27. イノシシと帝都

 イノシシレースの二回戦。もうだいぶ慣れたものである。


「与太郎、二回戦目も頑張るぞ」

「ブーブー」


 いい子いい子と俺はイノシシの与太郎を撫でてやる。

 今回の対戦相手は普通のお姉さんと冒険者風のおじさんだった。

 今回は、特筆すべきことはなく、三人とも普通な感じで進み僅差きんさで一着になった。


「兄さん、なかなかやるじゃねえか」

「あの異国の冒険者、油断ならねえ」


「ホクトさん、カニまで後一勝です。頑張ってください」

「ケガしない程度に、ぼちぼち頑張ってね」


 ソティとピーテも応援してくれた。


「三位までは決定ですね。さすが見込んだだけのことはあります」


 俺をスカウトしたウェコエが声を掛けてくれる。

 賭けとかの準備ために、決勝戦まで若干時間があった。


 俺たちは休憩で、イノシシスープという物を飲んでいた。

 トマトとイノシシの肉の入ったミネストローネみたいなやつだった。

 そこそこうまい。

 でも与太郎の前でイノシシスープというは気まずい気もしないでもない。


 声のでかいのが取り柄の司会進行の人が発言する。


「いよいよ決勝戦です。参加者は準備をお願いします」


 俺は与太郎を連れて行ってスタート地点でスタンバイする。


 今回は右から俺、二十歳ちょっとぐらいの青年アデル、左側が一六歳くらいの女の子デイジーだった。

 俺以外はこの村の住人みたいだ。

 アデルはなんか目が切れ長というか目つきが悪い。

 一方のデイジーは笑顔が可愛い、明るい子のようだ。


「よーい。スタート」


 三人とも同時にスタートした。

 アデルはいきなり左側に進路を取って、デイジーを妨害し始めた。

 そのままデイジーのイノシシを突き飛ばしてしまう。

 デイジーは何とか踏ん張っているけれど、遅れてしまう。


 次のターゲットは俺みたいだ。

 アデルは今度は右側に寄ってきて、俺を突き飛ばそうとする。

 しかし左へ右へと移動したので、若干俺の方が速かった。

 俺はそれを無視して、ひたすら進む。前へ前へ。


 そのまま障害物ジャンプになり、俺はひたすらアデルを無視して前へ進む。

 アデルは障害物があるためうまく俺を邪魔できずにいた。

 結局そのままゴールまで進み、俺の優勝で終わった。


 すぐに表彰式になった。


「では、優勝は冒険者のホクト。副賞は大陸ガニ一匹まるごとだ。おめでとう」


 声の大きい司会の人が俺の優勝を告げて、大会は終了した。


「「優勝おめでとうホクト|(さん)」」

「カニありがとうございます」


 若干一名、なんか違うが、皆で祝ってくれた。


 今日の晩ご飯は宿屋でお願いして大陸ガニを料理してもらう。

 まずは、新鮮なので生ガニの塩茹で、グラタン、パスタなどを作ってもらった。

 ウェコエもご飯には呼ばれて、四人娘と俺とで食卓を囲む。


「今回は特別だよ、さあさあ皆お食べ」


 宿屋のおばちゃんが勧めてくる。

 薄い塩味とカニの甘味が大変美味しい。

 カニは大量だったので、同じ食堂に居合わせた人たちにもおすそ分けをした。


「カニ、カッニッ、カニカニカニ」


 ソティはいつものカニの歌みたいなのを言っていた。もうこの歌一生忘れないんだろう。


「ソティさんはカニ大好きなんですね」


 ウェコエがソティのカニ大好きなのをよく理解したようだ。

 こうして一晩で副賞のカニを食べつくした。


 翌朝、宿を出て馬車で出発する。


「そんじゃ、そろそろ出発するよ」


 街道沿いは畑が延々続いている。

 たまに林などもある。


 アリスは相変わらず、ポコジャーキーばかり合間に食べていた。


「暇ですね。ホクトさん」

「なに平和が一番さ」


 いくつか町を経由して、海沿いに街道が出てきた。


「見て見て! すごい。海だよ。海。ウミ、ウミ、ウミ」


 珍しくピーテがはしゃいでいる。いつもは冷静なほうなのに。


「すごいですにゃ。海といえば、カニ。カニと言えば、海なんですにゃ」


 ソティは相変わらずだ。


「海なら知ってるウサ。大きな川がもっと広くなっただけウサ」

「アリス、海はしょっぱいんだぞ。塩味なんだ」

「知ってるウサ!」


「フルは?」

「私は、前に見たことがあるから」

「そうなんだ。物知りなんだな」

「私は偉いのですっ。えっへん」


 道が海の近くまできていて、風が強い。

 そして、潮の匂いがしてくる。


「なんか、変なにおいがするウサ」

「それが潮の匂いだな。海の匂いだ」

「海、ウミ~。ウミ~。変なにおぃ~」


 ピーテのテンションが高い。なんか歌うみたいに「海」と言っていた。

 馬車は今日も快調だった。


 川を渡り、畑を眺めて、どんどん進んでいく。

 そしてついに、帝都ミャーモニーに到着した。


 帝都は海沿いに沿ってできている。ここは河口になっていて川が街の周りを囲んでいて、その中州に街があるのだ。

 何と言っても帝都なのででかい。

 川のこちら側にも、貧しい家が建ち並んでいた。


 俺たちの馬車は、川に架かる橋の検問で、順番待ちの列に昼過ぎから並んでいた。

 だいぶ時間が掛かってなんとか検問を通る番になった。


「次」


 門番の兵士が俺たちを呼ぶ。


「黒髪に、猫、犬、ウサギの獣人の忠誠奴隷。そしてエルフの美女。お前がホクトだな」

「なんで俺の名前を……」

「皇帝はなんでもお見通しだ。お前たちが来るのも伝令で知っていたのだ」

「それはありがたいです」

「で、どの子がお気に入りなんだ。みんな可愛いじゃないか。もうヤッたんだろ」

「いえ、まだ手は出してませんが」

「お前それでも玉が付いてるのかよ。俺はウサギちゃんがいいな。一晩貸してくれよ」

「いくら積まれても、それは無理ですね」

「そうか。まあいい。宿を決めたら皇宮へ行くように。はい。行ってよし」


 アリスは、両手で胸を抱いて、顔を真っ赤にして震えていた。

 一晩貸してほしいとか言われて、想像してしまったみたいだ。


「私は貸し出されるなんて嫌ウサっ」

「ウサギちゃんはウブなんだな。可愛いな」


 門番たちはからかってニヤニヤ笑いを浮かべて見送ってくる。

 俺たちは彼らに見られながら通過していった。


 橋を渡った先は、どの家も二階建て以上で、赤茶のレンガの家が多い。

 町の人たちは明るい顔が多くて、皆、それなりの格好をしていた。

 カラフルな服が多くて、汚い身なりの人は少ないようだ。


 帝国の帝都はそれなりの善政でにぎわっているようだ。

 宿はどうしようか。

 適当に道を進んで、宿屋を探す。門番のおじさんに聞けばよかった。


 お金はたくさんあるにはあるけど、いつ何があるか分からない。

 だから、表通りの高そうな宿は遠慮する。


 少し進んで適当な道に馬車を止めて、露店でフルーツを買う。


「リンゴをえっと人数分五個ください」

「はいよ、毎度あり」


 店のおばちゃんは、麻袋にいれてリンゴをくれる。


「馬車が停められて、奴隷と一緒に泊まれる安い宿探してるんだけど」

「なるほどね。それならあっちの店がいいよ」


 おばちゃんに大体の場所と名前を聞いた。

 うむ。なるほど分からん。

 おばちゃんの子供のまだ八歳ぐらいの女の子がいたので、案内してくれることになった。


「おじさん、次の道を右だよ」

「おおぅ。俺はおじさんなんだな」

「そうだよ。おじさんじゃないの? おばさんだった?」

「いや、おじさんだな」


 なんとか道を間違えずに、たどり着けた。

 女の子には、ミルク飴を二つあげておく。


「おじさん、ありがとう」

「おう。ミルクアメっていうんだ。アルバーンで買って来たんだぞ」

「アルバーンってどこ?」

「えっとデコア王国の首都だよ」

「デコアってどこ? 首都ってなに?」

「うん。えっと、遠い隣の国だよ」

「そうなんだ」

「一人で帰れる? 大丈夫?」

「うん。これぐらい平気だよ」


 ちょっと不安だけど、女の子は帰っていった。

 これが治安の悪い街では、人さらいにあったり奴隷にされたりする危険がある。

 この国はその辺も安心できるようだ。


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