第11話 1/2 王様? 友達だけど?
学園は夏休み中だが、故郷に戻らない俺達は夕方にはダラダラと寮で過ごしていた。
「ひーまー」
「日雇いの仕事を、馬鹿みたいな力で馬鹿みたく早く終わらせたプルメリアが悪い」
一応だらけない様にと、冒険者ギルドでランク1から受けられる、日雇いの仕事をしてきたらどうだ? とプルメリアに勧め、朝に出て行ったのは良いが昼に戻ってきた。
訳を聞いたら倉庫に荷物を運び入れる仕事を選び、重そうな荷物をひょいひょい持ち上げ、どんどん運び入れて積んでいたら半日で終わったらしい。
一応一日分の給金は出たみたいだが、専属で雇いたいとか言われたらしい。まぁ、そんな事をしたら言われるよな。
俺? 学園内の雑用をやらされてたよ。採点とか生徒にやらせるなよな……ったく。
後は用務員さんの手伝いだね。屋根の補修だったり、実技試験で使った闘技場の壁やベンチの修理だったり。
「なんか……。十人くらいの足音が廊下からするんだけど?」
「ん? ……確かに鎧を着ている奴が歩いてるな。何かの訓練か?」
そんな事をプルメリアと話していたら、足音が部屋の前で止まった。
「目的地はここかよ」
そうつぶやいてドアの方を見ると、鍵を突っ込んだ音がしてガチャリと開錠されたのがはっきり見えた瞬間、ドアが蹴り開けられた。
「ルークはいるか!」
そんな声と共に、フル装備の兵士が数名ほど狭い部屋になだれ込んできた。
「……どうやら人の訪ね方を、パパとママに教えてもらってないらしいな」
「情報通り変な髪型のエルフ! 確保ぉ!」
「プルメリア! レイブン! 窓だ! そして伏せろ!」
俺がそう叫んだ瞬間、プルメリアはレイブンを掴んでガラスを突き破って外に出たので、素焼きの小さな壷に火属性の魔力を込めてベッドの上に投げ捨てて弓を回収し、俺も外に飛び出した。
あ、日記……。まぁ、四ヶ月くらいしか書いてないからいいか。ハードカバーにしてるし多少は平気だろ。
そんな事を思っているうちに、ドゥンッ! と鈍い音と主に残っていたガラスと、両隣と上の部屋のガラスが割れ、衝撃が少しだけ遅れて来た。
火があまり出ないタイプにしておいて正解だった。
「学園長室に行って、襲撃があった事を伝えるぞ! レイブンは俺達が見える場所で待機だ!」
「了解!」
『あいよ!』
俺達はそのまま振り返らずに、走って学園長室のある校舎まで走り、ノックもしないでドアを開けて入った。
「学園長! たった今襲撃されました! 校内にいる生徒と職員に避難指示を――」
そこまで言い、学園長と一緒にお茶を飲んでいる、五十代くらいの目つきの鋭い、濃い赤色に白髪交じりの男が目に入ったので言葉を止めた。
ちなみに警報がでていたのか、学園長はなにか水晶みたいなパネルを、眉間に皺を寄せながら操作していた。
「なんでここにいるんだ?」
「ルークさんに用事があって、空き時間を利用して会いに来たんだが……。私の護衛はどうした?」
男はティーカップを優雅にソーサーに置き、護衛がどうのこうの言った。
「おいハゲ。護衛になんて言った? ドアを勝手に開けて、なだれ込んできて確保とか言ったぞ? ん? 鍵を開けたんだよな……。なんで鍵を持ってるんだ? 正式に借りた?」
やっべー。こいつの護衛数名を吹っ飛ばしたかもしれない……。最悪死人もでたかも。
「もしかして、鍵を開けてた時点で正式な手続きをしてたかも?」
プルメリアが少しだけ首を傾げながら言った。
「私はハゲてない。先代、先先代がハゲていたからと言って、そのあだ名で呼ぶのはルークさんくらいだ。最悪不敬罪で死刑だぞクソエルフ? で、護衛はどうした?」
「……吹っ飛ばした。最悪一人か二人は死んでるかも」
俺は目を反らし、なんとなく寮のある方を見て言った。
「そうか……。連れてきてくれと言った、私にも落ち度があるかもしれん。丁寧に失礼のない様にと言えば良かったんだな。申し訳ない」
「謝るのは護衛の方にだろ?」
そして廊下の方から慌ただしい足音がし始めたので、ドアの方を見ると先ほどと同じ鎧を着た兵士が走ってきて、廊下で敬礼をした。
「申し訳ありません! ルークに逃げられました! その時に攻撃魔法を使われ、三名が重傷! 二名が軽傷で――。お逃げください! 私が囮になります!」
さっきの奴って起動する時だけ魔法で、後はほとんど科学なんだよなぁ。
「止まれ! この方への無礼は許さんぞ!」
そして俺に気が付いたのか、護衛は剣を抜きながら走ってきたが、こいつがそれを止めた。
「ですがこの者は、仲間を一瞬で負傷させるような凶悪な――」
「無礼は許さんと言ったが? 次はないぞ?」
「申し訳ありませんでした!」
護衛は申し訳なさそうにし、剣を納めて出入り口まで下がった。
「死者がいないなら何も問題はない。この方は私の友人であり、君達に命令する言葉を間違えた事により、些細なすれ違いが起きただけだ。今すぐに負傷した者を救護し、後に見舞金と休暇を与え、正式に謝罪すると伝えてくれ。下がれ」
「失礼いたします!」
そう言って護衛は廊下に出て、ドアを丁寧に閉めた。
「はぁ……。私の護衛に何をしたんだ?」
「部屋を吹き飛ばせるくらいの、魔道具しゅりゅうだんを使って逃げてきた。いきなり悪人を捕まえるような言動で部屋に入ってきたからなぁ。あと両隣と上の部屋の窓ガラスが衝撃で吹っ飛んだ」
「それで重傷三名の軽傷二名か。そう言えば十数年前に作り方を聞いたが、どうしても教えてくれなかった奴か……。気まずいと思うが、お嬢さんもルークさんも座ってくれ」
こいつがソファを手の平で指したので、とりあえず二人で座らせてもらうことにした。
「アレの凄さは前に見たから、どの程度の規模か知っている。私のせいで破損した寮の修繕費も国から出そう。両隣と上の住人の宿泊費も。まぁ、国営だから予算はあるがな。そして学園長、申し訳なかった」
そしてこいつは謝罪と共に今度は頭を下げた。
「気安く国王が謝罪しちゃダメでしょ?」
さっきハゲとか言いつつ、無礼な言葉使いで喋っていたのは、実はこの国の王様だ。なんで訪ねて来たのかわからん。
「学園長。今の私は王笏も持っていないし、王冠もしていない。ましてや私服で個人として来ているんですよ。ここではジジイに片足を突っ込んでる、護衛を連れてるただの偉い人だ。そこは曲げられない。ましてや青年時代にお世話になった方の前では関係ない。そういえば孫がいるから、なんだかんだで立派なジジイだったな」
王様が目をつぶり、丁寧に余っていたお茶を飲み干した。
なんか面倒な奴が訪ねてきたなー。今回はなんだろうか? 戦争っぽい動きはないし、引き抜きって感じでもなさそうだしなぁ。
「で、早速用件に入らせてもらう。材料と手間賃を出すから、とある薬を作って欲しい。この事は信頼の置けるルークさんにしか頼めない事だ」
「なんだ。物によっては断るぞ? 何度も違法スレスレの立ち位置や物で、長年の知識の積み上げで作ってきた物も多いからな」
薬か……。俺は不老の薬も若返りの薬も作れないぞ? そもそもこいつ自体がそういうのに興味がなく、老いる事の楽しみを知っているはずだ……。
「ってか……。一応聞くが初対面だよな?」
俺はプルメリアの方を見た。一応学園長は恩師かもしれないが、プルメリアとは初対面のはずだ。
「平気だ。その辺はルークさんの知り合いっていう事で信用しているし、喋ったとしても罰しない。広まっても醜聞にはならん。なぁに、ただの肉体再生薬だ。確か千切れ飛んだ足や腕も経口摂取で生やしていたよな? それが欲しくて来た」
死ぬ前に知っていた最新医療技術や、ギャグ色の強い第四の壁を無視する人の映画を見て、細胞再生系の精霊さんや妖精さんがんばってくれ! って感じであんな事やこんな事的なのを促す感じで、ヤバい物質とか諸々出して、半年くらいで足が再生……っていうか生えたしな。
最初は子供の足みたいだったけど、だんだん成長して元に戻ったし。知らない事は魔法と魔力で大概補えてたし。本当、科学と魔法が合わさると何でもできそうだよ。
「……誰か病気か大怪我でもしたのか?」
「
「……それだけか? って言うとぶっ飛ばされるかもしれないが、城勤めの薬師とか錬金術師、高位の回復魔法が使える奴だっているだろう。なんで俺なんだ?」
「まず安心できる。派閥とは関係ないからな。城の中は混沌としているから、いつどこで何があるかわからない。もう一つ。個人の貸しだけで済む。褒美や昇格等と無縁。私のポケットマネーで賄える」
王様は親指から順に三本出していき、目つきを鋭くして俺に丁寧に説明した。ってか、この為に耳がなさそうな学園を選んだな?
「いつまでだ?」
「今すぐにでも……。むしろ私の目の前で作れ。疑ってはいないが、ある程度の部屋は目もあれば耳もある。執務室なら、声を出さなければ目はどうにかなる。時間がなければここで一筆書くから、夕方以降なら公務はないし、好きな日のその時間帯に来い。期限はないが早い方が良い」
「どうせ門前払いされるか、確認のために翌日の朝まで待たされるから、今から着いて行くわ」
「そうか、助かる。そちらのお嬢さんは……付いてくるかね? 城の中を……ましてや一般人が、王族の執務室に入れる事なんか滅多にないぞ?」
「興味ありません。って言いたいですが、多分部屋が滅茶苦茶で、くつろげないんで一緒に行きます」
「そうかそうか。それなら仕方ないな。部屋を用意させるから、泊まって行きなさい。滅多にない状況だからって、いつもとは違う無茶な性交をしなければ問題ないはずだ」
王様は顎を親指と人差し指で摘むようにして言っているが、いつもとは違うっていう基準がわからない。人の物差しは違うからな。
「状況によってですね。雀が多いなら、見せつける様にしてヤります」
プルメリアさん? 良い笑顔で親指と人差しで輪を作って、そこに人差し指を入れないで下さい。ソレはこの世界でもほぼ共通のハンドサインですよ? あとこの人王様です。
「……はっはっは! おもしろいお嬢さんだ。ルークさん、このお嬢さんとはどんな関係だ?」
王様は一瞬止まったが、すぐに笑い出してプルメリアとの関係を聞いてきた。
「幼なじみだ。俺の童貞は寝込みを襲われて、無理矢理奪われた。思考が少し普通の常識と違う」
「ほう……。私が学生の頃から女性の話題がなかったが……。ふむふむ、な、る、ほ、ど……」
「何勝手に納得してんだ。言っておくけどな、俺は長寿種以外とそういう関係を結ぶつもりはなかったんだよ」
「つまり長寿種と……」
「はい。ハーフヴァンパイアです」
「ふむ。ヴァンパイアか……。超が付くほど数がいないが、まさか生きているうちにハーフの方を見られるとは。長生きはするもんだな」
「お前、まだ五十歳くらいだろ? 長けりゃあと五十年は生きられる。回復魔法とかポーションとかあるし、まだまだ生きるだろ?」
「あと五十年も働けと言うのか? 勘弁して欲しいな。その辺のクソエルフと違って、私の言動で戦争になり、多くの国民が死ぬかもしれないんだぞ? 胃薬がぶ飲みでやってられるか。まぁ、そろそろ行くか。同じ馬車で良いな?」
「国王の言葉じゃないな。ま、そうなったら言ってくれ。甘い胃薬も作ってやる」
俺は結構量が減っている砂糖の入っている容器を見てなんとなく言ったが、こいつは学生時代から超が付くほどの甘党だったからなぁ……。
「そう言えば自己紹介がまだだったね。知っていると思うがアスターだ。気軽にさん付けで呼んでくれ。このクソエルフみたいにハゲと言わなければ、多分不敬罪にはならない」
校舎前のロータリーに停めてあった、王家の紋章入りの頑丈そうな馬車に乗り、校門を出た辺りで王様が口を開いた。
ハゲと呼んでいたが、この国の王であるこいつはアスターと言う。別に忘れていた訳でも思い出せなかった訳でもないが、惰性というか癖で……。
ちなみに、馬車に乗り込む前に護衛にもの凄く睨まれた。お前等かアスターが悪いんだからな? 俺は自衛手段を取っただけだし。過剰だったかもしれないけど。
そんな奴等も今は前後左右に付いて護衛をしているが、俺の乗っている側にいる奴がやっぱり睨んでくる。わき見運転じょうばは危険だぞ?
「プルメリアです。なるべく気をつけますが、敬称をさん付けで言ったら忠誠心高そうな方がやっかいそうですね」
「王族というのはその辺が厄介でな? 私が良いと言っているのに、許さぬ奴が一定数いるんだよ。学生時代は本当に苦労した。そこのクソエルフがハゲハゲ言いまくるからな」
アスターはこちらを見て口角を少し上げた。確かに名前よりハゲって言ってた方が多かったな。
「まぁ、訂正するよ。ハゲてないから……新しい渾名あだなを付けるのが面倒だなぁ。王様で良いか?」
「こいつは……。まったく昔から変わってないな。そこが良いところなんだけどな」
「お褒めに与り光栄です。王様」
俺は軽く頭を下げ、皆が避けていく道路を何となく頬杖を付きながら眺める。
ちなみにレイブンは馬車の屋根に乗っているが、クチバシで屋根をつついているのか、さっきからコツコツと少しうるさい。きっと傷でもつけて迷惑かけてやろうって考えなんだろう。なんだかんだで二匹とも強したたかだしな。
□
そんなこんなで城門を通り過ぎ、正門前に馬車が停車し、一応プルメリアの手を握ってエスコートをし、その場の流れで城内に入ろうと思ったらボディーチェックが入った。
「はいはい。一応規則だったな」
そう言いながら全ての武器の類たぐいを外して、メイドさんが押しているサービスワゴンっぽい物に乗せる。
「相変わらず多いな。部屋から飛び出してきたのに、そんなに持っているのか? 邪魔じゃないか?」
アスターがワゴンの上に乗った武器を見て、俺の頭からつま先まで舐める様に見た。
「夜中に襲われた経験が何度もありますので……。昨日の夜もですが」
一応無難に返事を返しておく。確か話しかけられるまで、こちらからの発言は公の場では駄目だ。
「いいか? 絶対にコレとコレだけはいじくり回すなよ?」
周りにいた奴等に聞こえる様に言って、バリスティックナイフと手榴弾を指さした。だって危険だし。
「ソレは機密の固まりだろう? ルークに持たせる事はできないが、一応目の届く所に常にいる様にさせるから安心しろ」
アスターは手榴弾を指さし、一応知ってはいるが、俺の近くに置いても良いと周りに言っていた。
そして服を軽く脱がされ、腋の下とか袖の中とか、靴まで兵士が調べている。
その内、靴の中敷きが気になったのか調べだし、ピッキング道具一式をワゴンに並べだした。
「コレは駄目だろう。鍵開けは得意だと知っていたが、持ち込みはできない」
アスターはピッキング道具の一つをつまみ上げ、目を細めながら手首を回して作りを良く見ていた。
残念だけど、ソレって囮なんですよ。本物はかかと部分に仕込んであるんだよ。脱獄系の映画で見たからまねしてみたけど、皆囮にしか目がいかずに他は調べないんだよ。
プルメリア? メイドさんが仕切の向こうに連れて行って、ボディーチェックされてたよ。普段からポケットに少量の硬貨を入れた布袋しか持ってないから、直ぐ出てきたけど。
本当肉体が武器の奴って、普段通りにこういう場所に入れるからずるいよな。
「ルーク様の名前は良く耳にしております。ですので、この魔封じの腕輪を付けさせていただきますね」
そう言いながらローブを着た女性が、俺の左腕に手錠みたいに真ん中から折る腕輪をガチャリと付けた。
「ルークほど有名な魔法使いだと、こういう処置もしなくてはいけないのだよ」
アスターは申し訳なさそうに言いながら、宰相さいしょうだか相談役の爺さんの方をチラリと見た。
「気にしておりません。直ぐに外せるので」
俺は笑顔で左手を下げると、腕輪がスルリと抜け落ちて良い音が鳴った。
「待って下さい! なんで外せるんですか!? ピッキング道具も魔法も使った様子がなかったのに!」
ローブを着た女性が慌てて腕輪を拾い、引っ張っても外れない事を確認し、なんか魔力を流しているのか模様みたいなのが赤く変色していた。
爺さんも驚いた顔をしている。悪いけど、俺エルフに人の常識は通じないぞ? だって長年生きてて暇だって理由で、ある程度の事は覚えちゃうし。
「冗談でも変な事をするな。私でも庇いきれんぞ?」
アスターは片手で顔を覆い、首を振っていた。
仕方ないでしょ。できるんだから。
指の間接とか自分で外して腕輪を落としてから、また自分で間接をはめているだけだけど。ただ、それを素早くわからない様にするのが重要だけど。
「申し訳ありません。この様な事で私を押さえ込めると思われているのが、少々癪に障りまして」
俺はローブの女性から腕輪を受け取って、また自分ではめ直した。
「女性用のブレスレットみたいに、安易にはめられる太さではないだろ」
「コツがあるんですよ。教えませんが」
そして魔法を使おうと魔力を流すと、腕輪の模様が真っ赤になった。
「正常に起動してますね。コレで問題は――」
そこまで言ったら腕輪がガラスの割れるような嫌な音を出し、真っ赤になっていた模様が消えた。
「なにもしてないのにこわれました」
俺は左手をローブの女性に腕輪を見せつけた。本当に個人的に軽く魔力を流しただけだし。
「何もしてないって事はありません! 証拠に魔力を吸収して発光する模様が真っ赤になっていたじゃないですか!」
「テストって意味合いで、本当に軽く魔力を流しただけなんですが……。この腕輪って、あと四個くらいあります? 両手に二個ずつ付けるので」
俺は使い物にならなくなった腕輪をさっきの方法で外し、指にかけてクルクルと回したが、プルメリアに取られてしまった。
そして両手の人差し指に引っかけ、横に引っ張ったらキンッ! っと良い音共に、蝶番の様になってる部分の太いピンが折れて、腕輪が二つに分かれた。
「強度にも問題あり。もうちょっとピンは太い方が良いかも?」
「この城にある最上級の魔封じの腕輪が……」
そんな感じでブツブツと腕輪を見ながら呟いていた。普段からあまり全力を出さないし、魔石で自前の魔力をなるべく使わない様に吸っちゃってたからなぁ。まさかこんな事になるなんて思ってもみなかったわ。
意外に俺って魔力あったんだなー。今までの魔法は、かなり魔力の消費が多かのか……な? 後で最適化しておこう。
それとプルメリアが止めになったな。物理的にも破壊されるとは思ってもいなかっただろう。
「どうせ俺のせいで壊れたんだから、気にしなくて良いだろ」
「もう戯れ事は良いだろう。さっさと材料を持って私の執務室に行くぞ」
「わかりました。そう仰るのでしたら……」
色々と諦めたのか、アスターは首を振った後にメイドさんにアイコンタクトを送り、ワゴンを押して近寄ってきたので移動を開始した。
ってか全員で変人を見る様な目で見ないでくれ。現状で作れる最上級の魔封じの腕輪が機能しなくなって、物理的に破壊されただけだろうに。
「さて、必要な物を取ってくれ」
「城内にある研究室なのか調合室なのかわからないが、各ポーションを作れる材料が豊富だな」
俺はそう言いながら錬金術師がいるのをほぼ無視しして、囮を混ぜながら材料を選び出した。
だって手元見すぎだし、材料覚えられたら秘匿してる意味ないじゃん?
「ここにある物は、全て安全だという保証はしてくれるな?」
アスターは俺が選んでいる物に興味はないのか、一人の錬金術師に話しかけた。
「はい! 古くなった物は破棄し、常に一定数の在庫を確保してありますし、私どもも監視しておりますが、怪しい物があったらわかる様にしてあります!」
「うむ。引き続き城内の怪我や病気の者の治療薬を、安全に作成する努力を続けてくれ」
「かしこまりました!」
「お? ジャイアントキラービーのローヤルゼリーもあるのか。すげーな」
衰弱しまくってて棺桶に片足突っ込んでる人でも、スプーン一杯舐めたら一時間後には歩ける様になる奴だ。地球感覚ならヤバい薬に部類されそうだけど、向こうで成分分析とかしたら面白そうな結果になりそう。
「それも使うのか?」
「いえ、珍しかっただけなので驚いただけです」
討伐危険度も高いし、巣の回収も面倒くさいし、ローヤルゼリーの量も少ないので、本当に珍しいだけだ。だからこそ高価なんだけどな。
ジャイアントキラービーは、俺の手の平を思い切り広げたくらいの大きさがあって、素早くて固いし数もいる。毒性も強いから本当に危険だ。
けど薬剤をぶっかけたり、夜中に巣を燃やせば簡単に駆除できるけど、幼虫もローヤルゼリーも価値が一気に下がる。だからこそ本当に珍しいんだよ。肉食だから蜜も手に入らないし、得られる物に対して労力がなぁ……。
「材料は揃いました。道具を借りますよ」
トレーに乗せた材料を武器の乗っているワゴンに乗せ、丸底フラスコの様な器具をはじめとして一式借り、プルメリアにも頼んでもってもらった。
「なんか……昆虫の様な奴もあれば、発光してるのもあるんだが……。本当に平気なのか?」
「はい、問題ありません。移動を開始しましょう」
だってそれは囮用の素材だし。
「そ……そうか。わかった。邪魔したな。交代の時間まで気を抜かぬ様に」
「かしこまりました!」
労いの言葉も忘れない。良い王様じゃないか。
「で、どうして切れたんだ?」
アスターの執務室に移動し、色々準備をしながら処女膜とは言わずに聞いてみた。
執務室は机と資料くらいで、一応テーブルとソファはあるがあまり使われていないみたいだ。
メイドさん? 端にいるけどもう関係ないね。アスターもそんな雰囲気だし。
「体術の訓練中に、教師の顎を蹴ろうと足を上げた時らしい。思い切り足を開いたり、乗馬中や気が付いたら切れている事は良くあるらしいと聞いているが、相手にそのくらいお転婆だと思われるのもな……」
「自衛できる程度には鍛えてます。ってのは、王族としてまずいのか……。健康的で良いとは思うけどな?」
「私は傷として再生しちゃうけどね」
そのプルメリアの言葉に俺は手を止めて、アスターの方を見たら口を半開きでプルメリアの方を見ていた。
「はしたないぞ?」
「ヴァンパイアとは、その様な種族であったのか……。傷が癒えるのが早いというのは聞いているが……。毎回痛くはないのか?」
「はい。この程度の痛みなんか、母に蹴られるよりは痛くないですね」
「打撃や怪我みたいな物と一緒にするなよ……。それと少しでも痛かったら駄目だろう」
「うむ。そういうのは十分に下準備をしてだな? とりあえずそういう物だ。ルークさんの言う通りだ」
「する時は、問題ないくらいにはなってますけどね」
「ナニがとは聞かんが、本人がそう言うのであれば良いのではないか?」
「おい。なんでこっちを見るんだ? 俺は基本ソッチでは優しいぞ?」
俺は手を動かしながら返事を返し、準備を終わらせた。
「さてさて……。少し目隠しして良いか?」
「汚さなければかまわん」
その返事を聞き、俺はポケットからハンカチを取り出して四つに裂き、鍵穴や怪しい壁の細い隙間に爪を使って押し込む。そして資料として本棚にある本を取りだして、横にして本の上に戻す事三回。
「最近人の気配とか、視線をたまに感じないか?」
「そんな事は…………ないな」
アスターは何か考えて、覗かれていないと言った。こいつも学生時代は視線に敏感だったからな。ないと言えばないんだろう。
「そうか。スパイとか反対勢力とかはあまりないのか? それとも同じ派閥ががんばっているか。まぁ、次覗いたら容赦なく魔法で吹っ飛ばすけどな。あ、メイドさん。部屋の隅に行って壁の方を向いててね? こっち見たらちょっとだけ後悔するよ?」
俺は壁をノックしてから向こう側の奴とメイドさんに声をかけ、ワゴンに乗せた材料をテーブルの上に乗せた。
「なんだ、誰かいたのか?」
「合計で十人ほど両隣に。ついでに鍵穴に一人。名目的には何かあった時用だろうが、覗いてたりしてたし」
俺はそう言いながら使う材料だけを選別し、天秤で重さを量ってどんどん調合しやすい様に細かく砕いていく。
「彼等も私を守ろうとしているのだ。そう言ってくれるな」
「覗く方が悪い。一応レシピを公開してない物だし」
「手足が生えると言う事は、劣化版の霊薬に近いしな。私はここで見た事は一切喋らんぞ」
「その方がありがたい。あ、青の顔料ってどうなってる?」
手を動かしながら口も動かし、どんどん作業を進めてポーションを完成に近づけていく。
「使用料で大いに潤っているな。ん? 商品そのものに税も入っていたか? 定期的に振り込まれている金額である程度わかるだろ?」
「まぁ……な。長年定期的に振り込まれてると、敵対派閥の反撃材料になりそうだし聞いただけだ。っと、ここで
絶対に入れない物? 多分存在していない物? を口で言い、笑いながら人差し指を立てて唇を押さえると、アスターはニヤニヤしながら首を立てに二回振った。プルメリアも口を押さえて笑いをこらえている。
「水の妖精さん。貴方の魔力で作った水を少しこの液体に注いで下さい。光の精霊さんも魔力をお願いします」
辺りを明るく照らす魔法を使い、できあがった液体に自分の魔力を注いで性質を変化させる。
多分メイドさんは、俺が妖精と精霊を召喚した様に思うだろう。劣化版霊薬とか言ってるし、このくらいの演技は必要だ。
「はい。はい。そうです。えぇ、そのくらいで大丈夫です。ありがとうございました」
電話で誰かと話す様に独り言を言い、できあがった物をシャパシャパ振りながらアスターに渡した。
そして使っていない材料も、少し使ったかの様に見せるのにズボンのポケットに少しずつ突っ込んでおく。
「こちら召喚した対価ととなっていますので、この場でグイっと。あ、はい。こちらこそありがとうございました。今後も何かありましたらよろしくお願いします」
そう言って俺は親指を立てながら、光源になっている魔法を消した。
「感謝する。今夜は客間に泊まっていけ。夕食はメイドが持って行くだろう」
「助かる。甘えさせてもらう」
王様の言葉は絶対。ではないが、身分的に断れないのでそういう事にしておく。周りに目や目があるって不便だけど、部屋に手榴弾使った所で寝れる気がしないし。
「これからお茶にしよう。君、この道具を元の場所に戻しておいて、誰かに声をかけてくれ。そして娘に来る様に伝えてくれ」
アスターがそう言うと、メイドさんが振り向き、道具をワゴンに乗せてから一礼をして出て行った。
「はぁ、面倒くさい。城って疲れるわー」
「仕方がないだろう。防衛的な感じで監視は必要だ。一応ルークさんは頼れる同級生でもあるが、私は国王だしな」
俺はニヤニヤしながら小声で言ったら、アスターも小声で返してきた。本当様式とかだるい。真面目にやればできるけどね?
「お父様、失礼します」
雑談をしていたらドアがノックされ、凛々しい感じの女性が入ってきた。
「紹介しよう。末子のマリーゴールドだ」
「マリーゴールドです。親しい方からはマリーと呼ばれておりますので、そうお呼び下さい。そしてこの度は私の為に薬を作っていただき、感謝いたします。父からはルーク様の事は良く聞いております」
「どこからどこまでを聞いてるか知りませんが、多分そのルークです。そしてこちらが婚約者の……」
「プルメリアです。よろしくお願いします」
「でー……。まだ廊下に立ってるお歳を召した方は?」
廊下には、ローブを着た優しそうなお爺さんが笑顔で立っていた。
「ルークさんには悪いが、一応城に勤めている者が作っても、王族の口に入る物には検査が入る。疑ってはないが規則でな……。頼む」
アスターが薬の入った瓶をお爺さんに渡し、ローブの中から皿の様な物を出し、そこに作った薬を垂らして色々な紙に付けたり、小指で舐めたりした後に小さな試験管の様な物に移して、番号を書いていた。
「今のところ毒の反応はありません。秘匿されている薬と事前に教えられておりますが、何かありましたら鑑定させてもらいますのでご了承下さい。ですが薬の成分は絶対に外に出さないと誓いますのでご安心下さい。それと薬の味ですが、仄かな甘みと良い香りがしますので、覚悟なしでお飲みいただけるかと。では失礼いたします」
そしてローブのお爺さんは、一礼して去っていった。毒味役みたいなもんか?
「まぁ、毎回こんな感じだ。気にしないでくれ。私の命令で、何もない場合は五日以内に破棄させる」
「気にしてはいないが、本当面倒くせーなー。ってか効果が出たら速効で破棄してくれ」
「仕方ありませんわ。城内で何かあったら一大事ですもの」
「……まぁな」
「お兄ちゃん。口調」
王女様にも素が出てしまい、プルメリアに肘で小突かれてしまった。痛くはないが、正面に座っている二人がニヤニヤしている。
「ほうほう。お兄ちゃんとな? ってかもう良い。言葉使いは普段通りでかまわぬ」
「連れ子同士の再婚で、義理の兄妹になった禁断の恋い。物語の中でしか読んだ事がありませんわ」
何を言っているんだこの王女は。
「アスターには幼なじみって言ったよな? 昔からそう言われてたから、今でもそう呼ばれてるだけだよ」
そういう物語とか好きなのかな? 変な知識が入らない様に、書物に検閲とかないの?
「ふむふむ。長い付き合いの幼なじみ。特にプロポーズらしい物もなく自然と……。私もそういう恋がしてみたかったですわ」
「私もだ。一応妻は隣国の第一王女で、幼少期からちょこちょこ会ってはいたが、毎日って訳ではないからなぁ。お互い意識し始めて……ってな感じだったな」
俺も憧れてました。けど百年くらい一緒にいるとは思わなかったわー。
「なんだ……。やっぱり親子だなぁ。二人とも似てるわ」
ほうほうとか、ふむふむってところが。あと顎に親指と人差し指を二本そえたりする仕草が。
「子供全員が似てるらしいからな。全員私の子だ」
「そこは全員じゃないと駄目だろ。第二夫人とかいたっけ?」
「いないな。私は生涯一人の女を愛し続ける」
アスターは力強く拳を握り、なんか言っている。お家の中のごちゃごちゃが少ないって良いと思うよ。うん。
「私の旦那になる方は、少し女性にだらしないのが……。正妻になるのは決定済みなんですが、四人目、五人目となると、跡継ぎで揉めそうなのが悩みの種ですわ。まぁ、別に私は跡継ぎ問題は気にしませんし、子供は元気に育ってくれれば何も問題ありません。ただ、そう言う事を常に言っているのに、毒殺とか発覚した場合は、殺してくれと懇願するような惨い報復しようと思ってます」
おい、なんだその黒い笑顔は。王族の娘がしていい顔じゃないぞ?
「さばさばしてますねー。お兄ちゃんは今まで一度も他の女性に手を出した事はないって言ってるから、その辺は安心できるけどー。お父さんがなぁ……」
誰も殺してくれって発言には突っ込みはなかったが、プルメリアの母の正妻決定戦の話になり、お茶が届いてほのぼのとした時間を楽しみ、マリーさんが腰に手を当ててポーションを一気に呷あおり、お手洗いに行くと言って出て行った。
「速効性はないんだけどなぁ……」
「アレでも一応気にしているんだ。察してやってくれ」
「そうだな。あー後アレだ。部屋で休んでいる時に、覗かれたら見せつけるとか言ってたけど、壁とか吹っ飛ばして良いか?」
「殺さなければ良いぞ。一応そういう事はするなと強く伝えておくが、逆に取って監視しろって意味だな! って捉える奴も中にはいるからな」
押すなよ! 押すなよ! って感じか?
「そうか。壁がなくなって、二部屋が一部屋になるかもしれないけど……良い?」
「良いぞ。ルークさんの事を詮索するバカな奴には、多少のお仕置きが必要だろう。罪にはさせんさ」
「ありがとう。んじゃ遠慮なく」
その後は一般人が聞いて良いの? ってな国の内政やら今後の方針の事で愚痴が出たり、奥さんをもらってない方の隣国がちょっかいかけてくるとか諸々だった。
「夏の長期休暇中に、ちょっと国境線に行ってくれないか?」
「笑えない冗談はよしてくれ」
俺は顔の前で手を振り、否定はしておいた。正式に命令書が来ない事を祈ろう。
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