第8話
それから数日、大戸は不思議と、源一郎と会話するのが憚られた。元々は源一郎の大切なものを守るための嘘なのに、それでも心にささくれがあるみたいだった。しかしながら向こうはそんな事情も知らない。
「どうだ、難解な部分はないか? 解釈が分かれる箇所はないか? 解説が聞きたい内容はないか? フフ、我が直々に詳しく説明してやらんでもないぞ!」
「ああ、いや大丈夫だよ…、こういうのは自分で理解してこそじゃないかな…」
源一郎は、露骨に暗い顔で「そうか、やるな。貴様の魔術への理解度は我に並ぶかもしれんな…」とボソボソ呟いた。
大戸は分かっていた、いつまでもこうやって誤魔化してもいられない。いつかは源一郎に返さなくてはならない。しかし高橋くんが学校に本を持ってきたら自分はどうなる? そうなると、高橋くんには学校の外で返して、今後持ってこないようにしてもらうしかない。それもおかしな話だ、何故高橋くんには全く関係のないことで、高橋くんの趣味を奪われなければならない? 大戸は結局何も行動出来ずにいた。カバンの中にはずっと、今日こそは返そうと思ってずっと魔本が入っていた。
昼休み、曽根は大戸を校舎の裏に連れて来た。そこには早川たちが揃っていた。
「あの本ってさ、本当に燃やした?」
早川の口調は、明らかに全てを察しているかのようだった。それでも大戸は「うん、本当に燃やしたよ」そう誤魔化した。「じゃあコレ何なの?」早川の取り巻きが大戸のカバンを取り出し、そして中から源一郎の本を抜き取った。
「お前バカだろ、どっちに付いた方が良いか普通分かんないか? あんな変なやつの味方するか?」
そして早川は、大戸の腹を蹴った。「顔はやめとけよ、目立つから。肩とか太ももとかにしとけ」
その頃魔王の息子は、弁当を食べていた。いつもは魔本を読みながら弁当を食べていたのだが、今日は弁当を食べているだけだった。源一郎は思った、なんとなくヒマだ、と。源一郎はクラスメイトに話しかけられることはあっても、自分からはあまりしなかった。というか、そういう間柄の人間をあまり作らなかった。大戸は数少ない、自ら話しかける相手。源一郎は彼のことを探しに行った。「かの者はどこに潜んでいる。我にも時間的余裕があるし、魔術について教えてやろう」
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