第7話「公爵令息・ランハート」
「どいつもこいつも僕を馬鹿にしやがって……!」
むしゃくしゃして壁を蹴り飛ばしたら、足が痛かった。
足を抱えうずくまっていると、背後から聞き覚えのある声が……。
「いいざまだなアーク」
「……ランハート」
声をかけてきたのはコフマン公爵家の令息ランハートだった。
よりによってこのタイミングでランハートに声をかけられるとは、ついてない。
ランハート・コフマン、僕と同い年の十七歳。銀色の髪に紫の瞳、整った顔立ちの長身のイケメンで成績も良い。
僕はこの国で一、二を争う美男子だと自負している。
だがこいつには家柄、頭脳、身長など……顔以外の面で若干負けている。
負けているといってもほんの少し、爪の先程度だけどな!
「ブルーナを大切にするように何度も忠告したのに、俺の忠告を無視するからこうなるんだよ」
僕の母親とブルーナの母親とランハートの母親は、学園時代の同級生で友人関係にあった。
そのため僕とブルーナとランハートは幼馴染だ。
「お前がしょぼくれた顔をしているところを見ると、友人からも浮気相手の女の子からも捨てられたってところか?」
「ブルーナと婚約を破棄した途端みんな手のひらを返して冷たくなった。
ランハート知っているなら教えてくれ、どうしてみんなが急に冷たくなったのかを」
「そんなことも分からないとはな、アーク貴様は本当に馬鹿だな」
「くっ……!」
ちょっと僕より成績がいいからって生意気な。
「ヴェルナー侯爵家の領地経営も事業も前々からうまく行っていなかった。
ヴェルナー侯爵家はエアハルト伯爵家の援助を受けることでかろうじて息をしていた状態だったんだ」
「なんだって!?」
「だがお前は婚約者を大切にせず浮気や娼館通いを繰り返し、ブルーナに婚約破棄された。
エアハルト伯爵家に縁を切られたヴェルナー侯爵家に残るのは、家名と借金と放蕩息子だけということだ」
「そんな…………」
ヴェルナー侯爵家がそんな状況だったなんて今の今までは知らなかった。
「そうだ! 今からでもブルーナに謝ればいいんだ……!
そうすれば万事解決だ!
情報を教えてくれてありがとうランハート!」
僕は踵を返し走り出した。
一筋の希望が見えてきた!
昨日屋敷から乗ってきた馬車は、娼館についたあと家に帰してしまった。
娼館から学園までは娼館の馬車で送ってもらった。
娼館で散財し、すっからかんになってしまったので乗り合い馬車に乗る金すらない。
帰宅時間じゃないから玄関には誰もいないし、知り合いの馬車に乗せてもらうわけにもいかない。
仕方がないので僕は走ってブルーナの家を目指した。
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