第4話 雷閃

「ーーなぁッ!?」




完全なタイミング、理想的な太刀筋、高威力の雷属性魔法。


並の敵、否。実力者が相手でも確実に屠れたであろう一撃。


けれど、その刃は竜鱗を切り裂き肉まで届いていたが、その傷は深手にとどまってしまっていた。




「グ、オオオオオオオォォ!!!!」




自身に深手を負わされた事への竜の怒りの咆哮が大気をゆらす。


私という明確な脅威を初めて敵と認識したのだろう。


大気が軋むような巨大な殺気が私に向けられた。




「オオオオオォォ!!!」




「しまっーーーーー!?」




切り裂きれなかったという事実に一瞬硬直したのが致命的な隙となり、防御する暇もなく殴り飛ばされた。




「ーーーガッ」




地面をバウンドして数百メートル離れた崖に衝突する。


刀を手放さなかったのはほとんど奇跡に近かった。


「ぐっ、ごほ····」




血を吐く。


これは····確実に内臓がやられたかな····?


咄嗟に〈身体強化〉を防御に切り替えていなければ今頃爆散し、即死していたかもしれない。


意識が持っていかれそうになるのを必死に繋ぐ。身体中傷だらけ。致命傷でこそ無いけれど放置してたら死にかねない。




「ーーーーッッ!!」




力が抜けそうになる体を叱咤し、無理矢理動かして竜を見ると頭を後ろに引いていた。


ーーーブレスの前兆。




「ま、ず···い·····!!」




それを認識すると同時に全力の〈雷盾〉をつくり、ありったけの強化を施し、それでも足りないと魔力を注ぎ込んだ。


直後




ーーーーーーー極光が降り注いだ。




大袈裟でもなんでもなく、そうとしか表しようのないほどの力が<雷盾>を襲ったのだ。




「ッ!?あああああぁぁ!!!!」




今できる最高の強化のされたはずの〈雷盾〉が衝突と同時に軋んだ。


〈雷盾〉が崩れていく端から魔力で補って修復する。


体中から魔力を掻き集め、鍛えた魔力操作力のすべてをつぎ込んで。


圧倒的な光そのもののような力の暴威を正面から受け止めていた。


フッと周囲の景色がスローモーションに見えた。


自分の中で何かが変わっていくのを感じる。変わるごとに魔力はより強く、魔力操作はより正確に、より精密に。


それでもーーーーーーーーーー


足りない。まだ足りない。もっと速く、もっと正確に。もっと強く!




「~~~~~~~~~!!!」




瞬間、何かを掴んだ、そんな感覚と共に体の奥底で何かが弾け、溢れだした。


直後、体を満たし、巡ったのは力強く、荒々しく、美しい白い雷そのもののような魔力。


それは<雷盾>に流れ込むとそれまでよりも明らかに速く、強靭にし盾そのものを白く染め上げた。


その輝きは闇の中の一筋の光の如き清らかさを放ち、それでいて何者にも侵されぬ力強さを秘めていた。




「これ、は••••••?」




いつの間にか髪の色が真っ白になっていた。


私が受けていた傷がすべて回復していく。


使い続けて枯渇しかけていた魔力が回復していく。いや、むしろ元の上限を軽々と突破し凄まじい勢いで最大値もろとも爆発的に増加していく。




「グーーー?」




いつまでも倒れない私に戸惑うようにゆっくりとブレスが収束し止んだ。


<雷盾>は壊れることもなく健在のままそこにあった。最後まで私を守り通して光の粒となって消えた。


とてつもない力の増加。




「いや、違う····?これは····使えるようになった?」




神サマが言っていた。力が体に馴染むまで一月かかる、と。


つまりこれは、命の危険にさらされたことによって、強制的に、急速に体が適応させられたということだろう。


まるで枷が外れたかのように力が体に溢れ、周囲を吹き荒ている。


私は、ブレスを当てたはずなのに未だ立っている無傷のわたしを、困惑したように睨む竜を見据えた。


この力でならば勝てる。


なぜかすんなりとそう思えた。


私が静かに刀を構えると、竜ははたと気づいたように私を鋭く睨み、殺気を叩きつけてきた。


先ほどと同程度の圧力。でもさっきみたいに身が竦みそうになるような恐怖は感じなかった。


力の使い方は今までと同じ。むしろ魔力操作は凄まじく向上していて扱いやすくなっていたぐらいだった。


魔力を練り上げる。




「<身体強化><纏雷鎧><雷速>」




「グラアアアアアアアア!!!!!」




今までとは違う、更にひとつ上の次元に踏み入れたような感覚。


竜が無数の魔法を私にばら撒く。


私はそこに自ら入り込んだ。


ーーー見える


魔法の軌道が、流れが見えた。


自身に当たる魔法は白い雷を纏った刀の<天祗>で斬り伏せ、<風盾>でつくった足場を駆けていく。かすめていくものもあるけど、<纏雷鎧>によって無傷だった。


瞬く間に数百メートルの距離を潰していく。




「グラアアアア!?」




全く魔法を意に介さず向かってくる私を見て竜は困惑したような声を上げた。


狙うのはさっきと同じく首。でも、いくら威力が向上したからといっても多分同じ技じゃ切れない。だから、より強力な一撃にする。そのために必要なのは首を斬るための速さ。


私のイメージに沿って<天祗>の刀身に凄まじい量と密度の雷が収束する。




「電磁加速ーーーー」




イメージする速度は8000メートル毎秒。


マッハで表せば22。


白雷を纏った刀を抜刀術のように腰で構える。


風属性魔法で空気抵抗を極限まで減らし、風と雷の刃を刀に付与した。


ーーーーこの刃に斬れぬもの無し




「魔刀術ーーー〈雷閃〉ッッ!!」




「ーーー」




動体視力を超強化した私でも、ギリギリ認識できる程の超速度の一撃。


それは竜の反応すら許さずその首を両断し、その先にあった森に一文字に穿った。


一瞬遅れて音が追い付き轟音が響いた。


竜の体が力を失い落下していく。


首を失った体躯が地面に落ちるのを見届けると、私はそのそばに着地した。




「ーッ。痛っ」




着地と同時に刀を取り落とし腕を押さえる。


いくら〈身体強化〉で体を強化していたといっても、さすがにあの加速と巨大な負荷は厳しかったみたいだった。




「さすがに、もう、動けない·····」




竜の死体にもたれ掛かりながらゴーレムに迎えに来るように指示をだして座り込んだ。


魔力はまだ潤沢に残っているし、腕の痛みとかは力の影響か収まっていっているけれど、精神的な疲労はそのままだ。


暫く、待っているとゴーレムたちが現れた。一体に自分を寝室まで運ぶように指示し、残りに竜の死体を持ち帰り保存するように指示する。


ゴーレムに担がれると、安心感からか猛烈な睡魔が襲ってきた。


私は特に抗うこともなくそれに身を任せてーーー意識を手放した。

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