21. 王都アルバーン
この日の夕ご飯は白パン、牛肉と野菜のクリームシチュー、サラダ、ミカンのゼリーだ。
パンはもっちり柔らかくて小麦のうまさがあり素晴らしい。
シチューは赤茶色のワイン煮のような物で、赤身肉を柔らかくなるまで煮込んである。野菜はジャガイモ、ニンジン、ブロッコリー、タマネギなどが入っているようだ。
サラダはセルフィール王国で食べたものとあまり変わらない。
ミカンのゼリーはホロを取ったミカンがそのまま入っていた。ただし全然甘くなくてかなり酸っぱい。
獣娘たちもゼリーは微妙な顔をして食べていた。
王城でも奴隷のみで部屋を取れなかったので、四人部屋だ。ダブルベッドが二つの部屋だ。
王城に浴場はなかった。残念だがお湯とタオルを貰い体を拭いた。もちろん俺はチキンなので、女子たちが体を拭いているときは、率先して手伝うのではなく、反対を向いて街の明かりを眺めている。
どういう風に寝るかで少し
今日はピーテの番だ。ピーテは最初から俺と旅をしているので「一番目」なのだそうだ。もちろん「二番目」はソティで「三番目」がアリスだ。アリスは最初に奴隷になったのでこの順番には少し不満らしいが一番年下なので結局納得してくれた。
俺はピーテとベッドに入る。ピーテが手を伸ばして俺の右手を握ってくる。
そっと顔を近づけてきて小声でキスを要求してくる。ここの部屋は広くてもう一つのベッドからは見えないだろう。
軽く唇を合わせて押し付けるだけのキスを気持ち長めにする。ピーテは満足したのか目をつぶった。
「ホクトさん、おやすみなさい」
「おやすみ、ピーテ」
昨日まで牢屋だったためか、この日はぐっすりと深く眠れた。
翌朝。特に何も決めていない。今すぐ出発してもいいが、どうしようか。
王様には何泊してもいいと言われた。ただし出発するなら報告するようにとも言われた。
アルバーンにもアルバーン迷宮がある。迷宮に必ず都市が付属している訳ではない。しかし資源になる迷宮は、自然に町が形成されやすい。
せっかくだからアルバーン迷宮にも行ってみるか。
アルバーン迷宮は王城から昨日の公園を通った先にすぐある。俺たちは今日も露店をやっている公園を眺めつつ、迷宮に向かう。
公園の途中で呼び止められた。昨日の飴屋さんだ。
「昨日はありがとうございました。あなた方が買ってくれたからお客さんが付いて、たくさん売れました」
「いいや、別にいいよ」
「お礼にもう一袋あげますね」
飴を一袋受け取る。とりあえずピーテに押し付ける。旅はまだ掛かる。残ったりはしないだろう。
アルバーン迷宮前の冒険者ギルドによる。ギルドは国をまたいで共通だ。依頼を確認して、迷宮の魔物情報を集める。
第四層にベア・ビーの巣ができて大量繁殖していて注意だそうだ。
ちょっと面白そうなので行ってみようか相談する。
「行くにゃ。敵たくさんでバッタバッタ薙ぎ倒すにゃ」
「私はあまり危険なことはしない方がいいと思います」
「大丈夫だろ、きっと面白いよ。困ったらアリスに何とかしてもらおう」
「私、頑張るウサ」
アリスを味方につけることに成功した。ピーテにも期待していると言うとすぐ賛成してくれた。
アルバーン迷宮の入り口に入る。入り口は一つしかないようだ。
また地図を買っていない。アリスがギルドで見てきた地図を記憶しているというので、大丈夫だろう。
「なにか来ます」
コボルトが二匹だった。ぼろい剣と木の盾を持っている。
俺とソティが前衛を務める。剣を交えてみるけれど、それほど強くない。そのまま剣で押し切って、俺もソティも相手を仕留める。
魔力結晶を回収して進む。
「コボルト弱くなったな」
「ホクトさんが強くなったんですよ」
そのまま進む。レタスにも遭遇した。きっと昨日の夕食のサラダの中身だろう。
あまり手ごたえのある相手に遭遇せずに四層に着いた。
さっそく熊蜂が出てきた。最初は一匹だった。
熊蜂は一メートルぐらいの大きさの蜂で、ぬいぐるみの熊みたいな丸い耳とつぶらな瞳の顔をしている。しかしお腹は蜂で刺で攻撃してくる。
飛び回るのでこちらから仕掛けるのは難しい。向こうが接近してきたタイミングで攻撃するのがコツなようだ。
俺はなんとか一匹目の首を飛ばして倒した。胸部の結晶を回収する。
その後も熊蜂は散発的に一匹か数匹ずつ襲ってきた。俺とソティで近いほうが相手をしてやっつける。
「なんかちょっと多い気がします」
ピーテが心配そうに言った。
今度は熊蜂が五匹同時に現れたのだ。
剣士三人で防衛線を作り、後ろのアリスの所へ蜂を進めないようにする。
「アリス、やっちゃって」
「了解ウサ」
アリスが五本のサンダー・ボルトを同時発射する。蜂はすべて地面に落ちてやっつけることに成功した。
「魔法使いがいれば敵が多くても簡単だな」
「そうでしょ、そうでしょ、私を崇めるウサ」
「アリス様~あぁ、アリス様~」
俺も魔法は使えるが同時に五本はまだ無理だった。魔力は俺の方が多いようだが一匹ずつとなると時間が掛かってしまう。
解体する間もなく次の三匹がやってきた。剣士組が一対一で
「人が逃げてくる足音がします。こっちに来ますね」
ピーテの警告を聞いて俺は剣を構えなおす。
少女が一人こっちに走ってくる。足は速い方だろう。
「人発見。助けてくださいなのです」
その少女は金髪で耳が尖っていて長い。整った顔をしている。エルフだった。エルフなので歳はよく分からない。背はピーテより若干高いぐらいで胸はそこそこある。
黄緑色の服で膝丈までのワンピースだ。鎧を着ていない。剣と魔法の杖を持っている。
彼女の後ろには熊蜂が四匹追い掛けてきている。
俺たちは彼女を後ろへ通すと、蜂に対峙する。
俺はとりあえず目の前の蜂に集中する。
蜂は近づいては攻撃してくるのを繰り返す。数回は剣を避けられたが、剣を命中させ絶命させる。
ソティも一匹をやっつけたようだ。ピーテは一匹やっつけた後、素早く残りの一匹に接近して仕留めた。
「助かりました。あなたたち強いのです」
「どうしてこんなところに一人で?」
「……だって、一人で余裕だと思ったのですよ」
「それで余裕じゃなかったと」
「はい」
彼女は気まずそうにそう返事をした。俺たちは名乗りあう。
「私はエルフ族のフルベール・サライオン・ムベリク・アスタベラなのです」
名前が長いぞ。さすがエルフ。
「それで、あなたは奴隷使いなのですか? それとも女たらしなのですか?」
「どっちでもないと思う」
「それじゃあ何なのです」
俺は何なのだろうか。普通の冒険者かな。適当にごまかしておくことにした。
「はあ。まあいいのです」
フルベールを拾ったので俺たちは戻ることにした。
どうやら魔法に自信があったので、一人で蜂の巣退治をしようとしていたらしい。
しかし予想より敵が多く、魔力が切れそうになっていた。
とりあえずミルク飴を与えておく。
「この飴という物。甘くて濃厚で美味しいのです」
気に入ったようだ。それはよかった。
お昼を一緒に摂ることになった。場所は迷宮入り口近くの食堂だ。
俺たちはハムとレタスのサンドイッチ。あとオレンジジュースを注文する。
ウェイトレスの店員は肩までの水色のフワフワヘアーで巨乳だった。
俺がウェイトレスをチラチラ見ていたら、女性陣の目つきがきつめになっていた。
「だってほら、可愛い格好だし」
おれは言い訳をする。オレンジ色のワンピースにフリル付きの白いエプロンドレスがとても可愛い。そしてエプロンから突き出した胸にどうしても視線がいってしまう。
「ホクトさんはああいう子が好みなのですね」
フルベールが俺の
サンドイッチは女の子と同じ格好をしたおばさんが持ってきてくれた。
「とりあえず、みんな食べよう。美味しそうだ」
コッペパンのようなパンを横に切れ目を入れてあり、それに肉厚のハムとレタス、そしてタマネギが挟んであった。ハムはジャーキー風で硬めだが美味しい。
オレンジジュースは果汁に砂糖を入れてあり甘くて飲みやすい。
「ほんとうに美味しいですね」
「美味しいご飯が一番にゃ」
「美味しいウサ」
「これは当たりなのです」
女性陣は美味しいサンドで機嫌が直ったようだ。
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