第五章 電マ大決戦
電マを持った勇者
地上からいくつもの電光が尾を引いて高空へと放たれ、雲間へと吸い込まれてゆく。
雲の向こうで、閃光が走り、青い空が一瞬白んだ。ついで、衝撃音と、野太く巨大な咆哮が轟いた。
「当たった!」
「やったぞ!」
「どんなもんだ!」
「来るぞ! 皆、油断するな!」
電光を放った幾人もの魔術師たちが、それぞれの得物である杖を空へ向かって構えた。誰もが息を呑み、それが降りてくるのを待った。
それは程なくしてやってきた。巨大なドラゴンだ。雲を裂き、高空から一直線の急降下。翼を畳み、四肢を縮こまらせ、鋭く恐ろしい目は地上の魔術師たちを捉える。
「来た……! 総員、『シールド』準備……構え!」
リーダー格の魔術師が叫ぶ。魔術師たちの杖の先に青い光が灯る。
「まだだ、まだ引きつけろ。ギリギリまで引きつけるんだ……!」
ドラゴンがどんどん近づいてくる。巨体がみるみるうちに魔術師たちの視界の中で大きくなってゆく。
ドラゴンとの距離が百メートルを切った。そのとき、
「今だ! 『シールド』展開!」
「展開!」
「展開!」
「展開!」
全員が一斉に『シールド』を展開する。水色の半透明の『シールド』が頭上へ展開される。さらに魔力を注ぎ込み、『シールド』をより硬く、より大きくしてゆく。『シールド』同士が触れ合うと、溶け合うように合体、一枚の『シールド』となった。彼女ら全員を覆う太く厚く巨大な、対ドラゴン用の『シェルター』である。
『シェルター』完成からわずか一秒後、隕石のように急降下してきたドラゴンが『シェルター』に衝突した。
凄まじい衝突音が辺りに鳴り響いた。まるで薄い金属同士を激しくぶつけたような、重厚でありながら甲高く、耳にクる音だった。
ドラゴンが『シェルター』に張り付く。衝突点にヒビが入っている。ドラゴンは鋭く巨大な爪と牙を使い、ヒビを攻める。薄い金属を裂くような、ガラスをひっかくような音が響き渡る。
魔術師たちは顔を歪ませた。それは『シェルター』から出る音の不快感だけではない。『シェルター』を維持のために魔力を注ぎ続けるのは、肉体的にも精神的にもかなりの負荷がかかるためだ。
中でも一番辛そうにしているのがリーダー格の魔術師だった。彼女は歯を食いしばった。額から汗が滝のように落ちる。彼女の後ろで一つに結んだ長い髪が小刻みに震える。皆、疲労困憊だ。限界は近い。
「ブルット・フルエール……早く……来て……!」
一人の魔術師の、食いしばった歯の隙間から、ポツリと苦しげな声が漏れ出した。
そのときだった。
遠くから駆けてくる一人の少年の姿があった。
それを見て、沸き立つ魔術師たち。
「来た……! 来たッ!」
「ブルット・フルエール!」
「英雄だ!」
疲労を忘れたように、魔術師たちは歓喜の声を上げた。
少年は走りながら腰のベルトから『伝説の魔剣』を抜き払い、秘められた性能を解放した。
ヴヴヴヴヴイイイィィ~~~~~~ンンンンンン……………!!!!
『伝説の魔剣』は唸りを上げ、地を揺るがし、大気震わす雷音のごとく振動を開始。
少年はそれを棒高跳びの要領で地に強く押し当てた。同時にしゃがみ込み、ぐっと足に力を込める。そして、次の瞬間、
大跳躍。空へと跳び上がる少年。
これが『伝説の魔剣』の力だ。その振動を利用し、地面と接触させることで強い反発力を生む、反発力が最大限になったタイミングで跳躍することで、人智を遥かに超えた大ジャンプが可能となるのだ。
凄まじい速度で跳ぶ少年。まるで流星のごとき疾走。少年はそのままの勢いでドラゴンへと突入した。
ドラゴンが気付いたときにはもう遅い、彼はもうドラゴンの目の前。右手の『伝説の魔剣』をその鼻っ面へと押し当てていた。
ヴヴヴヴヴイイイィィ~~~~~~ンンンンンン……………!!!!
『伝説の魔剣』がドラゴンへと突き立てられる。振動がドラゴンの鼻っ面から全身へと波及する。ドラゴンの体内魔力の流れに狂いが生じ、同時に混沌魔力が生成される。制御不能の魔力と混沌魔力がドラゴンを襲った。
「きゃううううぅぅぅ~~~~んんんん………………」
小型犬の子犬の鳴き声のような可愛らしい悲鳴が上がった。ドラゴン悶絶。空中をふらふらくねくねとよじったりひねったり、やがて力なくシェルターに乗っかると、すべり台を滑るように降りてゆき、地上へと墜落した。
それと同時に『伝説の魔剣』を持った少年も華麗に着地。着地間際に地面との最初の接触を足でなく『伝説の魔剣』を地面へと押し当てることで、着地の衝撃を完全に吸収し、相殺した。おかげで全くの無事無傷。
「ふぅ、一丁上がり、だね」
『伝説の魔剣』片手に、一仕事終えた少年の顔はとても爽やかだった。
「きゃ~、かっこいい~」
「勇者様~」
「ブルット・フルエール様~」
「お見事ですわ~」
シールドを解いた魔術師たちが少年の元へ、我先にと駆けてくる。一番足の早かった一人が少年の胸めがけて飛び込んだ。文字通りの抜け駆けだ。
少年は苦笑しながら受け止める。危ないので『伝説の魔剣』の能力は切ってある。胸に頬寄せる女性に困っていると、
「ちょっと!」
「ずるいずるい!」
「あたしもあたしも!」
後の三人が少年を取り囲んだ。これじゃ勇者というよりアイドルだ。
毎度のことだ。少年も慣れてきている。少年は苦笑こそ浮かべていたが、今のところ特に害もないので、やりたいようにさせておくことにしている。
(嫌われるよりはマシだ……)
根っからポジティブな少年なのだ。
女性たちがベタベタとくっつき、身体をソフトに、またときには大胆にまさぐられながらも、少年の心は別の方を向いていた。
(イジュ……無事かな……)
少年はさらわれた少女を思い、心のうちでため息をついた。
その眼差しはやや日の傾きかけた空の彼方を見ていた。薄く引き伸ばされた雲が遠くの山にかかっていた。
『伝説の魔剣』、もとい『電マ』を持った少年がドラゴン退治のため辺境の村に来てから、もう一ヶ月が経っていた。
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