(02)
「ごめん、寄ってもらって。そういえば、今日は朝ごはんは?」
与晴は言葉を濁す。
「食べようとはしてたんですが……」
「……やっぱり。はい。食べなさい」
つばさはおにぎりを差し出した。
「すみません。いつもありがとうございます……」
与晴は朝が苦手だ。所謂夜型人間。
寝坊や遅刻こそ一回もした事は無いが、朝ごはんを必ずと言っていいくらい食べて来ない。
ギリギリまで起きられず、時間が無いらしい。
彼のそんな生活を見兼ねたつばさは、ほぼ毎日与晴の朝食を持参している。
手軽に食べられるおにぎりとサンドイッチのローテーション。
だが、栄養を考えて中にいろいろ入れる。
つばさは与晴と真逆の朝方人間。
加えて、実家暮らしというのもあり、家に帰れる時は時間に余裕があった。
「そういえば、この間先輩が休みの日に、久しぶりにコンビニおにぎり食べたんですが、
こんなに不味かったかなって」
少しおかしな褒め方を、つばさは受け流す。
「はいはい。ありがとう。でも褒めてもおにぎり以外は出て来ません。はい、あと一個」
「ありがとうございます」
美味しそうに食べてくれる後輩の態度は嬉しいが、ふと不安が過った。
「……まさかこの前振られた原因ってこれじゃないよね?
ペアの女の先輩に、朝ごはんのおにぎり貰ってるとか言ってないよね?」
与晴は先々週、彼女と別れた。酷く落ち込む彼を慰めたのは記憶に新しい。
「言ってません。それが原因じゃありません」
「そっか」
「もう分析はやめましょ。振られたのは俺が悪いんですって」
なぜこの後輩が振られたのか、彼の横顔をじっと見つめつばさは考えた。
「あ、お米、付いてます?」
警察官にうってつけの凛々しい顔。
眼光が鋭いせいで、見下ろされると怖いなと時々つばさは感じていた。
「ううん。大丈夫」
彼は一度警察のポスターに載ったことがある。
幾度となく、つばさは同期や先輩に『イケメンとペアで羨ましい!』と言われていた。
しかし、つばさの好みは優しい柔らかい感じの男性。
しかも、つばさは与晴を後輩・部下・相棒以上として見たことは一度もない。
与晴のスタイルは良い。
高い背、細身だがガッチリした体格。
運動神経も良い。剣道五段で、かなりの遣い手。
「……中身の問題?」
性格は温厚、真面目。成績優秀。
順調にいけばもうじきに警部補に昇格できるはず。
たまに、お前は天然か!?と思ったことはあるが、とんでもない欠点は見当たらないと考えていた。
彼ではなく自分に原因があるのではないか?
つばさの思考は、悪い方向に走りはじめた。
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