嘘つき男、お断り。⑦
微睡んでいると何やら外が騒がしくて、目が覚める。急いで着替え、部屋の外へと出るとジェイコブが血相を変え走り回っていた。
走っているところなど見た事ない彼が汗だくになるまで駆け回る姿を見て、何事かと思わず彼に声をかける。
「ジェイコブ! 何かあったのか?」
「おお、レオナルドか! 実は、遂に隣のグランデ王国にまで盗賊が入ったのじゃ!」
「⋯⋯盗賊?」
「そうじゃ! 最近勢力を広げている義賊という奴で、盗難品はその国の貧しい者達に配り歩いているそうでな。ここのところ奴らはこのグランド大陸を主な活動拠点としていて、既にこの大陸にある殆どの国が被害に遭っているそうだ。⋯⋯つまり我がクレイン王国にも盗賊の魔の手が迫っているという事じゃ!」
ジェイコブは呼吸も忘れ、一息に捲し立てた。
「それならクレイン王国は心配ないんじゃないのか? 仮に奴らがこの国に来ても、取るものなんて何も無いじゃないか」
「⋯⋯それは以前のクレイン王国なら、の話じゃ。今の我が国にはウォーカー公爵からいただいた宝石や金貨がたんまりとある。つまり、奴らがそれを狙ってくる可能性は十分にあり得ると言うことじゃ!」
「⋯⋯確かにあり得ない話ではないな」
「こうしちゃおれん⋯⋯! レオナルド、お前も暇なら着いてこい! 宝物庫の点検を手伝ってくれ!」
ジェイコブはそう言って、強引に俺の腕を掴み宝物庫まで引き摺っていったのだった。
✳︎
「ふう⋯⋯。とりあえず今のところ被害は無いようだ。しかし、この部屋の警備をより厳重にしなければいかんな」
ジェイコブは宝物庫をこれでもかという程隅々まで点検し、異常が無いことを確認するなり安堵の息を吐いた。
「レオナルド、無理矢理連れてきて悪かったな。助かった」
「いや、役に立てて良かったよ。じゃあ、俺はこれで」
しかし、俺が部屋に戻ろうと背を向けたところでジェイコブが呼び止めた。
「ちょっと待ってくれ!」
「⋯⋯?」
「⋯⋯姫様が結婚活動を再開されたそうじゃな。新しい候補の男はどんな奴なんだ?」
「ああ、その事か。陛下に大層気に入られている商人だよ。相当な額の金を貯め込んでいるらしい」
「ほう⋯⋯。それはそれは⋯⋯」
お金の気配に、ジェイコブの目がキラリと光った。
「金の為に姫様を売るような真似は絶対にしないからな⋯⋯」
「なっ、なにを言うのじゃ。わしがそんな事考える筈もなかろう! 姫様の幸せが一番じゃ!」
「⋯⋯⋯⋯」
焦り弁明するジェイコブをじとりと睨む。
——こいつは金の事になると正気を失うからな⋯⋯。金に目が眩んだジェイコブは何を仕出かすか分かったものではない。
「で、では、ワシは仕事に戻るとするかのう!」
ジェイコブが呼び止めたにも関わらず、俺の非難の視線に耐えきれなくなったのか、彼は逃げるように去って行ったのだった。
✳︎
「そんな方達がいらっしゃるのですね⋯⋯」
昼下がり、本日から正式に姫様の婚約者候補となるロナルド・オルティスが大荷物を抱えて城へとやって来た。
そして、しばらく彼が滞在する部屋へと案内する道すがら、俺は2人に今朝の出来事を話していた。
「その話なら俺も聞いたことあるな」
「オルティス様は有名な方でしょう? 盗賊に狙われる心配はないのでしょうか?」
「俺なら心配ないぜ。大事なモンは盗られないように、俺しか知らない場所に仕舞ってあるからな。⋯⋯それよりも、この城の方が危ないんじゃないか? ジェイコブって大臣の話だと次はこの国が狙われるかもしれないんだろ?」
ロナルド・オルティスのその言葉に姫様は得意げに胸を張り、口を開いた。
「そのことなら問題ありませんわ! この城にある宝石や金貨はジェイコブがそれはそれは厳重に保管しておりますもの」
「へえ。⋯⋯例えば、昨日見たような鍵のかかった分厚い扉の奥、とか?」
何となく探るような雰囲気の彼に、俺は慌てて話題を変える。
——婚約者候補と言えど、あまり他所者にこういった話はしない方が賢明だろう。
「そう言えば! オルティス様は今までどのような国に行かれたのですか?」
「! わたくしも気になりますわ!」
我ながらあからさまな話題転換だとは思ったが、どうやらこの作戦は功を奏したようだ。
先程までのロナルド・オルティスの冷然とした雰囲気は消え、彼は俺と姫様を見てにかりと嬉しそうに笑った。
「おっ、やっと俺に興味を持ってくれたな! 2人がそこまで言うなら話してやるとするか!」
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