嘘つき男、お断り。⑪








「わあ、とても大きなお店ですわね! それに見たことない物がこんなにも!」


 姫様はテーブルに所狭しと並べられている品物を見て目を輝かせながら言った。周りを見てみると、俺たちの他に何人も客が入っているようで、売れ行きも好調なようだ。



「一応この祭りの目玉だからな。姫さんが気に入ったものがあればプレゼントするよ」



「いいえ、このイヤリングだけで十分ですわ!」



「ははっ! そうか。⋯⋯あんたは欲がねえな」


 ロナルド・オルティスは姫様の言葉に思わず吹き出した。そして、店内を見回した後、近くで品出しをしていた男に声をかけた。



「ジャック! 姫さんと後ろにいる宰相さんを案内してやってくれ」


「へい、ボス!」



「⋯⋯ボス?」


 ジャックと呼ばれた男の言葉に姫様が首を傾げる。それを見て、ロナルド・オルティスは困ったような顔で笑った。


「こいつら俺が何度言ってもそう呼ぶんだよ。俺はオーナーだってのに」


「ボスはボスじゃないっすか!」



「ふふっ、ボスだなんてかっこいいではありませんか。とても強そうな響きです」


「ボスなんて柄じゃ無いから照れくさいんだよな」



 そう言いながら、ロナルド・オルティスは胸ポケットから時計を取り出した。先程からちらちらと頻りに時計を気にする素振りを見せる彼に、俺は何となく引っかかりを覚えた。




「この店はジャックが取り仕切ってるんだ。だから此処の案内はこいつにして貰おう。⋯⋯ジャック、姫さんと宰相さんを頼んだぞ」


「⋯⋯へい、任せてください、ボス」






✳︎






「⋯⋯それで、この絵画はカエルム帝国の闇市場でボスが命懸けで手に入れた貴重な逸品で⋯⋯⋯⋯」


「ええっ⋯⋯! 闇市場!? それに⋯⋯オルティス様が命懸けで⋯⋯」



 テント内には何処かの部族で使われていたであろう仮面や前衛的なデザインの置物など、使いどころのわからない物から、絵画や彫刻、工芸などのいかにも高級そうな美術品まで様々なものが置いてあった。

 初めて見る品々に俺も姫様も興味津々でジャックの話に聞き入る。



 しばらく彼についてテント内を回っていると、不意に姫様が口を開いた。


「あら? オルティス様はどちらに行ったのかしら?」


「え? ⋯⋯ああ。ボスは今、倉庫に荷物を取りに行ってますよ。なんでも、姫さんに見せたいものがあるとか」



「!!」



 ジャックのその言葉に慌てて後ろを振り返るが、先程まで俺の後ろに居た筈のロナルド・オルティスの姿は何処にも無かった。

 己の失態に全身から血の気が引くのが分かった。



「! ジャック、今すぐその倉庫とやらに案内しろ!」


「ええ!? 宰相さん、そんなに焦ってどうしたんです? ボスはすぐ戻ってくるからここで待ちましょうよ」


「っ、いいから、オルティス様の居場所を教えてくれ!」


「まあまあ、いったん落ち着きましょうよ」



 俺をなだめるばかりで、一向にその場から動く気配の無いジャックに痺れを切らし、俺は大急ぎでテントから出る。

 しかし、姫様をここに残すのは危険だと、一度戻って彼女も外に出るように促した。


「姫様、俺はオルティス様を探してきますから、貴女はジョージのところに行ってください! 絶対ですよ!」


「レオ!? いきなりどうしたのです?」


 俺の突然の行動に姫様は戸惑いを隠せない様子であった。しかし、火急の事態である為に、後のことはジョージに任せることにする。



「ジョージもすぐ近くにいる筈ですから! お願いしますよ!」


「あっ! 待ってください、レオ!」



 俺は姫様の静止も聞かずに走り出した。辺りを見渡し、とりあえず、近くにある倉庫と思わしきテントを片っ端から物色していく。

 しかし、その何処にも彼の姿は無かった。



 ——くそっ! まんまとやられた!


 やるせない気持ちでいっぱいになり、思わず壁に拳を打ち付ける。拳に鋭い痛みが走ったが、その痛みが気にならない程に、こんなにも簡単にしてやられた自分に、自責の念で押し潰されそうだった。



 ——このまま逃してたまるか。


 俺には、ロナルド・オルティスのいると思われる場所に一つだけ心当たりがあった。その勘が当たらないようにと祈りながら俺は、全速力で城へと向かって走り出したのだった。






 

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