半裸電マ男は英雄
肝心のドラゴンは、殺虫剤にやられたゴキブリみたいに、少し遠くでひっくり返っていた。鱗は焦げ、ぶすぶすと残煙を上げている。ドラゴンの姿焼き一丁。焼き加減はレアといったところ。
「イジュ、君ってスゴいんだね……」
ふと、イジュを見ると、
「イジュっ!?」
イジュは杖を支えにしてふらふらしていた。
慌ててイジュを支える伝馬。イジュはその腕に力なくもたれかかる。
「疲れちゃった……」
「疲れただけか? 怪我してないか? 痛いところはないか?」
「うん、大丈夫……とっても眠いの。もう眠いから寝るね……。おやすみなさぁい……」
そう言うと、イジュはくったりしてしまった。伝馬の腕の中で寝息を立て始めた。伝馬は慎重に様子をうかがった。
(どこも怪我はなさそうだ、ということは、本当に疲れちゃっただけか)
ホッと一安心。
(無理もないか、これだけ派手にふっ飛ばしたら、そりゃ疲れるよ……)
二人の周囲、半径五十メートルほどは荒涼としてしまった。ちょっと前までハイキングコースだったのが、今や爆心地。焦げた土や草木がまだくすぶっている。
と、そのとき、
「あ……!」
遠くで倒れていたドラゴンがゆっくりと起き上がった。どっこい生きてるタフなやつ。
「ま、マジか……!?」
あまりにしぶとい生命力に、伝馬はビビりながらも賛嘆した。
(さすがドラゴン、一筋縄じゃいかない……!)
どこぞのカエル並に根性のある生命体、それがドラゴン。
ドラゴンが向かってくる。ただれた足を引きずり、折れた牙をむき、破れた翼膜をはためかせ、目を憎悪と激憤につり上がらせ。
「イジュ、あとは僕に任せて……!」
伝馬はイジュをその場に寝かせると、ドラゴンへと向かっていった。
走っているうちにハラリ、ドラゴンの爪によって破られた上衣がはだけ、半裸になってしまった。
上半身裸になっても、そんな些細なことは気にならないし、気にかけない。今はただ、迫りくるドラゴンを倒すこと、それだけに集中している。
上半身裸の少年、その手に電マを携え、駆ける。
半裸電マ男だが、人を外見だけで判断しれはいけない。伝馬の行動はあくまでも英雄的であり、決して変態のそれではない。
半裸電マの英雄は電マを起動した。
ヴヴヴヴヴイイイィィ~~~~~~ンンンンンン……………!!!!
電マの唸りとともに疾駆するその姿は、見ようによってはカッコよかったりしなくもない気がしないでもないような今日このごろ。
対するドラゴン、迫りくる半裸電マ男に向け、大きく口を開いた。口が光り、火球が放たれた。
人一人を飲み込むほど巨大な火球だが、そんなものは半裸英雄には効かない。なぜなら電マがあるから。ただのマッサージ機器と侮るなかれ、
伝馬は放たれた火球に電マをかざした。電マと火球がぶつかる。
ヴヴヴヴヴイイイィィ~~~~~~ンンンンンン……………!!!!
電マで火球を迎撃、打ち消した。
続けざまに何度も火球が放たれる。しぶといやつは攻撃もしつこい。
だが、何度やろうと伝馬の電マの前に、いかなる攻撃も意味を持たない。ただ疲労を重ね、徒労と終わるのみ。
電マは火球をことごとく打ち消し、後に残すは魔力の残滓と疲れ果てたドラゴン。
火球を吐こうとして、ドラゴンは大きく咳き込んだ。限界だった。咳とともに噴煙が口吻から漏れる。もう一発火球を吐こうとして、やはり咳き込んだ。打ち止めだ。
それでもドラゴンは伝馬を屠るためにその大きな尻尾を使った。ムチのようにしならせ、伝馬に横薙ぎに叩きつけようとした。
横から迫る巨大な尻尾に向かって、
「えいっ!」
伝馬は電マをかざした。
ヴヴヴヴヴイイイィィ~~~~~~ンンンンンン……………!!!!
電マの先端に尻尾が触れた瞬間、尻尾はその勢いを完全に失い、静止した。電マの振動が尻尾のの衝撃を打ち消したのだ。物理的にありえない現象だが、電マは物理を超える。
なんなら理屈すら超える。魔力と電マが組み合わせの前には、いかなる常識も通用しない。
さらに電マに触れることで、ドラゴンの体内の魔力が混沌魔力へと変化してゆく。変化には快楽を伴い、振動による快楽の伝播は押しては引き、引いては満ちる波のようにさらなる快感を生む。
「アアアァァァオオおぉぉ~~~~~ゥゥんんん……!!」
巨体と、その風貌から想像もつかない異様に可愛く甲高い嬌声を発し、ドラゴンはくにゃくにゃと身を震わせた。
「終わりだ……」
つぶやき、くるりと背を向ける伝馬。まるで剣豪の風格だが、見た目はあくまでも半裸電マ男。
その背後、わずかな間を置いて、ころんと転がるドラゴン。斬り捨てられたかのような倒れ方だが、その顔はとっても幸せそうだ。
当然だ。剣ではなく、電マでやられたのだから。
よほど気持ちよかったのだろう、ドラゴンはそのまま眠りに落ちた。やがて熟睡。大きないびきをかきだした。
半裸電マ英雄の勝利だ。
(ふぅ、なんとかなった……)
死闘の緊張感から開放され、伝馬は崩れるように地面に尻餅をついた。
「うっ」
その衝撃でわずかに背中が痛んだ。イジュのリカバリーの魔法のおかげで、背中の傷はほとんど癒えていたが、まだ多少の痛みと、ひきつるような感覚がある。
「ちょっと試してみるか……」
いつぞややった、『自己接触法』を試すことにした。『自己接触法』というとものすごく怪しげだが、なんのことはない、ただ電マを自らに当てるだけだ。至って普通の正当かつ健全な本来あるべき使用方法だ。
(ネリネもマロニエも、これを食らった人たちはみんな、その後で調子が良さそうだったから、やってみる価値はある)
というわけで、レッツトライ。
ヴヴヴヴヴイイイィィ~~~~~~ンンンンンン……………!!!!
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」
電マを背中の傷に当てる。気持ちよくて思わず声が出る。電マの振動が声を震わせる。顔面が快楽と振動に歪み緩みまくり。
気持ちよく寝ているドラゴンの隣で電マに興じる半裸少年。その姿、見ようによっては優雅なのかもしれない。
わずか数秒当てただけで、
(痛みが消えた……!)
背中の痛みは癒え、ひきつる感覚もなくなった。元の健康な身体になった。さすがは健康器具だ。
さて、ドラゴンも倒し、健康になった、あとはイジュを連れて村に帰るだけだ。伝馬は気分ルンルン、軽やかな足取りでイジュのもとへと歩き出した。
イジュはまだ寝ていた。こちらも健やかな寝息を立てている。よっぽど疲れたらしい。
(子供はどこでも寝れるんだなぁ)
伝馬はそんなイジュを微笑ましく思った。イジュを起こさないようにそっとおんぶした。
と、そのとき、
空からドラゴンの喚声が轟き、響き渡った。
(一体じゃない……、二体、三体、いや、それ以上……!?)
どうやら厚い雲の上には、複数体のドラゴンがいるらしい。
伝馬は身構えた。腰の電マを抜き、再びスイッチオン、ドラゴンに備え、空を見上げた。雲でその姿は見えないが、声は激しい。
しばらく身構えていたが、やがてドラゴンの声は遠ざかっていった。一安心。だが、それも束の間、その遠ざかっていった方向が、
「ま、まさか……!」
遠ざかるドラゴンの声の方向は、伝馬の目的地と一致する。
「あっ……!」
視線の先、雲にいくつもの切れ目が走った。そこから陽光とともに降り注ぐ五体のドラゴン。ドラゴンたちは一直線に、伝馬の眼下へと降りていった。そこは伝馬とイジュの帰るところ、ヨウムの村だった。
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