第二章 フクベル
11. 王都フクベル
俺たちは王都手前、五〇〇メートルにいる。王都は石壁と城門で囲われており見るからに立派な造りだ。門の手前にもいくつかの露店が並び商売をしている人が見える。
後ろは林だが壁の手前は見通しやすいように背の低い草地になっている。
馬車と人の列は多少並んでいるようだが、そこまで時間は掛からないだろう。
俺たちはお忍びなので、一般人の列に並んで待つ。王女様が言うには貴族階級は本来は並ばずに先に通れるそうだ。
門番たちは、三チームに分かれて縦に並んだ人たちを先頭からどんどん処理していく。門番は犬、猫が半々ぐらいだ。
俺たちの順番になった。あらかじめ馬車を降りて横に並ぶ。ギーナさんが何やら門番にささやく。その門番はアリスをのぞき込む。アリスはなるべく目立たないように半分だけフードを取り顔をみせる。
すると門番がアリスに小声で言った。
「握手してください」
アリスがそっと手を取ると門番はすぐに背をピッと伸ばして敬礼してみせる。今度は声を張り上げて言った。
「いってよーし」
俺たちが進むと門番たちが軽くこちらに手を振ってくる。全員いい笑顔だった。
「好かれてるんだな」
「ありがたいことウサ。でもちょっとだけ、うっとうしいと思う時もあるウサ」
人気者にもそれなりの苦労があるようだ。
馬車は真っすぐ王宮に向かうのかと思ったら、商店に寄っていく。ギーナさんが店の人と交渉している。交渉が終わると商店のバイトが後ろの箱を運び出し始めた。どうやら後ろのリンゴを売り付けるようだ。
「ただ旅をするのももったいないウサ。少しだけ商売もするウサ」
箱を運ぶのを手伝おうかと思ったが、なぜか断られた。
次は真っすぐに王宮に向かった。王宮門では特に外に出ることもなくギーナさんの顔パスだった。俺たちは結局、王都にいる間は王宮でお世話になることになってしまった。俺は町の宿を取ると主張したのだがアリスが強引に決めてしまったのだ。
ギーナさんは馬車を保管しに行った。アリスの後ろに続いて王宮の建物に入る。正面玄関ではなく、横の通用口みたいな所から入った。特に迎えもいない。
俺たちは第四応接室という所に通されて、高価そうな椅子に座らされる。たくさん椅子はあるが、扉から一番遠い一角に集まって座っている。
しばらくするとメイドがお茶と固くて甘いパンもどきを持ってきてくれた。メイドは続けて発言する。
「アリス王女様、国王陛下がお呼びです」
アリスは出て行ってメイドさんと俺たちだけが残される。
俺たちはアリスに家臣にならないかと誘われたが、とりあえず断った。異世界のことは話してあるので、戻る方法がないか探すのを手伝ってくれるそうだ。
俺たちはパンもどきをかじってアリスが戻ってくるのを待った。
結構長く待った気がするが時計がないので分からない。他のメイドが入ってきて言った。
「皆さま、謁見室にお越しください。国王陛下がお会いになります」
俺たちはメイドに連れられて謁見室前の扉までくる。剣は収納済みだ。左右の空きスペースの隅に近衛兵が待機している。ここから先は俺たちだけで行くらしい。作法が分からないが、扉を開けられたのでとりあえず進む。
謁見室は赤い
俺たちは少し距離を取って横一列に並んだ。
「ふむふむ。本当に黒髪じゃな」
「言ったウサお父様」
「別に敬語でなくてもよい。楽に話せ」
俺たちは名前を名乗った。俺は苗字は名乗らなかった。
「ホクトは異世界から来て、魔法の上達が早く、政治や色々なことに詳しいとか」
「はい。それほど詳しくはないですけど」
「美味しい物をたくさん知っているとアリスは言っておったぞ」
「俺の世界は平和だったので食文化が発達していました」
「ふむ。異世界へ戻る方法はわしには分からん。賢者を紹介しよう」
「ありがとうございます」
「ポテチというのを作ってくれるそうじゃな。わしも楽しみにしておるから明日たのむ」
「はい」
「今日はもう夕方だ。わしは忙しいからアリスと一緒に食事をしていきなさい」
「はい、ありがとうございます」
俺ともう少し会話をした後、王様はピーテとソティとも会話をして、俺たちはアリスと共に応接室に戻った。
応接室のお茶セットは片づけられていて、少ししたら夕ご飯になった。
王宮の夕ご飯のメニューは、カニパスタ、牛肉のステーキ、サラダ、野菜スープだった。デザートはないらしい。ピーテとソティの二人はナイフとフォークをギクシャクと使いながらステーキと格闘していた。
「とっても美味しいご飯だったです」
「はい。カニパスタが特に美味しかったにゃ」
女子三人はまだ余裕がありそうだ。俺はもうお腹いっぱいだ。
王宮のとってもいい部屋をあてがわれそうになったのを何とか交渉して、普通の部屋にしてもらった。三部屋の個室だ。
ピーテは王宮の共有浴場があるのにとても喜んでいた。ソティと洗いっこをするそうだ。
次の日。朝食は、四人で固いパンに謎のジャム、サラダだった。
その後、俺たちは王室の厨房にいた。そうポテチを作るのである。
まずジャガイモの芽を取り皮を剥く。ピーテとソティも手伝ってくれた。薄く切る。結構難しい。ついでにフライドポテトも作ろうと、半分は細長く切る。
オリーブ油を手頃な深手のフライパンに四センチほど入れて火に掛ける。あったまったら、ジャガイモを投入。揚がったらすぐに塩を振る。
初めて作ったが思ったより簡単だ。
メイドが王様一家の分を持ってどこかへ行く。
俺たちは厨房の隅で、四人でポテチとフライドポテトを手でつまんで食べる。一皿は見学していた厨房のスタッフに回してあげる。
「油で揚げるというのは初めて見たウサ」
「こうやって作ってるんですね」
「どっちも美味しいにゃ」
どうも聞き取り調査によるとムニエルはあるようだが、カリッと揚げる類のものはこの国にはないようだ。料理長は「油がもったいないですな」とか言っていた。
午後からは俺だけで王様が紹介してくれた賢者に会いに行く。王宮勤めらしい。名乗るほどでもないと言われてしまい、名前は知らない。
異世界召喚というのはこの国ではやっていないそうだ。一般的には知られていないけれど、人族の国でははるか昔に行われていたという。だから人族の国へ行ってみたらどうかと言われた。
俺も少しは地球に戻りたいような気がするので、人族の国へ行こうかなと思った。
女子三人は、三人でお茶会だそうだ。アリスは心からの友達というのがいなくて、同年代の知り合いは兎人族ばかりだそうだ。学院でも浮いていたらしい。だから気軽にしゃべれる二人と仲良くしたいそうだ。
俺が賢者の所から戻ってくると、アリスの私室に連れていかれた。そこでは女子三人が楽しそうにおしゃべりをしていた。
「なんじゃ早かったウサ。もっとゆっくりでも良かったウサ」
「ホクトさんお待ちしていました」
「ポテチはうまかったにゃ」
その後、誰が一番食い意地が張っているかで盛り上がった。
「一番はソティだウサ。でも本当の一番は普段すました顔をしているがお父様ウサ」
あの王様、食い意地張ってるのか。別に腹も出てないし、見た目は普通のウサギだったけど。
その後俺は皆に、人族の国へ行くことを決めたのを話した。しばらくは迷宮に行って鍛えることを話した。魔法の練習ももっとしたいし。
「それなら、
「迷宮は明日の午後からにする? 俺、盾新しくしたいんだけど」
「いや、まだ日が暮れるまで時間はあるウサ。今から盾を買いに行くウサ」
アリスはシンプルなワンピースからいつもの似非制服に着替えて黒のローブを羽織っている。思ったより着替えは早いようだ。姫様としては街へ行くにはワンピースは防御力が低いので危険だという。俺たちは、二着しかない普段着姿のままだ。
連れ立って歩いて城門から街へ向かう。
「護衛とか連れてこなくていいの?」
「なに、影からこっそりついてきている問題ないウサ」
確かに冒険者風の刀を持った人が何人かただ歩いている風を装ってついてくる。
俺たちは城門から歩いて三ブロック先の武器屋に入る。入り口のドアのカウベルが鳴り響く。犬人族の店員が出迎えてくれた。
「いらっしゃいませ」
アリスがフードを取ると店員が驚いた表情をしてから店長を呼び出してくれる。
店長は茶色の兎人族の男性のようだ。
「おやおや、これはこれは。ようこそいらっしゃいませ」
「この人に、盾を選んでほしいウサ」
「かしこまりました姫様。どのような盾がいいですかな」
俺は小型の金属盾を要望した。
「少々お値段がしますが、こちらのオリハルコン製の小型盾はいかがかな」
「いくらくらい?」
「金貨五枚でございます」
「俺そんなに持ってない」
「妾もそんなに持ってないウサ。ギーナが大金を持たすと良くないと言いおってウサ」
どうやらアリスには
「ではこちらの鉄製のバックラーではどうでしょう。銀貨十九枚でございます」
「もうちょっと安くして」
交渉は下手だがとりあえず値引きしてみる。
「姫様のご紹介ですし、銀貨十五枚でいかがでしょう」
「いいですよ」
交渉成立だ。結構安くなった。
「妾が半分だすウサ」
アリスが収納から銀貨七枚を取り出して見せてくる。
「でも」
「なに先行投資じゃウサ。たっぷり迷宮で働いてもらうウサ」
「なるほどね。ありがとう」
俺はアリスから銀貨を受け取り店主に渡しバックラーを受け取る。盾はピーテに収納してもらう。
いつかオリハルコン製とか装備してみたい。迷宮でワンチャンあるかな。
王宮に戻り四人でご飯を食べてお風呂に入って一人部屋で眠った。
明日から迷宮探索だ。頑張ろう。
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