第269話 取り戻した日常? その3

 ウォーターサーバ型魔道具を運用して以来、爪の根元に黒ずみが見えるようになる人はあまりいなくなったとのこと。だからといって、スイグレーフェンにいる回復属性持ちの魔法使いは遊んでいるわけじゃない。


 この国で消費されている、水以外の口に入るもの。例えば、穀物、魚、肉、野菜など。酒や他の飲み物もそうだね。


 一度ギルドを通されて、そこで『デトキシ解毒』をかけてもらってる。要は、経験値にしてるってことだね。目指せレベル2ってこと。


 一度の魔法発動で、食料品から全ての悪素毒が除去できているわけじゃない。それでも、ダイオラーデンだったころから比べると、天と地ほどの安全性になっているはずなんだ。


「うはははは。麻昼ちゃんはっきりくっきり真っ黒真っ黒、これはバレるってばさ」

「それくらいわかってるもん」


 やっと麻昼ちゃんの番になったみたいだね。


「さくっと、はい。完了。悪素毒含有量ゼロパーセントってとこだね」

「ありがとう。麻夜ちゃん。あ、でも。麻夜ちゃんの爪も黒いけど、大丈夫なの?」

「ちくちく痛いよ。でもこれは予定通りなのです。ね? 兄さん」

「まぁね。『ディズ・リカバー病治癒』っと。これで大丈夫」

「さっすが兄さん、『ギルドの聖人様』だね」

「それは言わない」


 麻夜ちゃんも麻昼ちゃんも笑ってるし。ほんと、双子だね。髪型が違うだけで、他はそっくりだ。


「そうそう麻昼ちゃん。エアリヲンだけどねん」

「うん」

「基本的に何でも食べるけど、焼いた肉なんかは薄味にするとおやつになるよ。この国で売ってる串焼きみたいなのは好きなはず」

「うん」

「走竜はものすごーく頭の良い子ばかりだからね、こっちの話は理解してる。だからね、満腹かどうか聞いてあげるといいよ」

「うん」

「あとね、走竜は基本的にきれい好き。部屋に入れても汚れないし、匂いも良いのよ。セントレナたんとかウィルシヲンたんはね、麻夜たちの部屋の中で寝てることが多いよ。あと、ブラッシングは大好きなはず。毛深いぬこさまだと思えばいいかな?」

「うん」

「どうしてもわかんないことあったらね、ビデオ通話するといいよ。麻夜がね通訳してあげるから」


 麻夜ちゃんが鑑定を持ってること知ってるわけね。


「うん、ありがとうね」

「それじゃそろそろ、出よっか? 麻夜ちゃん」

「うん。それじゃまたね、麻昼ちゃん」

「うん。朝也くんにもよろし――あ、いたし」


 朝也くんはエアリヲンに乗って、こっちに来てたみたい。もう仲良くなってるんだね。


「それじゃ、セントレナ」

『くぅ?』

「ワッターヒルズへお願いねん。セントレナたん」

『くぅっ』


 麻昼ちゃん、朝也くんに見送られつつ、俺と麻夜ちゃんはセントレナに乗せられて、スイグレーフェンを出ることになったんだ。


 次に向かうのはワッターヒルズ。俺が夜通し歩いたり走ったりして、七日の距離。それでも今のセントレナならあっという間なんだよね。ま、一時間以上はかかるけどさ。こっち向けも乗れる気流みたいなのがあるみたい。賢いよね、セントレナって。


 ▼


 上空から久しぶりに見る、ワッターヒルズの我が家。こぢんまりしていて、落ち着くな。それでもそれなりに広いけどね。


 敷地内に降り立った矢先に、駆け寄ってくる影があったんだ。


「ご無事でしたか? お館様」

「あ、コーベックさん。あー、ごめんね。うん。さらわれたけどなんとかなったよ」

「それは何よりにございます。それでですね、先日お預かりしました『属性表示補助板魔道具』の解析が完了しまして」

「ほうほう?」

「あー、兄さん。それ、長くなるでしょ? それなら麻夜、ギルド本部行ってきていい? セントレナたんに乗せてもらうから安全はだいじょぶだと思うし。ニアヴァルマさんに悪素毒の件、話しておくからさ」

「あ、悪いけどお願いできるかな? 俺も明日には出勤するって伝えておいてね」

「かしこまりー。セントレナたん、いこっか?」

『くぅっ』


 スイグレーフェンと違って、ワッターヒルズには聖属性魔法を持つ人も、回復属性を持つ人もいないんだ。ウォーターサーバ型魔道具しか、悪素毒に対抗する手がないわけ。


 ミーネレットちゃんという、黒森人族の子が回復属性を持っているけども、十歳だし、まだレベルは1だから慌てても仕方ないんだよね。一生懸命、反復練習はしてるって聞いてる。ワッターヒルズ、将来の神殿長は彼女しかいないからね。


 翌日早くから冒険者ギルドへ。麻夜ちゃんの経験値にするべく、五十人ほどの治療をしたらほくほく顔になってたんだ。もちろん、爪の根元は真っ黒だったけどね。たった五十人でこんなになるんだから、聖属性魔法ってかなりヤバいものなのかも。


 そのあと俺と麻夜ちゃんは予定通り、エンズガルドに帰ることになったんだ。『今度はもう少し面白い状態になっていると思います』、そうコーベックさんが目をキラキラさせて言ってたっけ。もちろん、ブリギッテさんは呆れてたな。いつもの光景だった。


「それじゃ、セントレナたん、いこー」

『くぅっ』

「それ、俺のセリ――ま、いっか」


 日が暮れる前に、エンズガルドへ到着。ロザリエールさんのマヨソースを堪能してから就寝。


 朝になって、俺たちは冒険者ギルドのエンズガルド支部へ顔を出したんだ。一応俺はほら、ギルドの総支配人みたいだからさ。ワッターヒルズだけじゃなく、ここでも仕事があるわけよ。エンズガルドとウェアエルズの悪素毒関連を報告してもらうのもあるからね。


 麻夜ちゃんと二人で歩いて行こうとしたら、さすがに止められた。仕方なくセントレナの背中に乗って冒険者ギルドへ。ギルドの建物に入って、ここの支配人で虎人族のジャムリーベルさんことジャムさんのいる部屋へ。


 コンコンとドアをノック。彼の一番上のお姉さんみたいに、問答無用で開けたりはしないよ?


「ジャムさん、入ってもいい?」


 バタバタと足音が聞こえたと思ったら、ドアが開いたんだ。


「た、タツマ総支配人。ご無事でしたか?」

「あのさ、ベルベさんかネータさんから聞いてるでしょう?」

「そだね。べるさんたちはもともとこっちだもんね」

「いえ、それはそうなんですけど」


 苦笑してるジャムさん。丁度お茶を飲んでたみたいだから、俺たちもご馳走にあずかることになったんだ。


「ねぇ、兄さん」

「ん?」

「ジャムさんのこれ、あれしてみたらどう?」

「あれって?」

「ジャグさんのときの」

「あー、ちょっとジャムさん。手いいかな?」

「悪素毒のあれですか?」

「んっと、『リジェネレート再生呪文』」

「…………」

「…………」

「あれ?」

「小さくならない?」

「「もしかして太ってなかったの?」」


 俺たちはアールヘイヴで、ジャグルートさんことジャグさんの身に起きたことを話した。するとジャムさんは、


「……この身体、筋肉なんですけども?」

「え?」

「え?」


 ジャムさんの巨体は、ジャグルートことジャグさんのような肥満ではなかったから、『リジェネレート』では治らないんだったのか。それは聞いてみないとわからないってば。


=== あとがき ===


新作はじめました。

タイトルは『スーパーヒーロー、異世界へ行く ~正義の味方は超能力で無双する~』です。


正義の味方の主人公が相棒の異星人と共に異世界召喚されて無双するお話です。


https://kakuyomu.jp/works/822139837569383371


よかったら読んでみてくださいね。

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