第50話 魔力と寿命

「——ならこうでしょ?」


「いやいや、そこはここから繋いだほうがいいと思いますぞ」


「え〜、それだとここが」



カリカリカチャカチャと作業する音と、時々鳴り響く爆発音をBGMに周りの環境も魔法で操って邪魔が入らないように続けていく。



「こっちに重ねれば」


「何しているのですかシオリ様!」


「うひゃぁっ!?」



突然肩に乗せられた手にビクぅぅぅぅぅっ!!と体をはねさせた。

バッと振り返ると、そこにいたのはアルマとリリアだった。



「び、びっくりしたぁ······。気配を消して近づくのはやめて?心臓にすごく悪いって·······」


「え?ちゃんと声をかけましたよ?全く気づいてくれませんでしたけど」


「うそっ!?」


「アルマは何度も声をかけていましたよ。気づかなかったのはマスターです」


「ホントですよ。目の前に立って言っても気づいてくれませんでしたし········」


「うっ········ごめん。次からは気をつけるね」



いくら楽しかったからって目の前に立った人にすら気づかないなんて。いくらなんでも熱中しすぎだったな。そういえばグラセフは———いた。むちゃくちゃ真剣に魔法紙に魔法陣を書き続けてる。なんかビンビンに近づくなオーラが出てるように見える。


·······わたしもあんなふうに見えていたのかなぁ?なんか普通に恥ずかしい。


リグルスはどうしてるんだろう。



「こっちにここから配線を持ってくればここに更に魔力をつぎ込めるはずじゃ·······!!足りないのはこっちから持ってきて······。よし、これに魔力を流し込んで———」


ちょ、そこの部分の耐久値でその魔力量の集中は危険すぎると思うんだけど?そんな術式のまま起動なんてしたら————



「あ」



ドンッッ!!!

パラパラと土煙と降り注ぐ地面だった破片の中で人影が現れる。



「むう·····やはり耐久力が課題かのぅ。これ以上の強度だと刻みにくくなってしまうからの。ならばここの線をいくつかに分割して———」



·······いや、タフすぎでしょ。

明らかにさっきの爆発って直撃してたし、魔力障壁も張ってなかったよね?なんであの御老体で煤けるだけで済むのかが分からない。これが研究への執念がなせる技なのかな······?


さすがにアルマがぽかんとした顔でリグルスを見ている。リリアは———どっちかって言うと呆れてるような気がするね。まあ、やってることは完全に馬鹿のやることだから否定できないんだけど。



「アルマ、大丈夫?宮廷医師のところに行こうか?ポーション飲む?」


「———はっ!?あ、いえ大丈夫です。ちょっと目の前で起きたことが受け入れられなかっただけですから」



うん。そりゃああんなものをいきなり目の前で行われたら誰でも一瞬は思考が跳ぶでしょ。

でもまあ一応中級ポーションをアルマに飲ませておく。色々と周囲に転がっているから混じって毒性を持つものになってる可能性もあるし。

というか、魔法陣を書くためのインクの材料のほとんどが色んな意味で危険なものやバカ高級なもの、そもそも毒そのものだったりとやばいやつばっかりだしね。

·······切実に安全な魔法塗料が欲しい。


足元に転がってるポーションの空の瓶の数がその理由でもある。



「マスター。熱中するのもいいですが仕事もしてください。もうとっくに夕方ですよ」


「·····ああ。ちょっと暗いなーって思ってたらもうそんな時間だったんだ」


「フォネア様が決済が進まないと荒れていらっしゃいましたので、催促しに来たのです」



そういえば今日は予算決済の書類が届いてたな。こっちの事してる内にすっかり忘れてた。



「分かった。そろそろ戻るよ」


「まずは夕食を済ませてからですね。今日のメインはワイバーンのステーキですよ」


「ちなみに料理長たちが張り切っていましたから、ちゃんと食べてくださいね?」


「········了解」



本当は食べずに決済を済ませようと思ってたけど、そんなことを言われたら食べるしか無い。リリアだけじゃなくてアルマにも性格を掴まれてきてる気がする。



「そういえばこのごろ空腹を感じなくなってるんだけどなんでだろう?特に多めに食べてるとかしてないんだけど」


「恐らくは魔力の膨大な量が原因かと思われます」


「魔力?」



リリアの言葉になぜ魔力?とクエスチョンマークを浮かべる。



「魔力が生命維持に必要なものなのは知っておられますよね」


「うん。魔力切れは最低限の生命維持に必要な量を下回りそうなときに、意識を強制的にシャットダウンさせて使わせないようにするためのものでしょ?」


「はい。簡単に言えば魔力イコール生命力といった関係になります。普通なら体の維持には魔力だけでは足りず、食事で物理的に栄養を取り込むことで不足分を補っているのです。体の維持を魔力だけでしようとするととてつもない魔力が必要になります。しかし、マスターの魔力総量は以前の四倍以上。魔力の回復量が割合回復するという性質上、マスターの体の維持に必要な魔力量を回復量が上回っているのです」


「······ってことはわたしはもうお腹が空くことはないってこと?」


「いえ、魔力が少なくなったりすれば一時的に食事で魔力の負担を軽減しようと空腹になることはあるかと。まあ、精霊樹とパスが繋がっている現状、そうなることは限りなく低いと思われますが、嗜好品として楽しむことは出来ます」


「なら······いい、かなぁ?」



食べられなくなるなら困るけどお腹が空かなくなるだけだし、便利ぐらいに考えておけばいいかな?



「それならいいや。じゃあ食べに行こう。ワイバーンの肉って美味しいんだよねー。A5の黒毛和牛の霜降り肉みたいだし」


「ちなみに魔力の量次第で寿命も伸びます。外見も年を取りません」


「——————え?」


後ろから聞こえた衝撃的な一言に足が止まる。


寿命が·······伸び、る?



「ちょ、ちょちょちょちょちょちょちょっと!?寿命が伸びるってどういうこと!?」



思わず肩を掴んで思いっ切りリリアをガクガクと揺らす。



「先程、魔力はイコールで生命力と言いました。つまり、生命力で満たされていれば身体機能の劣化は起こりません。病気などの例外もありますが、魔力さえあれば大抵の傷はすぐに癒えますし致命傷でも殆ど癒えてしまいます。事実上不老の上不死に近いのです」


「なにそのチートは!?」



ラノベの主人公たちでもなかなか持ってなさそうな力だ。

······ん?チョット待って?

てことはわたし、女神様が言ってた一万年ってほんとうに生きれちゃうの!?

だからあんなこと言ってたんだ!!



「くっ······まさか自分がそんな事になってたなんて」



地球で暮らしてたら見た目が年取らないとか誤魔化しようがない。下手しなくても化け物扱いだよ······。


しばらくどうしようかと悩んでいたけど結局いい案が浮かばなかったから、後で困ったときに考えればいいやと言う結論に達した。

ただの現実逃避だ。



気を取り直してわたしが歩き出そうとすると、アルマがグラセフたちを指差す。



「お二方は放って置いていいのですか·······?気づいてすらいないようなのですが」


「まあそのうちお腹が空いたら来るでしょ。今声をかけたら怖いんだよね、反応が」


「お二方の分は別にして置いておいていただくように指示しておきます」


「お願い、リリア」



結局二人がそれを食べに来たのは、翌朝の早朝だったらしい。

徹夜までするとか一体どんな集中してたんだろう。普通は明るさとかで気づくと思うんだけどね。

ちなみに二人共翌日は溜まっていた仕事に忙殺されたらしい。

結局作業が再開したのは三日後のことだった。



◼️◼️◼️



「よし!今日で仕上げよう!!」



この三日間はほぼわたし一人で、時間を見つけては少しずつ少しずつ作っていた。爆発に関してリリアたちに厳重注意をもらったから十分注意して作業している。まあ、何回か爆発したけどね。流石に試運転無しで完成させられるなんて慢心できないし、そもそも代わりに呼んだ魔導具師たちがあんまり役に立たなかったのも原因の一つだし。


皇国内でも最も腕に自信のある魔導具師を連れてくるようにって伝えたのに、まさか最初の魔法式の解析から何時間もかかるなんて。

こんなのが皇国最高の職人の一角なのかと思わず天を仰いだレベルだった。

でも今日ようやくリグルスとグラセフが参加できるようになった。頼もしさが段違いすぎる。



「ふむ、陛下だけでここまで作られるとは········。もう3日もあれば最終段階まで完成させられたのではないですかな?儂らのいる意味ありますかな?」


「わたしひとりだと全然進まないし、三人寄ればなんとやらでしょ?わたしだけよりも圧倒的に効率もいいしね!」



単純に一人は寂しいし、行き詰まったときに手を貸してもらえないのはキツイ。いちいち調べに行かなきゃいけないし、組み立てとかは専門外すぎて普通に困ってた。まあなんとか元の設計図らしいものを見ながら組み立てることは出来たけど、時間がかかりすぎるし手間はかかるしで二度としたくない。

何処の精密機械だと言いたくなるレベルだった。

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