第32話 同盟締結と舞踏会
エフィーとのお茶会が終わって一週間が経ち、ようやく同盟が結ばれることになった。
内容は大きく分けて
1、両国は相手国に対して攻撃することを禁ずる
2、両国どちらかが侵略された場合最大限の支援を行う。なおこれは先に侵略を行っていた 場合は除外される
3、両国間は軍を除き自由に行き来できるものとする
4、両国間での貿易はお互いの最恵国待遇で行われるものとする
5、両国はお互いの独立性、王統、皇統の正当性を認め、保証する
6、その国で犯罪を行った者はその国の法で裁かれるものとする。なおこれには、王以外の いかなる者にも例外なく適用される
7、この同盟は3年に一度更新される。更新されなければ破棄される。ただし、期限切れ以 外での破棄はいかなる理由であろうとできないものとする
8、この同盟は神に誓って行われるものとする
の八つ。
特に気をつけないとこわいのが8つ目で、神に誓ったことを破ると破った側には神罰が下るらしい。過去にはこれのせいで一つの国が滅亡したらしい。
どうやらこちらの世界には神様がいらっしゃるようです。
破ったら国が滅ぶとか破りようがないと思うんだけど、それでもやりかねないのが人という種族だからね。期限を付けているのもその保険。つけてなかったらいつ期限切れにしてもいいみたいな解釈もできてしまうからね。
「内容に間違いがなければサインをお願いします」
違うように解釈できるようになっていないか、言い回しに気をつけて確認し、問題ないことを確認してサインを入れる。
「「神に誓って」」
ベルトラム王とわたしが宣誓を行う。
瞬間、サインした二枚のうち一枚が燃え上がり、光となってベルトラム王とわたしの体にそれぞれ吸い込まれるようにして消えた。
「これで神誓の儀が終了しました。あなた方に神の祝福があらんことを」
神殿から派遣された神官が退出していく。
「ではこれからよろしく頼む、シルトフォード姫王」
「こちらこそお願いしますね、ベルトラム王」
表面上は笑顔だけど言葉に込められた意味は、きっちりと履行してねって言う牽制の意味が込められている。
こうして面倒で真っ黒な腹の探り合いばかりの同盟の締結はなんとか無事に終わりを告げた。
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「っはあ〜〜〜〜〜〜〜〜」
「姫王様、いくら自室とはいえ気を抜きすぎですぞ」
「今ぐらいは許して·····夜になったら宴もあるんだしさぁ」
宴とかほんとに勘弁してもらいたい。
もうほんとに疲れて一歩も動きたくない。あんな精神にヤスリを掛けられるような会談はもうしばらくはゴメンだ。正直今すぐ地球の家に帰って布団に潜り込んで思いっきりサボりたい気分だし、ここからいなくならないだけマシだと思ってほしい。
「とりあえずはここに来た目的は達成したよね」
「はい、考えうる中でも最良の結果かと」
まあ、こちらの要望はほとんど通ったし、予定になかった防衛時の相互援助が盛り込まれたものの、概ね良い条件になった。なんか相互援助っていうのはちょっと中身がありそう。
というか十中八九あるよね。絶対に対帝国戦を想定してるよね、これ。いざとなれば確実に巻き込めるようにしてきたし。まあ、簡単には思惑通りになってはやらないけど、エフィーが危ないとか言われたら手を出しちゃいそうだなぁ。
「あんまり情は絡めたらだめなんだけどね·····」
わたしの言葉に何故かリグルスが笑う。
「な、なんで笑うの?」
「いえいえ、姫王様と我々の認識にかなりの齟齬があったので」
「?」
齟齬と言われなんのことか分からなかったわたしは、頭上にクエスチョンマークを浮かべた。
リグルスとアメリアがすっ、とわたしの前に跪いた。
「姫王様。我々は貴方様の臣下であります」
「我ら騎士は姫王様の敵を斬る剣であり守るための盾でございます」
「姫王様は悩まれる必要はございません。ただ我々に命じればよいのです」
「命じてくだされば私どもは貴方様の敵の全てを斬り伏せましょう。貴方様を襲うすべての脅威から守ってみせましょう」
絶対の忠誠。
それを体現したかのようなその言葉と姿に思わず息を呑む。
わたしの言葉こそが絶対であると、真であると何よりもその揺らがない瞳がそう肯定していた。
「何も恐れる心配はありませんぞ。貴方様はただそのままでよろしいのです」
「姫王様が歩む道こそが私達の道なのです。私達が姫王様についていくのが当然です。しかし、私達のせいで姫王様の道が歪められることは断じてあってはならないのです」
臣下の者のために己を歪ませてはならない。
彼らはわたしの強大な個人としての力を頼る代わりに、わたしと運命をともにする。
確かにそうなのだとは思う。けれどやはり改めてそう示されるのはやっぱりきついな·····。民の生死は己の判断一つで決まってしまうという重みは。
「まあ、少し重々しく言ってしまいましたが要は自分の思いに素直になるということです。貴方様が選んだ道ならば喜んで我らはお供いたしますので」
「私は姫王様の騎士ですので何処であろうとついていきます」
「二人とも····ありがとう」
やっぱり少しそれは怖いけど、みんなを守るにはわたしが間違ってはいけないんだ。
「でも、相談はさせてね。わたし一人だときっと間違っちゃうから」
「もちろんですとも。主君を支えることこそ臣下の務めですからな。必要とあらばいくらでも頼っていただいて構いませんぞ」
「ふふふっ、じゃあ遠慮なく頼らせてもらうね」
「ふぉふぉ。これは、老骨にも厳しいですなぁ」
彼らに任せることはできなくても、頼ることはできる。そう分かっただけで今は十分だ。
「そろそろ皇国に帰らないとね。グラセフが過労死しちゃう前には戻らないと」
「あの量をこなすのはあの者でもちと厳しいでしょうからな」
「今頃、文字通り埋もれているのではないですか?」
やれることはやってからきたとはいえ、あんまり長期間開けると政務が滞ってしまう。リグルスは遠い目をし、アメリアは自分で言いながら想像したのか微妙に顔を引き攣らせている。
·····早めに帰ったほうが本当に良さそうだね。
「二日後にここを出られるように準備しておいて」
「「御意」」
二人が準備のために退出すると、わたしはパシッと頬を叩いた。
これが終わったら久々に地球でゆっくりできそうだし、気合を入れていこう!
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まあ、というわけで今回の王国訪問最後のおおきな見せ場の舞踏会に来たんだけど、早速わたしは撃沈されていた。
取り敢えず挨拶に来る貴族の多いこと多いこと。主要な貴族家の人間はなんとか頭に入れたけど、中小貴族の殆どは覚えられていない。でもまあ、考えているのはみんな同じだった。要するに皇国との間で生じるであろう莫大な利益、利権を狙っているんだろうね。
でもそっちは王家の方に丸投げしているからわたしに言われても仕方ないし、私個人の利権もあるけどそれを売るつもりは毛頭ない。
リグルスの助けを借りてなんとか捌いていると、ホールの方が空き、音楽が流れ出した。
「これは······流石に緊張するなぁ」
わたしは主役なため、最初に踊らなければならない。
わたしは年齢的に合うのがヴィルフリートしかいないため、ペアはヴィルフリートと一曲踊ることになっている。
他にはベルトラム王とローゼマリー王妃、エフィーと第二王子のアランの三組。
わたしだけ他国の人間って疎外感が凄い。なんていうか、少しいたたまれない気持ちになってしまう。
「シオリ。今日はまた一層美しいな。良からぬ虫どもがうようよ寄って来そうだよ」
「ふふふ、ありがとうございます殿下。殿下もまた一層凛々しくお見えになりますよ」
輝くような笑顔で言って来たヴィルフリートに、こちらも社交辞令で返す。まあ、半分ぐらいは本音だけどね。王子様オーラが凄い。
「くくくっ、シオリは存外口が上手いな」
「お互いさまでしょう?」
「私のは半分は本心だぞ」
「わたしもですよ」
「それは嬉しいな」
音楽に沿ってステップを踏む。
地球の方とは少しステップが違うから、こっちに来てから慌てて改めてリグルスに教えてもらったけれど、そのおかげか、我ながらかなりうまく踊れていた。
その代わりかなりのスパルタだったけど。
「そちらの方でなにか問題はなかったか?」
「はい、特に問題と言える問題はないですよ。ちょっとした悪意はずっと感じてますけど」
悪意と聞いてやっぱりか·····、とすこし落ち込んだような顔になった。
本当に大したことじゃないんだけどね。直接手を出してくるわけでもないし、実害もないしね。
「済まない。それはおそらく公爵派のものだろう。シオリに偶然とはいえ邪魔された故に余程腹に据えかねているようだ。私達の方でも対処しているのだが、如何せん数が多すぎてな。完全には遮断できていない」
「大丈夫ですよ。なにかしてくるわけでもありませんし、あの程度なら簡単に返り討ちにできますし」
ちょっと視線がうざいだけで、部屋に入ったらそれもほとんどないから全然忘れてた。
「ありがとう。そう言ってくれるとありがたい」
ホッとした感じで僅かに入っていた力を抜き、ヴィルフリートが柔らかく笑った。
そこで、あっ、といいことを思いついた。
「ヴィルフリート。申し訳なく思ってるならエルメダと踊ってくれない?」
「エルメダ嬢とか?」
ちょっと不可解そうに首を傾げるヴィルフリート。まあ、いきなりこんなこと言われても困惑するだろうけどこれも二人のため。
「うん。引き受けてくれたら今回のはチャラにしてあげる」
「·····そういうことなら引き受けよう」
「じゃあ取引成立ね。ちゃんとリードしてあげないとだめだからね」
「········善処しよう」
「絶対にやってね?」
エスコートすることを念押しして踊り終わると、送り出した。
別に女嫌いというわけでもないし、そんなに逃げようとしなくてもいいのに。
取り敢えず、仕事第一主義から抜け出してもらわないとね。
エフィーがこっちを見ていたので、ヴィルフリートの方にチラリと目をやってからウインクした。
それでわたしの意図が伝わったらしくわたしに一つ頷くと、貴族令息に囲まれていたエルメダを助け出していた。
エルメダってスタイルもいいし、顔もちょっと目元がキツくて悪役令嬢っぽいけどむっちゃ美人なんだよね。家格も伯爵令嬢だし、超優良物件。つまり、身動きがとれなくなる事が多い。
いやあ、最初にエフィーにエルメダのフォローを頼んでいてよかった。いきなり失敗するところだったよ。
頬を染めながらヴィルフリートの手を取るエルメダを横目に見ながら、再び集まってきた貴族たちを捌いていく。
色々と思惑の混じり合った舞踏会はこうして過ぎていった。
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