第2話 変わったもの変わりたいもの

  ルカは崩れた。四つん這いになって時間の経過と自身の罰の重さに崩れた。


「解っていたことだけど、まさかこんなに進んでいたなんて……」


 だけど愕然としていても仕方ない。

 これは自分が得た罪と罰だって解っているから。しかし正確に何年経ったのか、ルカにも流石にそこは分からなかった。そこで過去に自分がこの近くに弔いとして植えた植木を見に行ってみることにした。


「えーっと、確かこの辺に……」


 ルカは前に植えた木を見に来た。

 しかしそこにルカが植えた木はない。それどころか目の前にあったのは、非常に発達した大木だった。


「この大木なに? もしかしてこれがあの時植えたウェスティア大霊樹なの?」


 ルカの目の前にはとんでもない大きさにまで成長した大樹が堂々とそびえ立っていた。

 堂々としている。その圧巻の態度に目を丸くしてただ頭上を見るしかない。その木を支えるように周りの木が寄り添い、大樹も折れないように蔦を絡ませる。命の芽吹きと順応さをここに知った。


「まさかここまで成長しているなんて。でもやっぱり、何百年も経ってるのは明らか」


 声がだんだん小さくなる。

 しかし無理もない。ここに確実となったからだ。


「それにしてもウェスティア大霊樹を苗から育てるなんて。ほんとこの土地にしておいてよかった」


 ウェスティア大霊樹。前にエルフ族から貰ったものだ。

 エルフに伝わる高い魔力を必要とする伝説の巨木で、当時のエルフの暮らす森里には湖の真ん中にどっしり構えていた。

 これはその木から恩恵として授かったものだけど、その当時のルカは罰を背負う前だったので、まさか本当に成長した姿を見られるなんて想像もしていなかった。


「まっ、これが見られただけどもよしとしよっか」


 そこは楽観的になるルカ。

 意味もなく過ごすのは流石に退屈だ。しかしこの木を見るためだけに生きるのもつまらない。ルカは多少なりとも好奇心を持っている。


「エレナや皆んなの分までか。私にできるのかな」


 ルカは遠く過去の景色に思いを馳せる。

 しかし遠い彼方に消えた儚い夢の残像はくしくも手からすり抜けた。

 自然と掌を開いたり閉じたりしてしまう。そうしているうちに涙が零れ落ちた。


「あ、あれれ? 何で泣いてるのかな。もう涙なんて枯れたはずなのに……」


 千年ぶりの涙だ。

 甘くもない。しょっぱくもない。透明な大粒涙が濡らした。

 でも私は心の留めを外した。外せるだけ外した。そこから溢れた涙があの時の光景を嫌な形で蘇らせる。もう届かない。だから儚いんだ。儚く過ぎ去る時間。ルカが失ったものが、ただ流れていく。

 そうしてしばらくの時間。ルカはひたすらに立ち尽くして泣いた。

 そうして誓ったんだ。

 この悲しみを背負って、糧にして生きるって——


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 ルカは涙を枯らして真っ赤な瞳で家の戻ってきた。

 この土地は私しか住んでいない。昔安く買ったものだ。そのせいでほとんどの資金を費やしたけど、一生生活に困らない。それに当時の王国と、この土地の管理を対価に一切の介入を認めないよう誓約を書かせた。だから誰も踏み入っていないみたいで、面白いように珍しいものがあった。


「まさかこんなものが転がっているなんて」


 ルカの手の中にすっぽり収まっていたものはただの小さな石ころだった。

 硬い石ころの破片がくっついて、とげとげしていた。だけどこの石にはそれだけの価値がある。当時でもなかなか手に入らなかった珍しい魔石だからだ。


「さてと、まずはこれをもって適当な町に降りるしか……あれ?」


 そこでルカは首を傾げた。

 自宅に帰ってきて、部屋の掃除をしようとしたんだ。だけどそこで気が付いた。机の端に何かある。小さな小瓶。その中に入っていたのは小さなピンク色の木の棒。でもただの木の棒じゃない。これはお香だ。しかも天然もの。

 だけど問題はその種類。


「これって千年朴せんねんぼく? ってそれじゃあ最初っからそのつもりで……」


 如何にもこうにもならないことをしてしまった。

 ルカは集中しようと思いこのお香を使うと、その煙を吸い込んでしまい強烈な眠気作用によって眠ってしまったらしい。しかもその名前の言うおとり、千年と言う長さをルカは眠ってしまったんだ。

 つまり、


「自業自得」


 全身の血の気が引いていく。

 今度はベッドに仰向けで倒れ込んでしまっていた。

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