付けされると言っても過言ではない。
魔力を多く宿す貴族たちは、魔道具の扱いについて幼少の頃から学ぶ。
リラも当然学んでいて――学びすぎるくらいではあるが――扱うことも出来る。
「ですが、それとギバ様のコツとどういう関係が?」
「精製された魔力が使われず外に出されない時、どうなると思う?」
「え?」
質問に質問を返されて、リラは一瞬、戸惑う。
「そうですね」
だが、すぐに持ち直し、考えてみる。
魔力を使わない時。
そんな日は貴族のリラにとってはそんなにはない。
必ずどこかしらで使ってしまう。
門を開ける時だってベルの魔道具を使うのだから。
だが、全くないということもない。
そんな時、作られた魔力は身体の中に残り続けるのだろうか。
いや、違う。
魔力は毎日精製される。
もし残り続けるのであれば、使わなかった分は溜まり、いざ使う時に魔力量の大きい魔道具を扱えたり、魔力切れが起こることもほとんどなくなる。
だが、実際にはその人が扱える魔力には限りがある。
どれだけ休んでも自分の限界以上の魔力は引き出せないし、二日休んだら魔力が二倍に増えるなんてことはない。
じゃあどうなるのか?
リラは結論を出した。
「体内に吸収されるのではないでしょうか?」
勘で言った割には、思い出してみると、魔力を使いまくった次の日はなんとなく気怠い気がしていたが、そんなに使わなかった時はすこぶる元気。
ギバの無愛想な表情から滲み出る僅かな感情から見ても、この答えは当たりのようだ。
「そうだ。勘がいいな」
そんなことありませんよ、と謙遜しつつリラは密かに拳を握った。
「魔力は養分となり、吸収される。それは身体を癒し、筋肉を作り、力を与える。
君も魔力を使わなかった次の日は体調が良いだろう?」
「そうですね。ほとんどありませんが」
「貴族にとってはそうだろう。魔道具が生活の一部になっている。日常生活で使わない日はほとんどない」
「私たちがよく使う魔道具は残念ながら人工のものがほとんどですけどね」
つまらなさそうにそう言うリラ。ギバはそれに同意するように頷く。
「安価で量産可能な技術が近年発展したからな。と言っても平民にとっては高すぎるが……」
「そうなんですよね。使いやすくて便利なので人工の魔道具を使うのはわかりますがやっぱり天然の魔道具の方が良いんですよね、知ってます?天然の魔道具って唯一無二この世でひとつしかないんですよ。いえ、属性とか出力方法とか同じものはありますけど細かく見ると全然違くて。あもしかしてギバ様の剣って魔道具でしたか?いやでも魔力を少し込めてみましたが反応しませんでしたし」
「話を続けてもいいか?」
「え? あ、はい。すみません」
魔道具の話になると口の回りが早くなってしまう。
好きなものの話だから仕方ない。
ギバは呆れたように息をふぅを吐くと、
「残念だが、私の剣は魔道具ではない」
「……そうですか」
「だが、魔力を使わないわけではない。
話は戻すが、魔力は使われない場合、体内に吸収されると話したな」
「はい」
「逆に言うと、魔力は身体にも使うことが出来るということだ」
「!!」
リラは息を飲んだ。
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