難病の女の子は妖精の少女の思い出に浸る

あるみす

妖精の少女

 私は昔一人でいる時間が長かった。

 それもこれも中学生の時に発症した生まれつきの難病のせいだ。50万人に一人の珍しい病気らしく、一度目の手術では治らず、3年後に受けた2回目の手術でやっと進行を止める事が出来た。

 しかし、後遺症は酷くて私の中高時代はまるで泥沼の中で寝続けているように息苦しくて先の見えない闇だった。


 一日中横になって何もしないでいると、ひたすら要らない事を考えてしまうのが人間というものだ。

「自分はどうしてこうなってしまったのか」とか「誰かにこの痛みを分かって欲しい」とか。それはもう自責の念で心が押し潰されそうな思いを沢山経験しました。

 趣味と言っても病気になってから気を紛らわす為に始めた絵ぐらいで基本はずっと横になっていました。


 そんなある日、私の目の前に一人の妖精が姿を現しました。身長も10cm位を少し超えるくらいで金髪で綺麗な惹き込まれるような緑色の目をした妖精の少女。

 その少女は甲斐甲斐しく私の会話相手になってくれました。私がネガティヴな事を喋れば正してくれて、前向きな事には笑顔を振り向きながら応援してくれるそんな理想で塗り固めた様な少女でした。


 その妖精少女のお陰で私は心を壊すこと無く、子供から大人へと成長できたと実感しました。

 物事の正しい事を推し量る理性をその少女はその身をもって育ててくれたのです。


 時は流れて幾星霜、私は今大学生の4回生です。

 今も尚後遺症は続いていますがあの妖精の少女が姿を現すことはめっきり少なくなりました。

 自分でも分かってはいたのです。


 あの子が自分の生み出した幻覚であり妄想であるという事は。


 それでも私はあの子が本当に妖精として実在していたと信じています。

 あの子が育ててくれた理性があの子を否定しても、私の心はこれからもあの子の存在を否定せずに生きていく事でしょう。

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