第9話 情報のありか




「別として考えるべきか」


 ふと誰かが呟いた。この面倒臭さそうな声は、成川さんだ。


 どうやら彼も、今の俺と同じ壁にブチ当たっていたらしい。


「別にして考えるには、あいつらは今回の事に関わりすぎてる」


 次に呟いたのは野村さんだ。


 皆考えがまとまったのか、少しずつ話始める。みんな最後に辿り着いた先は、あいつらとの事。


 なんでこのディスクを、俺の手に渡るようにしたのか…。


「国はリアムたちの件を隠してやがる。工事の事から、ディスクの件も誰かが隠そうとした」


 大野さんの声が響き渡る。


 ルナたちの犯行や、存在事態を隠している国。ゆりたちの件を調査するまえに抹消しようとした。隠す事での共通点。


 今回の事に関わっていたゆりたちの一家を全員亡き者にしたのはルナだ。一家の屋敷のディスクを取る時に手助けしたのは残りの四人の犯罪者。


「関係性は強いと見ましょうか」


 俺は静かに言った。


「そうだな」


 天音さんは静かに同意した。


 天音さんすげぇ笑ってるし。


「なんでお前そんな笑ってんだよ」


 大野さんが、呆れたように言った。


 言った…。今まで誰も言わなかった事を、大野さん言った。やば。


「だって、これで、進めるだろ?」


「………?」


「調べればいい。今野家を。徹底的に。今まで、何も手掛かりもなかったんだ。調べる先が出来ただけでも、凄い事だろ」


 天音さんは、微笑みながら、肩を上げた。


 た、確かに。ゆりたちの映像を見て、放心状態だったけど、天音さんの言う通りだ。


 これから調べるべきは、今野家。ゆりたちの両親の方だ。彼女たちの事を調べれば、何かしらは出て来る。そしてそれは、ルナたちに繋がる事かもしれない。


「あと、映像が撮られていたものなのかも、調べねぇとな」


 成川さんが、言った。


「でもよ、ディスクに映されていたのは、広い砂地だ。んな所あるか?誰も気付かずに、あんな大雑把な犯罪を犯せる場所なんざ」


 大野さんは、眉をしかめながら言う。


「そうだな…。今野家の所有地を調べるしかないだろう。よし、事務所に戻るぞ」


 野村さんが、静かに言った。


 一度、自分の席がある事務所に戻った俺達は、すぐにパソコンを開いた。


 パソコンの画面が、光を放ち始める。この四角い画面の中には、驚くほど多くの情報が詰まっている。何かを隠すのが、困難なほどに。


 俺たちは、無言でパソコンに向き合った。画面には、ゆりたちの遺体、そして、彼女たちの両親の遺体の詳細が乗っている。だが、彼女たちの家、に関しての情報はないようだ。


 次にネットで調べて見るが、出て来ない。今野家の仕事も、住処も、何も出て来ない。まるで、存在していないかのように。


 おかしい。あれだけの名門家が、何も情報が出て来ないなんて。どうなってんだよ。


「おい」


 いつもよりも低い、天野さんの声が聞こえて来た。


 顔を上げた俺は、無言で彼を視界に入れる。


「あったぞ。に」


 ………。


 極秘国のサイトに…?


「極秘国の運営側の名簿に、彼女たちの父親の名前がある。これだ」


 天音さんの声を聞き、俺たちは全員、目を見開いた。


「馬鹿な…。運営だと?とんでもねぇ奴だったんじゃねぇか」


 驚いたような声を出したのは、大野さん。


「どおりで、の詳細が何処にも出て来ない訳だ」


 背に持たれながら、野村さんが、固い口調で話した。


 極秘国サイトの運営。じゃあ、ディスクの映像は…。


 犯罪者同士の取引で利用される極秘国と呼ばれるサイト…。麻薬の売買や、殺人依頼、人身売買や臓器売買。表では出来ない取引が、そのサイト内で行われていると言われる。マフィアや過激団体、テロリストなども絡んでると言われる、犯罪者たちが集まる大規模なサイトだ。


 天音さんが、サイトのセキュリティに潜入出来たのなんて奇跡に等しいほど、中に入るのは難しい。


 それにしても、訳わかんねぇ。ゆりたちが、極秘国の運営の娘だったって言うのか。ルナたちも極秘国のの日記に載ってたって言うし…。


「人身売買の受け渡しが、今野家になってるな。でも、姉妹が住んでた住所じゃない」


 俺は、再び目を見開く。


 ゆりたちが住んでた屋敷じゃない。ならもしかして…。ディスクの…。


「別荘でしょうね。行きましょう」


 俺は、上着を取って立ち上がった。


 なんだろう。すげぇ、焦る。これは…何かのだ。


 何かが、分かる気がする。重要な、何かが。


「おいゆう!」


 誰かの声が聞こえた。でも、俺の足は進み続けた。


「くそ。俺たちも行くぞ」


 俺の後に続き、皆が上着を手に持ったのがわかった。




────・・・

──・・

─・





「おい。なんだよこれ…」


 野村さんの、戸惑いの声が、聞こえた。


 極秘国に記載された住所に辿り着いた俺たちのは、あまりの光景に、呆然と立ち尽くしていた。


「やられたな」


 舌打ちとともに、面倒くさそうな声が、耳に届く。成川さんだ。


 俺たちの目の前に広がるのは、果てしなく続く、建物の残骸だけだった。


「くそ…」


 俺は、下を向いて、拳を握り締める。


 やられた…。くそ。また、


 建物の残骸が大量に残ってるのを見ると、家が壊されたのはおそらく最近だ。ゆりたち姉妹が死んでから、すぐにこの別荘が取り壊されたんだろう。ゆりたちが住んでた、屋敷のときのように。


 こうして追いかけても、何をしても、伸ばした手からすり抜けるように、真実が、遠のいて行く。


 ふと、風が、髪を撫でる。太陽が爛々と俺たちを照らす中で、風は、肌をかすめて通り過ぎて行く。次から次へと吹いて来るその風は、俺の体を震えさせるほど、冷たいものだった。髪を大きく揺らしながら、風は止まない。そう、あの、氷のように、冷たい風が。


「いっ」


 成川さんが、声を上げた。


 成川さんは、自分の手を見ながら、眉をしかめている。


 まさか…。静電気、か?


 大野さんは、地面を凝視している。そして、野村さんは、何故か、壊された建物を見ながら涙を流し、天音さんは熱いのか、上着を脱いだ。


 ………。


 電気、土、水、火…。


「さみ…」


 俺が、小さくつぶやいた時、野村さんたちが、ゆっくりと顔を上げた。


 互いの顔を見合わせる俺たちは、皆で目を丸くしていた。皆の頭には、ある人物たちの顔が浮かんでいるのかもしれない。俺と同じように。俺の頭にも、美しい少女が浮かんでいた。


 これは…ルナたちの力なのか。


「帰るなってか」


 成川さんが、絞り出すような、掠れた声を出した。まるで、独り言のように。


「探し…ましょう」


 やべぇ。寒くて声が震える。


「必ず、何かがあるはずです」


 寒い。これが、ルナの力だって言うなら、まだだ。まだ終わってない。


「あぁ」


 涙を拭いた大野さんが、力強い声を上げた。


 俺たちは、建物の残骸に向かって歩き出した。


 冷たい風が止んだのは、歩き出した時からか、瓦礫がれきに辿り着いた時からか。


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