真実編 第二章

第6話 見つけた



「間違いねぇな」


「はい。ですね」


 ブワー――――――――――ン!!!!!!


「くっ」


 耳が貫くほどの爆音と共に地面が揺れた。


 我に返ったように今の事態を目の当たりにする。


 くそっ。もう爆破するってのか!?


 一つの爆破が合図のように、今度はあっちこっちで爆発音が鳴り響いた。爆音のたびに大きく揺れる振動に立っていられなくて、案の定俺の膝がガクっと下に折れて行った。尻餅を付いたような格好で堪えしのぐ。


 何個仕掛けてんだよ。


 キーーーーーン……。


 繰り返される爆音に、耳なりが聴覚を埋め尽くす。


 くそっ。耳が…。


 部屋が揺れ、何か木くずのようなものが頭に振って来る。頭に手をかざして木屑きくずを掃うような仕草をするが、次から次へと降って来る状態にはあまり意味はなかった。


「ゆう! ディスク取って行くぞ!」


 そ、そうだディスク!!


 堪え難い振動が納まったのを確認して、ディスクを取り出した。


 焦りなのかなんなのか、手が思うように動いてくれない。ディスクをケースに入れるのでさえ苦戦するほど。適当に入れて、ポケットの中に突っ込んだ。


 焦りのため自動的に進む足の速度が速くなる。


 バン!!!!!


 ドアノブを握って勢いよく押した。


 ………。


 嘘だろ…。


 戸はびくともしなかった。


 くそ。先程の揺れで戸が歪んだのかもしれない。窓は小くてとてもじゃねぇけど出れないし。冗談じゃねぇ。立ち止っている時間なんてねぇのに。


「どけ!」


 後ろから声が聞こえて来た。


 振り向くと、戸に蹴りを入れようと足を上げている成川さんの姿が目に映った。俺は素早く戸から離れると、成川さんの足はそのまま戸に向かって行った。


 ガン!


 大きな音を立てる。


 つか成川さんあぶねーし!絶対俺ごと蹴ろうとしてた。


 戸は全然開く気配ねぇし。こうなったら、二人でやりまくるしか。


「成川さん! 俺もやります」


 疲れきった足に力を入れる。


 俺と成川さんは、無我夢中で戸に蹴りを入れたり体当たりしたりしていた。


 バン!バン!バン!


 猛攻撃を繰り出す俺たちだが、戸はびくともしない。


 俺は、何度も何度も体当たりを繰り返した。


 バン!バン!バン!


 虚しく鳴り続ける音。


 肩がジンジンと脈打っているのが分かる。成川さんも、足を抑えてうずくまっていた。


 いてぇ。


 右手を抑えながら戸にまた体当たりをした。成川さんも、立ち上がって体当たりをする。


 ガターン!!


 勢いよく突進した甲斐があってか、ドアは俺と成川さんの体と共に前へ倒れ込んだ。


 頭に鈍い振動が来る。一瞬目眩が起こったが、すぐに体勢を立て直した。


「おっしゃぁ! 成川さん!」


 ガラにも無く小さなガッツポーズを決め、成川さんにハイタッチを求める俺。


 成川さんも、嬉しさのあまり手を上げて俺とハイタッチしようとしたが、寸前で我に返ったのか、急いで手をおろして下を向いた。


 成川さんを笑って見る俺。やべぇこんな嬉しいの始めてかもしんない。


「喜んでる場合じゃねぇ。急ぐぞ」


 目の前に広がるのは、赤一色の世界だった。


 ゆりの部屋付近で爆破が起きたのか、辺りは悲惨な状況になっていた。炎に包まれる辺りと、変わり果てた真っ黒な炭。すべてを燃やし尽くす炎は、出口の前に大きく立ちはだかった。


「げほっ」


 息を吸うだけで自動的に出て来る咳は、堪えきれずに淡々と外に出て行く。


 くそ…他の道を…。でも煙で目が痛くて開けられない。やっと立ち上がった膝は、直ぐにガクっと下に折れて行った。


 成川さんと俺はしゃがんだ体制になり、押し寄せる咳の連発に腕を口元に回していた。目は染みるような痛みに襲われ、成す術がない現状に焦りの感情が押し寄せる。


 く…………そ。こんな所で…。こんな所で立ち止ってる暇はないんだよ!


 ボア…。ん?


 なんだか少し風が流れて来たような気がした。風‥?煙と熱風に包まれた肌は、澄んだ風に敏感に反応する。無理矢理目を開けると、炎の壁に少しだけ隙間が出来ていた。


 人一人くらい通れそうなほどの小さな空間。


 一部だけ、何かに区切られているように、ポッカリと穴が空いているようだった。


 な…んだ?


 急に開いた空間は、外の風をこちらに呼び寄せる。俺はしゃがんだまま、しばらく呆然と眺めていた。


 こんなの、ありえない。


 非現実的な現状に、頭がのろのろと回転し始める。


 炎…炎…。浮かんだのは、目の前に広がる。初めてみた時、なんとも言えない雰囲気には恐怖すら覚えた。すべての炎を操り、犯罪者の雰囲気をそのまま身にまとった少年。


「マテオか。天音の」


 成川さんが、掠れた声で言った。


 マテオか。でもまてよ。あんな一部だけ炎の中、開けられても、無理だろ通れないだろ。ここで死ぬか、彼処あそこに飛び込んで火傷するか選べってか。


 俺は足に有りったけの力を入れ立ち上がった。


 選択肢は二つじゃない。選ぶものが一つしかないからだ。そんなの決まってる。


 命より大切な物なんて無い。


「成川さん行きましょう。二人で一列になって行けば、通れます」


「あぁ」


 成川さんもまた、立ち上がり、炎の壁に空いた穴を直視する。


 よし、行くぞ。俺は心の中で覚悟を決めて、目を瞑り、その隙間に突進した。


 重たい足は、まだ俺の言う事を聞いてくれている。視界には小さな空間。走り出した足を止めずに俺は隙間の中に入り込んだ。通る瞬間、全身焼けるように熱い感覚に襲われる。


「ぐ…」


 熱い‥。でも足を止めちゃいけない。


 炎の中の隙間を走り抜くと、最後の扉が目の前に現れる。


「うああ」


 動きが鈍くなった足に最後の力を絞り込み、俺は止まる事なく突進した。


 扉はすんなりと開き、勢い余って俺たちは転げ落ちる。


 バタン!!!


 砂地に転がる体は、足の感覚を失っていた。


「人だ! 人が出てきたぞ!!!」


 辺りに響く声。


 力を無くした足に最後にほめ言葉を投げたい所。


だが


「ぐぁぁぁ」


 腕が焼けるように熱い。


 腕に痛みが集中し激痛が走った。


 俺と成川さんは、地面に転げ回りながら、腕や足が燃える痛みを声に出して絶叫した。


 くそっ!火を貰って来ちまった。


「あぁぁ! くそっ」


 早く皆にディスクの中身を見せなきゃいけないのに!


 ザザザザザ!!


 ……!!!?


 大量の砂が目の前に映る。


 燃えている俺の腕に向かって、そして燃えてる成川さんの足に向かって、砂の塊が一斉に襲いかかって来た。


 嘘だろ、おい。砂、砂…。もう考えなくても誰の力かなんて直ぐに分かる。土は野村さんの担当、ルーカスだ。


 納得した時には、俺たち砂に埋もれていた。


「だぁぁぁ」


 砂の一粒一粒が、火傷の傷に触れてまたも激痛が走る。


 俺と成川さんは、またも絶叫した。


 くそったれが。火を消すなら、どう考えてもリアムの水だろなんで砂なんだよ!!


「ちょっ…あんたら大丈夫か!?」


 工事のオンチャンたちが何人か駆け寄って来た。


「ゆう! 成川!」


 この声は…。

 

 野村さん?


「すみません、ちょっと」


 野村さんは工事の人たちを掻き分けて、俺の所へ小走りで来た。


 野村さんの姿を視界に入れると、俺は慌ててポケットに手を突っ込んだ。


 ディスク、ディスク…。


 あ…。


 体の力が抜ける感覚に捕らわれる。


 あった…。


「野村さん、これです」


 ディスクを取り出して野村さんに渡した。


 彼は一瞬不思議そうな顔をしていたが、直ぐに驚いたような顔でディスクを見つめた。


「これが?」


 野村さんの問いに、俺は小さく答える。


「はい」


 ディスクを竜さんに渡した瞬間、体の力が抜けて行く感覚に襲われた。


 やっと渡せた。


 あー疲れた。なんだか凄く眠い。火傷を負った手の感覚も、なくなって来た。


「俺も、ま、だ…少ししか見ていな、いのですが、それです。間違いない…です」


 疲れがどっと来ると言うのはまさにこの事だろうか。


 野村さんにディスクを渡したら、なんだか凄く安心感にかられた。


 目的が達成されたような感じだ。


「しっかりしろ! ゆう、成川!」


 野村さんの声も、なんだか耳に入って来ない。


 あー疲れた。眠気にはいつだって勝てない。


 視界がゆっくりと暗闇に染まって行く。


 俺の意識は、そのまま徐々に遠ざかって行った───。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る