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「ダメだった」
部屋に戻って、パパとの交渉決裂をこっそり、ハルカに報告する。
「そう、だから、」
コン コン ココン
「パパだっ。また、あしたね、」
ノックがして、あわてて電話を切る。
「入るぞ」
カチャ、て、控えめな音を立てて、パパが顔を覗かせた。のっそり、半分だけ開けたドアから顔をだしてやっぱり、クマみたいだ。
「ごはんだ」
「あ!」
しまった、夕飯の時間をとっくに過ぎてる!
あわてていすからとびおりた。
「フウ、これ運んで?」
歌うみたいにママがかき混ぜるお鍋からトマトのいい香りがする。
パパはすでにテーブルについて、鼻をひくひく、羨望の眼差しでママが盛るスープ皿を見つめている。動物園の、クマみたいだ。
逗子を唸らせた大泥棒、て、ほんとなのかな。
「食べる前に、フウ、これ、ランドセルに入れちゃって?」
ママがテーブルにつく前に封筒を渡してきた。
「まりちゃんに渡して? ヤンくんの、」
「うん」
ヤンはぼくのクラスメイトで、学校に寄付されたおさがりのランドセルを使っている。
それで、じぶんのものを買えるようにママたちが募金を集めていた。きっとそれだ。
ぼくはその封筒を手にして、ちょっと悲しい気持ちになった。
「じゃぁん! きょうはパパの好きなボルシチです!」
夕飯はいつもパパの好きなものだ。ハンバーグとか『スパゲッティ』とか。
「どぉぞ! たくさん食べてね!」
世界中のしあわせと平和をかき集めたみたいなパパとママを背に、ぼくは封筒を、リビングに放りだしたままのランドセルに突っ込んだ。
これは、もう必要なくなるかもしれない…
「テットリバヤクさ、いっそヤンを盗みだしてほしいんだよ…パパ…」
たぶん、口にでていた。
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