ネリネVS.シオン ~女の闘い勃発~

 モズの村の片隅に伝馬の小屋はあった。

 ドラゴン退治に来た伝馬たちのために、簡素ではあるが村人たちが作ってくれたものだ。

 そこで伝馬とネリネは一ヶ月の別離を埋めるように、飲み物片手に談笑に興じていた。その傍らにはベッドで眠るシオン。健やかな寝息を立てている。


 「う、ううぅ~~~ん……」


 伝馬のベッドに寝かせていたシオンが起きてきた。


 「あ、起きた」


 伝馬は談笑を止め、シオンの傍へと立った。ネリネもその後ろについてきた。


 「んん……テンマ……? ボク、寝てたの……?」


 むっくりと上体を起こしながらシオンが言った。


 「うん、電マこれを使ったからね」


 伝説の……もとい電マを取り出して見せる伝馬。危ない台詞と絵面だが、伝馬に悪気はないし、異世界だからセーフ。


 「それより、胸は大丈夫? 痛んだりしない? 苦しいとかない?」


 そう心配そうに言う伝馬を見て、シオンの顔がポッと赤くなった。


 「う、うん、大丈夫……」


 シオンは何故か突然、照れたようにはにかみ、


 「ちょっとドキドキするだけだから……」


 しおらしく、乙女なそぶりを見せ始めた。声音もどこか高め。伝馬は、こんなシオンを見るのは初めてだった、

 が、


 「なにっ!? ドキドキするだって!? また電マこいつの出番か!」


 ドキドキという単語でまた胸の不調を疑った伝馬、早速電マのスイッチを入れた。



 ヴヴヴヴヴイイイィィ~~~~~~ンンンンンン……………!!!!



 電マの唸りが、部屋に響き渡る。


 「ち、違う違う! そうじゃなくって!」


 電マアレを食らっては色々な意味でたまらないシオン、伝馬を慌てて制止した。


 「電マそれはもういいから! 大丈夫だから! これは……その……違うドキドキだから……ヘーキなやつだから……」


 「そう? ならいいんだけど」


 そう言われて、伝馬は電マのスイッチを切り、腰のベルトに差した。

 その伝馬を押しのけるようにして、ネリネはシオンの前に仁王立ちになり、


 「ねぇ、私、あなたに聞きたいことがあるんだけど?」


 厳しい顔で腕組みし、ベッドに座るシオンを、触れれば切れそうな目で見据えて言った。とっても威圧的で、敵意剥き出しだ。


 「なに? この女?」


 シオンも負けていない。ネリネを一瞥すると、目元にやや不快感を浮かべながら冷たい顔でネリネの威圧感を華麗に受け流し、まるで無視するように伝馬の方へと視線を向けた。


 (え、ちょっと、な、なにこれ……!?)


 一触即発の空気を鋭敏に感じとった伝馬、背筋に冷たいものを感じた。


 「あ、あぁ、こちらはネリネ。朝焼けの騎士団の騎士さんで、ドラゴン退治を手伝ってくれるんだって……」


 伝馬は双方を簡単に紹介をした。


 「……」

 「……」


 二人とも、無言。いよいよ吹き始めた波乱の嵐を、伝馬は肌でひしひしと感じた。


 「……で、こちらがシオン。僕がハクトウの街で困ってるときに助けてくれたんだ……」


 「……」

 「……」


 やはり、無言。一応紹介は終わったが、二人が歩み寄る素振りはない。相変わらず部屋は冷たく重い空気に支配され、睨み合う二人の目線の間にほとばしる火花だけが熱い。今にもゴングが鳴り出しそうだ。

 この尋常ならざる雰囲気、伝馬はどうしていいかわからないまま、凍りついたように動けなかった。


 「シオン、聞きたいことがあるの」


 先に仕掛けたのはネリネ。


 「単刀直入に聞くわ、あなた、何を企んでるの?」


 その不穏な響きに、伝馬はドキリとした。隣のシオンはもっと露骨にドキリとしていた。


 「……企んでる? ぼ、ぼぼ、ボクが? 何を? え? え? 一体全体、何が何だか、ま~るで意味がわからないね~、えへ、えへへ、ピ~ヒョロロ~」


 余裕ぶって口笛まで吹いてるが、その目は波間のイルカのように泳ぎまくって飛んだり跳ねたり。


 「あなた、テンマから手紙を預かったでしょ? でもちゃんと出さなかったみたいね? なぜ?」


 「……ちゃんと出したよ」


 「嘘ね。バレバレよ。朝焼けの騎士団員宛の手紙に郵便事故なんてありえない。あったとしても、その旨ちゃんと届けるはず。それすらないってことは手紙を出してないってこと」


 言って、ネリネは持っていた杖を構え、シオンの鼻先に突きつけた。緊張が一気に高まる。


 「ちょ、ちょっと、ネリネ!?」


 慌てる伝馬。声も裏がえる。


 「テンマは黙ってて! これは大事なことなの!」


 「……!」


 切りつけるようなネリネの語調に伝馬は息を呑み、黙ってうなずくしかなかった。


 「シオン、きっとあなたはこう考えた。私とテンマの連絡を断ち、テンマを自分のものにしようとした。テンマの力を利用して、領主へと働きかけることで自らを高めようと図った。向上心と野望を持つ女にとって、テンマほど都合のいい男はいないものね。この世界に来たばかりで、いうなれば天涯孤独、知識も常識もない迷子の子供のような単純明快で優しく純真純粋無垢、疑うことを知らない能天気童貞男は、さぞ扱いやすかったことでしょうね?」


 「……」


 ディスられたような気がした伝馬だった。

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