25. エルフの里

 一週間は迷宮に通い詰めて、戦闘好きのフルベールは満足したようだ。

 そろそろ出発しようと思う。

 ちょっと南へ寄り道をしてエルフの里という所へ行ってみたいと思う。きっと何かいいものがあるはずだ。


 デコア王への挨拶も済ませてある。

 お金とかはくれなかったが、中古の馬車をくれた。

 国交樹立については、考えておくとだけ言われた。


 そんな感じで今は皆で馬車に乗り南東へ向かって進んでいる。

 エルフの里まではこの馬車の速度だと六日ほど掛かるそうだ。


「馬車はひまだにゃ。揺れるにゃ。つまらないにゃ」

「しょうがないのです。魔法でワープできればいいのですが」


 フルベールの言う通りワープいいよなワープ。覚えられないかな。


 馬車は小麦やジャガイモ畑の間を進んでいく。

 異世界は街道だけは結構しっかり整備されていて、橋も架かっているのでありがたい。

 これが江戸時代の日本だったら細い山道や橋がない川などもあるので油断ならないのだ。


 羊風の動物のポコジャーキーを食べたり、風景を見たりしながらのんびり進んだ。

 ピーテも御者の練習を始めて、たまに交代してくれる。


 途中雨が降った日もあったが、御者台の俺はカッパを着て馬車を運転した。

 このカッパは空飛ぶクラゲの傘を乾燥させたものを縫ったやつで、透明な薄皮でできている。

 これなら姿を隠すことにならないので奴隷でも着ることができるとお薦めされて買ってきた。

 この世界には普通の傘はないようだ。


 五日もすると段々道沿いの村が小さくなってきた。

 ついに畑もなくなって周りは林と平原が半々ぐらいになった。

 川も小さい所だと洗い越しがほとんどだ。洗い越しとは橋がなく、川の水の中をそのまま渡ることだ。


 次の日は野宿になった。着火魔法を使う。

 火を囲んでツメツ茶を飲む。食べ物はポコジャーキーと、野菜のスープで我慢してもらう。


「たまには質素なご飯もいいウサ」

「そうですね。最初のころを思い出します」


 アリスとピーテは特に不満はないようだ。ソティはジューシーな大きいお肉が食べたいらしい。お肉取ってきましょうかにゃ、とか言っていた。


 二人ずつ、あと真ん中は俺が一人で火の番と見張りをして夜を過ごした。

 遠くで獣が鳴くような声が聞こえた以外は特に平和に夜を過ごせた。


 翌日。林というかすでに森になっている中を進んでいく。


「その先の所を右へ曲がってくださいなのです」

「え、どこ?」

「よく見ると右に道が見えると思うのです」


 フルベールの案内で右に曲がる。


「分かりにくいように偽装してある上に、人を寄せ付けない結界が張ってあるのです」

「結界ね。便利だな」

「私がいなければ迷子だわ。感謝するのです。えっへん」


 得意な感じで言っている。とりあえず感謝を示しておいた。

 その先では道の雰囲気が変わってきた。

 木が大木ばかりになり、木漏れ日がとてもきれいだ。キラキラ光っている。

 妖精さんとかが出てきそうなそんな様子だ。

 そして、音がまったくしないように感じる。


 入り口から先も結構長いようだ。道がぎりぎり判別できる程度の所を進んでいく。


 木々の間に何か大きな像のような物が二つ立っている。

 近づいてみると、石のゴーレム像のようだ。五メートルはある。

 鈍い緑色、錆びた銅の色をした剣を持っていた。


 そのまま進むと、ゴーレムの間を道が通っていて向こう側へ出た。

 エルフが数人弓矢と剣を持って立っていた。

 その先は開けていて、家々がまばらに建ち、畑が広がっている。


「フルベール早いお帰りだな」


 さっそくエルフの一人が話しかけてくる。若い美男子だ。

 どの人も若い。いや、若く見える。


「ただいま。ここがエルフの里なのです。特に名前はないのです」


 名前がないほうが、隠れ住むのに向いているらしい。

 俺たちはさっそく長老の家に挨拶しに行った。

 家は木造で高さがそれほどない平屋建てだ。

 お土産に収納からポテチ塩・カレー味を出してご機嫌をうかがう。

 長老は千年以上生きている女性だった。見た目は二十そこそこに見える。


「勇者様を連れて帰ってくるとは、こりゃ愉快じゃ」

「ご存知でしたか」

「わしも長く生きている。昔のことは色々知っておるのじゃ。それにポテトチップスとな。なかなかうまいのじゃ」


 長老はポテチを気に入り、ワープ魔法を伝授してくれると約束してくれた。


 話が早い。さっそくワープ魔法を伝授してもらうことになった。


「とりあえず全員まとめてポンじゃ。ほい、ワープ!」


 長老が魔法を唱えたと思ったら、すでにゴーレム像の前に全員立っていた。


「すごいですね」

「魔力の流れは皆は見れたかな? じゃあ早速やってみるのだ。まずは自分だけ飛ばしてみるのじゃ」


 出口の長老の家を思い浮かべて、体が空間の間を飛ばして移動するようなイメージを浮かべる。


「ほい、ワープ!」


 俺は再び長老宅の居間に立っていた。成功だ! やった!

 しかし少し待っても誰も飛んでこない。

 寂しいなぁ。

 しょうがないので再びゴーレム像の所へ飛んだ。


「お主、なかなかやるでないか」

「ありがとうございます」


 俺は自分が受けた魔法を再現するのがうまいらしい。

 皆も祝ってくれる。

 ほかの子は適性がないみたいだった。

 全員を俺のワープで長老宅に飛ばした。


「今日は面白い物がみれたのじゃ。結構結構」


 ワープ魔法は自分や近くにいる人を飛ばすことができる。

 あまり大きい馬車とかは飛ばせないようだ。

 また、行ったことのある場所で、イメージできるなら飛ぶことができる。

 しかし日本の俺の家へは飛べなかった。

 距離と飛ばすものの大きさによって魔力消費が変わるそうだ。


 この里には宿屋がないので、フルベールの家族の家に泊めてもらうことになった。

 ちょっと人数が多いので大変そうだ。


 夕ご飯は、炊き込みご飯、お味噌汁、豆腐の甘酢あんかけ、ウドみたいな茎のお刺身だった。醤油付きだ。

 俺は味噌に醤油で嬉しさ倍増である。

 皆にその嬉しさをアピールしてみたが、いまいちわかっていない。

 全員美味しければなんでもいいみたいだ。


 とりあえず、味噌と醤油をある程度確保しておくことにした。

 フルベールの両親に頼んで分けてもらった。結構備蓄しているそうなので問題ないらしい。


 夜はフルベールの部屋の床で雑魚寝になった。

 なぜか床全体にふわふわモーフが敷いてある。

 左右のピーテとソティも温かくて柔らかいし寝心地は良かった。


 翌朝、起きる寸前、ピヨピヨとすずめのような鳴き声が聞こえる。

 またしても、柔らかくて暖かい感触がする。朝のまどろみは、とても気持ちが良かった。


「ホクトさん、あーさーでーすようー」


 声からするとピーテのようだ。

 もう少し、眠っていたいので無視していたら、なんか乗っかってきて重い。いや、思ったよりは軽いか。

 なんか次々と上に乗っかってきて、俺の上に四人の体重がかかる。

 さすがに重い。


「重くて起きれないんだが、どいてくれ」


 俺が苦情を言ったら、やっとどいてくれた。


「ホクト、朝ご飯できてるのです」


 フルベールが得意げに教えてくれる。


「フルベールが作ったの?」

「いえ、作ったのはママなのです。ママのご飯は美味しいのです。えっへん」


 さっそくみんなでご飯を食べる。

 今日の朝ご飯は、お味噌汁、ご飯、野菜炒め、豚肉の焼いたもの、里芋の煮物だった。

 結構量がある。わいわいしながら楽しく食事ができた。


 俺はフルベールの両親になにか手伝える事はないか聞いてみたが、特に困っているものは無いという。

 村でとれない物も、村の商人が買い付けに行くので、すぐには手に入らないが問題ないようだ。


 とりあえず、村の中をブラブラする。

 エルフ村の中では獣人も人間も珍しいので、じろじろ見たり、声をかけてくれる。

 知識にあるエルフは排他的だったと思う。ここの人は割と友好的に接してくれる。

 森の真ん中にある村には家のほかに水車小屋、穀物倉庫、広い田畑、綺麗な小川と池などが点在している。


 一時間ほど見て回ったが特に困っている人もいなくて戻ってきた。

 フルベールの両親と長老に挨拶をして、先へ進むことにした。


 ゴーレム像の間を通って村から出て行く。また森を通り草原地帯を進んでいく。

 ワープで戻れれば数日分はショートカットできるが、馬車はワープで飛ばせないのでのんびり行くしかない。


 異世界の旅ではそのほとんどが移動時間かもしれない。なんとかならないだろうか。

 例えば、飛空艇。あこがれるな。例えばゴーレム馬車。現代風な車みたいのとかか。

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