全部全てさよならだ

みみみ

まともな幸せ

「ずっと好きだったんだ。」

卒業式の日、校門前の桜の下でそう言われた。小中高と同じ学校で仲が良くて、けれど大学は全く別の場所に行くことになった。彼から放たれた言葉は告白なのかと思ったけれど、彼はそういう積りでは無いらしい。彼の中では先程の言葉はもう終わった話で、この卒業式という日を一種の区切りにしようとしているらしかった。彼は愛の言葉を自分に吐いて、そして口を噤む。俺の顔が酷く醜く歪んでいることに気が付いたのだと分かった。

「俺はまだ好きだよ。お前のこと。」

俺は意趣返しのようにそう言った。風の音に掻き消されないほどにはハッキリとよく通る声が出た。俺が望んでいるのはこれからの彼にも自分を愛してもらうことで、彼には自分を諦めてもらうわけにはいかなかった。強い風はざあざあと桜吹雪を舞い上がらせ、自分たちを飲み込んだ。まるで二人だけの世界がそこにあるかのようだった。

「あのさ、男同士なんて普通に考えてまともじゃない。やめなよ。」

そう言った時の彼の顔は、桜に攫われ見られなかった。俺は彼がまだ自分を好きでいてくれると信じたくて、だからこそ顔を見る事が出来ず安堵する。自分は彼のことがずっと好きで、今でも好きだ。一歩彼の方に踏み出すと、地面の土が砂利と共にザクリと音を立てる。彼は俺が近づこうとするのをじっと見つめていた。

「僕はもうお前と離れたいんだ。」

彼が温度の無い言葉を言い放つ。温かい筈の春の空気が余りにも虚無感を覚えさせた。

「…俺には、お前が必要だよ。」

「残念ながら、僕にはお前はいらない。」

素気無く彼は答えると、逃げるかのように俺の目の前から遠ざかる。彼が別の友人の元に走っていったのだと気が付いたのは、彼が見えなくなって春の陽気を体に感じるようになってからだった。

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