31. 魔王

 クーデル町を後にして進み、村をいくつか経由して王都ヘドリックに到着した。


「なんだ、珍しいな人族か」

「あ、はい」

「そっちは獣人たちにエルフだな」

「そうです」

「ようこそヘドリックへ。はい次の人」


 門番に一応、人相チェックをされる。

 よかった勇者一行として指名手配されていないかドキドキした。


 魔都はそれなりに広い。

 門からみて一番奥に大きな魔王城が建っていた。


 俺たちはそのままダメ元で魔王城に向かった。


「何の用だ」

「見れば分かると思いますが、人族の商人でして」

「まあそうだな」

「珍しいものを魔王様直々に何か交換や販売できないかと思いまして伺いました」

「そうか」

「はい」


 緊張の一瞬だ。


「分かった。一時間後にまた来てくれ。それまでに確認しておく」

「ありがとうございます。助かります」


 よかった。なんとか第一関門は突破した。

 そして一時間後、また来た。


「魔王様はすぐにお会いになる」

「そうですか」

「ああ、異国の品々を楽しみにしているそうです」

「分かりました。よろしくお願いします」


 こうして俺たちは、商人として普通に魔王に面会する機会を得た。

 まさに、何食わぬ顔、というやつをして、緊張しつつも、一般人を装う。


 ついに大きな大きな扉の前に立った。

 この向こうに長い旅の終着点、魔王がいると思うと、重圧が掛かってくる。

 手に汗を握る。

 でも今は大丈夫、俺たちは商人、そう商人ということで一つ。


「人族の商人たちご一行様、入ります」


 衛兵が声掛けをして、大扉が開いていく。

 その向こうにはまず地面に赤い絨毯じゅうたんが敷かれている。

 一番奥には、魔王、そして大きな王座の椅子。


 あれ、魔王ちっちゃくね。


 巨人の角が生えたいかつい顔のおっさんが魔王だと思っていたのに。

 なんかちんちくりんのそれも幼女。肌色は青灰色だけど、小さな三センチぐらいの角が生えている。

 身長は俺たちの中で一番小さいアリスぐらい。


「どうしたのじゃ、入ってまいれ」

「し、失礼します」


 俺たちは剣を収納魔法でしまった状態だった。


「まずは大きな魔力結晶などどうでしょう」

「ほうほう」


 俺は、アイテムボックス持ちの一人アリスにうなずく。


「おお、これはこれは、いい魔力結晶だな。これなら人類の帝都に大魔法を打ち込めそうじゃ」

「そ、そんな」

「お。本気にした? うそうそじゃ。魔王的ジョーク」

「さ、さようで」


 見た目はちびっこだが、本性は分からない。年齢だって実際のところは不明だ。


「じゃあこれは魔剣イビルレオソードと交換でどうじゃ」

「どうじゃといわれましても、その剣がないと分からないので」

「そうだな。おい爺。魔剣イビルレオソードもってまいれ。売る」


「は。さようで」


 横に控えていた爺さんが礼をして取りに行った。

 待っている間、会話とかしないとな。

 と思っていたら、すぐに戻ってくる。お早いお帰りで。


「なかなかいい品ですね」


 俺はそれっぽいことを言うがよく分からん。本気で商売しようという気はない。


「では交換で」

「よいよい」


 こうして交渉成立した。

 いよいよだ。演技が試される。


「次は武器一式です」


 今度はピーテのアイテムボックスから俺たちの「使っている」武器を取り出した。


「片手剣、片手剣、両手剣、杖、杖ですね」


 それぞれが自分の武器を手にもって、魔王に対峙たいじする。


「それで魔王様」

「なんじゃ」


 いぶかしげに見てくる魔王。そりゃそうだろう。


「お覚悟を。魔王様、魔王国の人類への侵略行為、見逃すわけにはいきません」

「うわーん。商人じゃったはずなのに、今見れば、おのれ、我ら勇者一行ではないか」

「そうです」

「そんな、ひどいのじゃ。わし、何にも悪いことしていないのじゃ」

「しかし歴史は魔王国の侵略と記載されています」

「それはもう、ずっと前の魔王なのじゃ」

「そうですね、そうみたいですが」

「わしらはもう砂漠を横断してまで、人族の領地まで行こうなんて思っておらんじゃん」

「問答無用お覚悟」

「うぎゃあ」


 こうして、魔王と剣を突き合わせる。

 キンキン、シュッ、キンキンキン、シュ。


 たまに避けつつ、剣でも防ぐ。


「おのれ魔王」

「わーん」


 俺は短距離テレポートを使用し、魔王の目の前ぎりぎりに転移、剣を首筋に当てた。


「魔王、お覚悟」

「降参じゃ」

「最後に言い残すことはないか、魔王」

「わーん。分かった。魔王負けなのじゃ。わしもあの子たちみたいに忠誠奴隷になるからゆるしてたもう」

「あ、奴隷、奴隷ちゃんになるの?」

「はいなのじゃ」

「そっか、それじゃあ、しょうがないかな」


 こうして戦闘は終了した。

 奴隷商人が連れてこられた。


「魔王様、本当に、人族の、忠誠奴隷におなりですか?」

「そうだが」

「分かりました。いいですね」


 魔王に首輪をはめる。

 そして小さな幼女魔王様は、俺の前にひざまずいて、足の甲に口づけをした。


「う、うううう」


 魔王が奴隷の試練を受けていた。


「はあはあはあ、終わったのじゃ。そうだな。わしのことは魔王ちゃんとでも呼んでくれ」

「魔王ちゃん」

「もっとこっち近づいて、ちょっとかがんでお願い」


 俺は魔王に目線を合わせるようにかがんだ。


「勇者、しゅきになっちゃった」


 ちゅ。


 魔王が俺の口にキスしてきた。幼い顔でも女の子だった。




 こうして世界は平和になった。

 俺たちは魔王ちゃんも連れて、一度ワープで帝都によって報告をした。


「なんと魔王を捕まえてくるとはな。倒すのよりよほど難しいだろうに」

「まあ、いろいろあって」

「ははは、そなたらしい」


 皇帝には笑われてしまった。


「それで地球に戻りたいんだけど、そういうわけにもいかないですよね」


 俺は周りを見回す。俺の奴隷たちプラス、フルベールがいる。


「奴隷たちはそなたなしでは生きられないからな」


 まあ厳密には生きられないわけではないらしいが、醜聞が悪いというやつだ。

 忠誠奴隷をほっぽらかして主人がいなくなるのは浮気とみなされる。


 ワープでアリスの両親のいるセルフィール王国の王都フクベルまで戻ってきた。


「おお、アリスよく無事で。みなもよくやった」


 王様は今日も元気らしい。


「これでホクトも王子だな」

「俺、王家入りするんですか」

「ああ、忠誠奴隷であっても、うちの子だからな」

「そうなんですね」

「まあ、何か気が変わるまで王都でゆっくりしていきなさい」


 こうしてフクベル城に滞在が決まった。

 奴隷ちゃんたちは、魔王を加えてから嫉妬して俺に余計ベタベタしてくるようになった。奴隷でないフルベールもまんざらでもない。

 しょっちゅう胸を押し付けてきたり、キスを迫ってきたりする。

 俺はたじたじして逃げ惑うのみ。


「ご主人様ぁ、ホクト、キスしてください」

「ほっぺにチュしてにゃ」

「ホクトキスがほしいウサ」

「フルにもキスして。おっぱいにしてもいいよ?」

「むきー。魔王ちゃんが一番最初にキスしてもらうんじゃあ」


 やれやれ、魔王を倒したのに俺の周りは前より騒がしい。

 前は魔王を倒すまでは、とセーブしていたらしいのだ。


 はあ、ハーレムがいっちょ完成してしまったらしい。これからも大変だ。


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