第46話 said 初の顔合わせ
——Side——————————
「陛下!!」
突然自分の前で力が抜けたように倒れていった詩織に、慌てて駆け寄る。
「陛下!陛下、しっかりして下さい!!」
異常に気づいたマリアンヌとリリアも駆け寄ってくる。
「な、何があったのですか!?」
「最上級回復ポーションを使います!マリアンヌ様は周囲の警戒を!」
「は、はい!!」
ためらいなく貴重な最上級ポーションを取り出したリリアだったが、既に詩織の意識がない事を確認し自分の口にポーションを含み、口移しで飲ませた。
「え?り、リリア?」
「緊急事態ですから見逃してください。それよりも、アメリア様は回復魔法を使えましたよね?それをマスターにかけ続けてください」
「う、うむ。だが、私の回復魔法はあまり効果は少ないと思うが·······」
「無いよりはいくらかマシにはなるはずです。魔力が切れるギリギリまでかけ続けてください。少しはそれで落ち着くはずです」
今まで剣ばかりを極めてきたせいか<身体強化>など一部のものを除き、魔法の修練をしてこなかったことに悔しさを感じる。
「<|回復(ヒール)>。くっ、やはり魔力の通りが悪い·······」
緊急時に主の役に立てずして何が騎士か。この日ほど魔法に集中したのは初めてのことだった。
「魔力総量が違いすぎる。こっちが引っ張られそうだな······」
人一倍魔力総量が多いと言われていたアメリアでも苦笑いしか出ないような差であった。自分が湖だと仮定すれば、詩織はまるで海の如き底知れなさだったからだ。
「詩織!詩織!!大丈夫か!?」
三人が動く中、真っ先に動いたのは厳一だった。突然倒れた孫娘の姿に流石に狼狽し、顔を青ざめさせている。
「今すぐに医者を————」
「駄目です!!」
「———!? 何故だ。倒れてしまうほどのことなのだから、専門家に見てもらわなければ」
「これは科学では直せません」
「なんだと?」
科学では直せない。
詩織から異世界のことと、魔法のことを先に聞いていたこともあってか、厳一はすぐにアメリアのその言葉だけで察した。
つまり、魔法的な技術に頼るしか解決できないのだと。
「なにか必要なものは?」
なにか出来ることはないのかという言葉に、余裕のないアメリアの代わりにリリアが答える。
「何も。時間経過と自己治癒能力に期待するしかありません。常人なら即死して当然のダメージを常にマスターは受け続けているのです」
「それは······!?」
「死に至るほどではないのでそこは安心してください」
「っ·····!そうか」
厳一はリリアの言葉を聞くといくらか安心したように力を抜いて、すぐに周囲の人間に部屋を用意するように命じた。
アメリアが回復魔法をかけ続けながら、詩織を横抱きに抱えて用意された部屋に向かう。
「······ひとまずはこれで大丈夫かと。後は目を覚ますのを待つだけです」
部屋に用意されたベッドに詩織を寝かしつけた後、いくつかの結界を張って保護してから、四人で応接間の一つに移動した。
「早速で悪いのだが、孫娘に何があったのか聞かせてくれ」
多くの人々の上に立つもののオーラを強く感じ、アメリアたちがわずかに気圧される。
「っ。その前に名乗らせていただいても?」
いち早く我を取り戻したアメリアが先に自己紹介でもしなければと声を上げる。
今の厳一の纏う空気は、王として振る舞うときの詩織と似通っていたこともあり、僅かに畏怖した感情を隠そうとした行動でもあった。
「ぬ。済まない。少々取り乱していたようだ」
厳一の焦りで支配されていた顔色がすこし軽くなり、余裕のようなものが生まれた。
まさかこんなに取り乱すとはな·····と厳一は少し反省する。焦っていても事態は好転しないと、焦燥感を抑える。
「いえ、突然陛下がお倒れになられたのですから無理もありません」
「そう言っていただけるとありがたい。」
厳一が少し頭を下げるが、むしろ更に慌てていたのは三人の方だった。ついさっきまで普通にしていた詩織が目の前で倒れたのだから当然とも言えるが、自分たちの精神的支柱である詩織が倒れたことは三人に大きな揺さぶりを与えていた。
「まずは儂から名乗ろう。儂は皇家当主の皇 厳一だ。孫が世話になっておる」
「い、いえ、滅相もございません。·····私はヘーゼル侯爵家当主で、近衛騎士団長のアメリア・ヘーゼルです」
「護衛兼専属侍女を拝命しております。ゴーレムのリリアと申します」
「オルグレン子爵家次女の近衛騎士隊長、マリアンヌ・オルグレンです!」
一通り自己紹介を済ませると、アメリアが早速ここに呼ばれた本題に入った。
「実はですね———」
一週間ほど前の邪人との戦いで、ひどい呪いを最後にかけられたこと。その時の戦いでの魔力回路の過剰使用のせいで、全治二週間以上の魔力的な傷を受けてしまって、魔法の使用できる数と時間が極端に低いこと。そして療養中に暗殺者による襲撃を受け、無傷で撃退したもののまた狙われる可能性を考慮して、相手方の手が届かず安全と聞くこちら側に敵が判明し、警備体制が整うまでとどまりたいという事を伝えた。
「·······詩織にそんな事をしたのは何処のどいつだ?」
「状況から見てのものです。確証はありませんが恐らく南のグオルジス帝国かと」
怒りのオーラを漂わせる厳一に、アメリアはあえて淡々と答える。
厳一も三人の空気がグオルジス帝国という言葉が出た瞬間に変わったのに気がつく。
纏うのは激烈な怒り。
それは己の力不足故に聖城から出るという選択を詩織にさせてしまった自分たちへの怒りと、主を危険にさらさせたグオルジス帝国への憤怒。
詩織の聖城不在を知るものは一人の例外もなくその怒りをうちに秘めていた。特に側近たちの怒りは強かった。
三人の瞳にある怒りを読み取ると、その熱量に厳一の怒りがわずかに収まる
「なるほど。君たちも儂と同じか」
「はい。ですので、反撃までにここで匿っていただけたらと」
「·······わかった。もちろん歓迎しよう。孫がこんな目に合わされたんだ。それぐらいはさせてくれ。欲しいものがあったら何なりと言うといい」
「感謝します」
アメリアが頭を下げた。
これで、こちら側での拠点が確保できたとそっと息をついた。
「今日中には目覚められるはずですから、他の続きのはなしはそれからでよろしいでしょうか」
「うむ、儂も詩織から直接聞きたいからな。それぐらいなら待った方がいいだろう。やり残したことがあるから起きたら屋敷の誰かに伝えてくれ」
「了承いたしました」
この後、詩織が目覚めたのは十数時間後のことだった。
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