伝説の魔剣、略してデンマ!? 伝説の魔剣だか電マだかわからないけど、キノコ型の振動するヤツで異世界をイきヌきます!!! ~電動マッサージ機は伝説の魔剣の夢を見るのか~

摂津守

プロローグ

それは姉の愛用品

 ここに朝っぱらからリビングでゲームをしている十五歳の少年がいた。

 名前は新堂伝馬。高校一年生。別に学校をサボっているわけじゃなく、今日は創立記念日で休み。

 と、そこへ姉から電話がかかってきた。


 「ねぇ伝馬ちゃん、お姉ちゃん忘れ物しちゃったの。講義でどうしても必要なんだけど、取りに戻ってる時間がどうしてもなくって、伝馬ちゃん今日は暇だって言ってたじゃない? 良かったら届けてくれないかなぁって。お願いできる? いい? よかったぁ。私の部屋の机の上にあるから。そう、それそれ、そのピンクの小さな紙袋。中身は見ないで、紙袋ごと学校に持ってきてちょうだいね。ありがと、好きよ伝馬。ちゅっちゅ。じゃあ、あとで。あ、中身は絶対に見ないで。絶対だよ」


 ちなみに伝馬には五人の姉がいて、今のは四番目の姉、葵ねえからだった。

 葵ねえは五人いる姉のなかでも一番彼に優しい。普段お世話になっているからそのお礼にとして、これくらいのことはお安いご用だ。


 (ところでこれ、なんだろう?)


 伝馬、紙袋の中身がとても気になる。重くはないが、めちゃくちゃ軽いわけでもない。

 現在、電車の中。葵ねえの待つ駅まで約十分。微妙に暇な時間。つまり、中身を覗くのに丁度いいタイミング。

 中身は見るなと言われていたが、見るなと言われると見たくなるのが人間だ。


 (バレなきゃセーフセーフ)


 というわけで伝馬、取り出してみた。ブツはナイロンの袋に入っている。ナイロン袋を開け、中身を取り出した。


 「……なんだこれ?」


 思わず声がでた。


 それはキノコ状をしていた。全体的に灰がかったクリーム色。先端がキノコの傘のように膨らんでいる。傘部分と持ち手部分はゴムかシリコンような素材で手触りがいい。持ち手のすぐ上にはスライド式のスイッチがあった。


 早い話が、これは電動マッサージ器具、略して『電マ』である。電マというと、妖しげなアイテムかと思われたり、妖しげな使用法を想像する方もおられるかもしれないが、本来は健全にして健康的なる器械だ。


 これはあくまでも名前の通り、ただのマッサージ器なのだから。

 使用法はかんたん。スイッチを入れ、キノコ状の先端を当てたいところに当てるだけ。それがとても気持ちい~いそうな。

 老若男女問わず使える、お役立ちアイテムだ。うら若き乙女、水も弾く柔肌の女子大生が所持していても、決して怪しいものではない……はず。

 老若男女を問わないアイテムだが、伝馬は電マを知らない。初めて目にして、初めて触った。


 (どうやって使うんだ……?)


 よくわからない。講義で使うと言っていたから、実験器具なのかもしれない、と伝馬は思った。


 (下手に弄らないほうがよさそうだなぁ)


 とは思いつつも、


 (ポチッとな)


 ついついスイッチを押してしまった。スイッチがあると、押してみたくなる性質なのだ。


 すると、


 ヴヴイイイイイ~~~~ンンンンンン…………………!!!!


 振動しはじめた。伝馬は驚いて、思わず取り落しそうになった。そんな伝馬の様子を見て、周りの人がクスクス笑った。伝馬はとても恥ずかしくなった。


 (びっくりして落としそうになっただけで、なにもそんなに笑わなくてもいいだろ……)

 

 すぐにスイッチをオフにして紙袋にしまった。周りの人はまだ笑っている。超恥ずかしい。


 (勝手に見て、勝手に弄ったバチが当たった……)


 顔が熱かった。周囲の目がいたたまれなくなって、伝馬は逃げるように別車両に移動した。


 (これ、一体なんなんだろう?)


 窓の外を見ながら、この謎の器具について考える。


 (ひょっとしたら、大学の秘密実験用特殊装置とか? 古代文明の遺したロストテクノロジー? 外宇宙からのオーバーテクノロジーの可能性も……? なんて、そんなファンタジーみたいな話、あるわけないよな。そんな夢のありそうなデザインしてないし)


 自分の妄想力のたくましさに、思わず笑ってしまう伝馬。電車の中だということを思い出し、すぐに笑いを噛み殺した。


 (きっと、大した器械じゃないんだろう。もし大学の高い実験器具なら、家に持ち帰れるわけないし)


 そう結論付けたが、なんとなくこの器械が気になってしょうがない。なぜだろう、あの器械はなんとなく、男を、いや人類を引きつける魅力のようなものがあるような気さえしている。

 電車が目的の駅についた。降りて駅を出ると、駅前の大通り、車道を挟んで向こう側にメガネをかけた、ゆるふわな栗色髪の女性がいた。


 葵ねえだ。まだ伝馬に気付いてない。

 葵ねえはとても目立つ。なぜなら美人なだけでなく、胸がとてつもなくデカいから。まるでそびえ立ったツインタワー。ほら、今も周りのヤロー共がチラチラ盗み見てる。

 伝馬、手を振る。

 葵ねえ、気がついた。


 「て~ん~ま~ちゃ~ん~!!」


 満面の笑みで大きく手を振る姉。連動して揺れる胸。手の動きに合わせるように左にバイン、右にボイン、上にプルン、下にポヨン。

 それだけならまだしも、何がそんなに嬉しいのか、葵ねえは突然ぴょんぴょんと飛び跳ねだした。暴れ狂うツインタワーに、周囲のヤロー共も思わずガン見。


 (葵ねえ、街中で人の名前を叫ぶのは止めて……)


 本日二度目の羞恥。赤くなった顔を伏せた。


 (ああ、早く葵ねえと合流しないと!)


 赤信号というのはこんなときに限って長い。赤信号の間、葵ねえはずっと向こう岸の伝馬に向かって飛び跳ね続けている。大学生とは思えない無邪気さ。


 (葵ねえは優しくていい姉だけど、いい加減もう少し大人になって欲しい、せめて年相応に……)


 長かった羞恥タイムにようやく終わりの兆し。車側の青信号が点滅した。赤になった。


 (やっとか……!)


 伝馬は歩行者信号が青になるのを待たずに駆け出した。

 これがダメだった。


 (あっ……)


 と思ったときには遅かった。伝馬の身体は宙を舞っていた。目の前の映像がスローモーションに流れていた。まるで時間の進みが遅くなったみたいだった。おかげで伝馬は現状を冷静に分析することができた。


 (あ、これがいわゆる交通事故で、僕は車に轢かれちゃったってわけか……)


 青信号まで待てば、いや、ちゃんと左右を確認してさえいれば……、宙を舞うわずかな間に色々な思考が、伝馬の頭の中を駆け巡っては消えていった。

 そして墜落。地面に横たわる伝馬。視界と思考が滲み、音は歪み、全身から力と感覚が抜けてゆく。


 (おおぅ……、もうダメ……)


 伝馬が最期に見たのは、駆け寄り、抱きかかえ、泣き叫ぶ葵ねえの姿。

 半狂乱の葵ねえの胸は、相変わらずとてつもなく揺れていた。

 意識が切れた。

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