─紫の問─ 謎編

第一章

第1話 涙の理由

  


 その時、目の前に映ったのは、血まみれの少女だった。


 彼女は砂の上に一人立ちすくみ、絶望の夜に髪を委ねている。


 サラサラと、綺麗な紫の髪が夜に混じる。


 紫の綺麗な髪に、手を伸ばしたのはなんでだろう。


 俺は彼女に近寄って、手を伸ばしていた。


 指先が少し肩に触れた時、彼女がこちらに向いた。


 彼女の目を、俺は今でも忘れない。それは、愛情に飢えている野獣の目のようだった。彼女の目は、憎しみに満ちた愛情を知らずに生きて来た者の目だ。まるで、氷の目。


 触れようとした指先が無意識に離れようとする。


 闇に染まった真っ暗な瞳は、月の光に反射して不気味に輝いて見えた。だけど、それでも手を伸ばしたのは、俺の目には愛情に飢えた野獣の目がとても悲しく見えたから。


 触れた頬は汗ばんでいた。いや、汗ではないのかもしれない。おびただしい真っ赤な液体は、彼女の頬の色を変えていた。


 凍り付いた野獣の目は、和らぐ事を知らず、俺を睨み据えている。


「あの時」


 無意識に言葉が出た。


 不思議だ。なんだかすごく悲しい。泣き出しそうになる。


「逃げてごめんな」


 静かに言ったら彼女の目は月の光を更に求めた。


 不気味に輝く瞳は、暗闇の中、唯一彼女を見つけ出せる小さな光。

 

 彼女の表情を見て、自然と笑みが溢れた。


 お腹に違和感を感じて、ゆっくりと視線を下に下げた。


 彼女の手は赤く染まっていた。


 彼女は先程と変わらずに俺を睨んでいる。


 彼女の姿が妙にぼやけて見える。意識が遠退いて来るってこんな感じなのかな。


 薄れ行く意識の中、最後に見たものは、やっぱりあの、冷たく凍った瞳だった。




―――・・・

――・・

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