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 「お父さんがタイホされた」


 ヤンがそんな衝撃的な報告をしてきたのは三日前だ。


 「と、ゆうことは、あれですか」

 「『申請』が通らなかったってこと?」

 忙しないシュウのとなりでぼくも顔をしかめた。

 「そうかなって、思ってた」

 ハルカだけが冷静だ。


 「ミャンマーに返されたら、殺される」


 なんでそんなことになるのかわからないけど、


 ヤンの両親は日本で暮らすために『申請』をだした。

 署名を集めて、クラスで裁判所に手紙を書いて、それで、


 「入管に連れてかれちゃったんだ」


 なんでそんなことになるのかは、さらにわからなかった。


 「悪いことなんてしてない」

 ヤンがくりくりの目を、悲しそうに伏せる。


 そんなのはわかってる。


 『入国管理局』はどうしてヤンのよさがわからないのか。


 優しくて明るいヤンは披露山小の人気者だ。いなくなれば、日本は甚大な損失を被ることになる(シュウ談)。


 「と、ゆうことは、あれですか」

 「あれだよ、」

 「フウはそうゆうと思ってた」

 ハルカがバラを背負って笑う。

 「お義父さんの息子だからね」(ちなみに、ハルカはぼくのパパをお義父さんて呼ぶ)

 「こんなときはお義父さんは頼るべきだ」

 「え、そうかな」

 ツキノワグマに代弁してもらわないと会話もできないパパに、この局面でなにができるのか。


 「と、披露山小の守り人、」


 ほかに切り札が?


 ハルカが立てる人差し指に、ゴクリ、喉を鳴らす。


 「ベティちゃん、だよ」

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