第10話 学校の地下ダンジョン? 何回もクリアしてるさ。
「長期休み前に、さわりだけでもダンジョンを経験させておけ。って学校の方針なんだけどな?」
ディル先生が、今日最後の授業のはじめにそんな事を言い出した。
「ダンジョンっすか!」
「いいねいいねぇ。ダンジョンは男のロマンだよ!」
「俺、閉所恐怖症なんだけど……」
「おい。まだ話してる途中だ。黙れ」
男子がダンジョンと聞いて、ソワソワし始め、そしてディル先生の突っ込みが入った。
「長期休みに地元に帰れない奴もいるだろうし、冒険者登録して稼ぐ奴もいるからな。お前達はその辺の弱い魔物なんかには簡単に勝てるだろうから、ダンジョンの知識も入れておけって事だ。とりあえず道具はこっちで揃えるから、お前達は明日は武器を持って来い」
明日かよ。平日は寮から出られないから、どのみち皆には購買にある道具しか揃えられないだろうからな。
まぁ、最初だしな。必要な道具は学校で全部出すよな。これが三年生とかになると、限られた道具でお題を全てクリアしながら、最下層まで行って脱出する事になる。
ちなみにだけれど、馬車で移動しても実家まで三日から四日、徒歩で移動して十日程度。夏の長期休みは三十日。ムーンシャインがいるので、馬車は使いたくない。
だから帰っても十日くらいしかのんびりできないので、俺達は帰らない事にしている。
「学園長のツテで手に入れたダンジョンコアが学園のどこかにあり、定期的に部屋や通路、出現する魔物が変わる。もちろん位置の把握もできるらしいから、遭難する事はないから安心しろ」
そうなんだよなぁ……。なんか知らないけど、あの人エルフは低級のダンジョンコアを持ってるんだよなぁ。
低級だから制限も多いけど、ダンジョン作りができるっていうのは、王立の学校として、学ばせるって意味ではかなり質が良いと思う。
俺も資格を取りたいけど、コネとか地位とか名声がないと取れないし、コアの絶対数も足りないんだよなぁ。
「いつも通り班行動だが……。ルーク、お前説明できるか?」
この先生は何を言っているんだ? 俺は今生徒だぞ?
「この時間じゃ詳しく説明できません」
「基本的な物で良い。お前の方が俺よりわかりやすく説明できる。本当ならヨシダテルカズ先生がいれば良いんだが、この間の小テストの採点をしててな。前に出ろ」
駄目みたいだ。しかもヨシダ先生もタイミングが悪いな。打ち合わせしてるんじゃないか? ってくらいタイミングが悪い。
「はい……。ってな訳で、代わりに俺が説明する事になった。話の区切りが良くなった時に、質問する時間は作るからその時に質問してくれ」
そう言いながら俺は黒板に、基本的な事を大部類として書いていく。
「まずダンジョンとは。皆はある程度この辺は知っていると思うが、地上に出現したり、地下に発生する物だ。主に自然にできた洞窟みたいな場所に魔物が住み着いた物と、ダンジョンコアが必要な物だとは知ってると思うが、今回はダンジョンコアによる物だ」
俺はそう言って黒板に図も描く。
「で、主に冒険者は討伐報酬や部位、宝物目的で出入りするが、何がどうなってるのかわからんが、ダンジョンコアはダンジョン内で冒険者が微量に出している魔力や、魔法を使って散った魔力、人間や魔族、魔物の死骸を吸収して半永久的に作用する。管理者が魔力を注ぐのが一番効率がいいみたいだけど、俺はさわった事がないからわからん」
それから俺はダンジョンの事をさらに説明し、一旦質問を受ける。
「はい、こけしちゃん」
「こけしって……。相変わらず本名は覚えないのね。まぁいいわ。最下層のボスと管理者は違うの?」
「んー。色々言われているが、俺は違うと思っている。隔離された場所に部屋を置き、踏破されても自分に危害が来ない場所の方が安全だろ? それに冒険者も稼ぎたいから違う方がいいし、もし今回の様に学園長みたいに管理できる者がいないと、しばらくそのダンジョンは閉鎖されて稼ぎがなくなる。町も寂れて悲惨な事になるしな。だから国の命令や、大量の魔物を召喚して町を襲う危険思考な管理者じゃない限りは、ボスを倒して奥に行っても記念用の宝しかない事が多い。ボスイコール管理者ってのは、コアが希に自然発生した物くらいだ」
一応論文的な物からの引用もあるし、私見的な物もあるが、だいたいこんな感じだ。何もない荒野に発生し、ラスベガスみたいにその場所が発展する事もあるし。
「はい、モブ」
「ダンジョン内でこれだけは絶対にやるな。ってのはあるのか? あと名前を略すなって毎回言ってんだろ」
「そうだな……。火属性の魔法は盛大に使うな。かな? 火は燃える時に今吸っている空気を使っている。狭い場所で火を使うと吸っても苦しいままになり、最悪気絶して死ぬ。風の流れがあれば別だが、ダンジョンの出入り口以外基本風はないと思え。多分換気はされてるだろうけど。他にないか? 続けるぞ?」
ってな感じで俺は説明と、質問に答えたりした。
「いやールークの説明はわかりやすいし、テンポも良いよな。俺も見習わなきゃいかんな。ってな訳で、俺の言いたい事以上に色々詳しく言ってくれた。皆帰って良いぞー」
授業が終わり、ディル先生が肩をバシバシ叩きながら言ってきた。いや、先生はできなきゃ駄目でしょ。あと努力してくれ。
「黒板は日直が消しておけよ。わかりにくかったところがあれば今聞きに来いよ? 明日だからな?」
「あ、そうだ。通路の幅とか高さ、罠の有無はどうなんだ?」
そしたら早速教室の奥の方から、男子が質問してきた。
「学園のダンジョン限定で話すが、狭い場合は大股で二歩程度、広くて十歩以上。高さは屈んで通る様な物はないが、平均で三メートルくらいあるからかなり長い槍じゃない限りは平気だ。上層の罠は宝箱のみで床にはない。これは鍵開けの技術や、罠の判別のためだと思った方が良い。ちなみに出現率がかなり低い立派な箱でも、売値が大銀貨一枚分くらいの物だから、学園のダンジョンは稼ぎには向いてない。あくまで学園の練習用だ」
「よかったー。俺の槍は持ち込めるな」
うん。持ち込めるけど、狭くて横幅大股二歩くらいって言ったよな? 突きしかできないぞ?
「トイレは?」
「あると思うか?」
「だよなぁ。学園長が作ったから、なんとなくで聞いただけだよ」
「なら聞くなよ……。まぁ安心しろ。死骸と同じ認識なのか、臓物みたいに汚物と判断されて直ぐに吸収される。音と臭いはするけど。あとは……覚悟だな。特に女子」
そう言ったら変な声がクラス中から出るが、まぁ思春期だし仕方ないだろう。
「戦場とかでも乱戦中は、誰でもダダ漏らしだから安心しろ。だから覚悟だ」
それ以上は質問はなかったので、俺とプルメリアは職員寮に戻った。
◇
ここは校舎の一階にあるとある広い教室。そこに地下に通じる階段があり、周りにはダンジョンに入る為の荷物が人数分用意されていた。
「下層に下りる階段を見つけても行くんじゃねぇぞ? 多分行けねぇけどな。んじゃ番号が振ってある箱から、各自好きなだけ持って行け」
ディル先生がそんな事を言い、クラスメイトが各自好きなだけ箱の中から備品をリュックに詰めている。
多分だが副担任のヨシダ先生は先に入り、下層に行ける階段前で待機していると思う。俺が教師の時も副担任がそうだったし。
「糸なんか何に使うんだ?」
アッシュが糸巻きを持ち、糸を引っ張って強度を確かめていた。
「未走破エリアでの緊急用だ。糸を延ばしながら進み、最悪それをたどって走れば逃げられる。暗黙の了解になっているが、糸をいじったり切ったりしても罰則はないが、冒険者同士の噂話とかが広がってハブられるぞ。間違って切ったら、結び直しておくのがマナーだな」
「そういう使い方もあるのか」
「あぁ。各自目立つ色で染色して、長く同じダンジョンに籠もってれば、どのパーティーの物かなんとなくでわかる。こりゃあそこのパーティーだなって。学園の上層だから必要ないと思うし、全員が持つ必要はないけど、荷物に入れてどのくらい圧迫するかを確認するのも良いな。俺のは魔力を通すと、緑色やピンクに光る様になってる。昼でも目立つし、薄暗くてもわかりやすいぞ。今回は学校の備品だが……」
俺は自分のリュックに糸巻きを入れずに手に持ち、端の方を独特な結びにしておく。
「俺の糸を見ながら逃げ帰ったパーティーもいるくらいで、後で感謝された事もある」
その話を聞いていた他のクラスメイトも、全員が荷物に糸巻きを追加していた。
「そうか。魔物に騙されて奈落に堕ちた神の使いが、神界に戻ってくるおとぎ話と同じか」
不思議なもので、カンダタの蜘蛛の糸的な話がこっちにもあり、大抵の人は知っている。
もしくは、ミノタウロスを倒しに行くのに、迷宮に入る英雄に糸を渡したアリアドネと同じ様な物だ。
国や地域によって微妙な違いはあるけど、ある程度は似ているのは地球でも異世界でも興味深い。
どこからどう広がって、どこで自国用に改変されたとか、後で調べるのも暇が潰せそうだから、やりたい事候補には入っている。
「ヒースは軽装だけど、平気なのか?」
「あたしは一年生は二回目だって忘れてないか? 上層の一階目なら、この程度で平気だよ」
カルバサとヒースがそんな事を言っているが、俺は箱の荷物をリュックに詰めて持ち、ヒースに押しつけた。
「備えよ常に。だ。いくら安全な学校のダンジョンでも、備えはしっかりしろ。本物のダンジョンだと思って、走破する意気込みじゃないと大怪我するぞ? 気の緩みは敵だ。荷物の制限がないなら、万全を期すべきだ。ちなみに武器だけでも問題ない事だけは言っておくが、学園の授業は荷物の量や大きさに慣れておく意味合いの方が強い。もちろんそれを背負ったまま戦闘もできるかどうかもだ」
「お、おう。元教師の言葉は重いな」
俺は真剣な顔で言い、驚いた表情でヒースはリュックを受け取った。
あのプルメリアもリュックを背負っているし、俺の関係者には徹底させていると思ったんだろう。
「必要な物が少ない超軽装の奴もいるが、スカウトの様な斥候職が仲間に持たせていたり、安全が確保されている場所を短期的に一人で潜るだけだったりする。だからこういう毎回ダンジョンが変わる場合は、そういうのはお勧めしない。荷物持ちを雇っても、はぐれた場合に備えて最低限は持っておくべきだ」
全員荷物の装備が終わり、クラスメイトは待機状態になっている。
「んじゃ、一班から入れー」
そう言ってディル先生は、階段脇にあるパネルを押した。
「先生、それは何ですか?」
「あん? 全員で行くと狭いから、班の分だけ一階があるんだよ。二階に下りる階段は全員同じ部屋に通じるから安心しろ」
クラスメイトの問いに、先生はそういう事になっていると言わんばかりに説明をした。
「そのパネルで、潜る場所を意図的に変えられるんだよ。次の班は数字の2を押して決定すると、ちょっとだけ違う一階になる。学園長が一階だけ十区画ほど作り、その一つが十フロアくらいになっている。難易度は同じだ。他のダンジョンじゃほとんど見ない構造だけど、国が運営管理しているダンジョンではたまに見るから覚えておけ」
先生の説明が足りないので、俺は一応補足しておく。始めてで不安な生徒もいるだろうし。
「お、詳しい説明助かる」
「先生の仕事ですよ。昨日俺に説明させて、今日この事を話すと思ってましたが、まさかいきなり放り込むとは思ってませんでした」
俺はため息を吐き、本当に説明はヨシダ先生がした方が良いんじゃないかと思えてきた。今度言っておこう。
「んじゃ残りは六班だな。ルークがいるし平気だろ」
残りが俺達だけだからって、余計な一言が飛んだ。
「リーダーはアッシュです。俺は求められたら助言はしますが、決定権はないです。最悪の場合は俺が引っ張って一階の走破はしますが、俺は俺の役割を果たすだけです」
「お前らしい答えだな。ま、ヒースもいるし全員気楽にな」
ディル先生は階段を親指でさしたので、さっさと行けって事だろう。それを見たアッシュが、アイコンタクトを俺達に送って階段を下りていった。
「思っていたより明るいんだな……」
階段を下りると、観光地の様に整備された遺跡風の場所に出た。
切り出した石を軽く研ぎ、表面が平らな壁が続いており、十数メートルに一本、柱っぽい装飾も半分埋まっている感じだ。
「天井に発光する魔石が、一定間隔で埋め込まれてるしな。このタイプのダンジョンは何個もあるが、中層や下層から真っ暗になって、ランプとか松明を持ってない奴は帰らされる事になる、一種の洗礼みたいなもんだ。ダンジョンマスターってのは、意地が悪い奴が多いし、魔力的な問題でなるべく冒険者にダンジョン内にとどまって欲しいからな。だからランプが荷物にあったはずだ。下層辺りからこの光る魔石はなくなるから、その洗礼を生徒も味わう事になる奴が大半だ」
俺は糸巻きの端を持ち、出入り口の壁際にある落ちている石に結び、左手に弓、右手に糸巻きの持ち手を掴んで準備を終わらせる。
ちなみに、少し強く引っ張れば外れる様になっているので、二階への階段に付くか、なくなったら他の糸を足して巻き直せばいい。
「カルバサとヒースが前衛。僕とマリーナが中衛。ルークとプルメリアが後衛だ。何か意見はあるか?」
「特にないが、後衛を守るのにプルメリアは過剰すぎじゃないか?」
何となくだが、槍のヒースの方が長物って意味で守りやすい気がする。まぁ必要ないけど。それに、素手だとどうしても敵と接近するから、弓が活かせない。その前に倒すけど。
「言葉が足りなかったな。交代要員として、交互に切り替えていくつもりだった。素手だと後ろから急に前に来るのにも、邪魔にならないだろ? どうしても前衛は精神的に疲弊するからな。けど今日は試しに一階だけだし、交代はないと思う」
「だと思った。まぁそれで行こう」
「前衛の二人に強化魔法をかけますねー。あまり無茶しないで、辛くなったら言ってくださいねー。私も前衛とかできますので」
マリーナがニコニコしながら二人に強化魔法をかけ、片刃の剣が溶接されている杖を軽く振っている。
個人的にはその武器を使っているところを見たいが、カルバサの釘バットもさっさと見てみたい。
「なぁルーク。なんか攻略するのに、コツみたいなのはあるのか?」
カルバサが警戒しながらそんな事を呟きながら丁路地の手前で一旦止まり、左右を警戒しながらそんな事を言ってきた。一応基本はできているので、特に言う事はないが不安なんだろう。
ク○ピカ理論だと右らしいけど。今回は使わせてもらおう。元ネタは知らないけど、有名だからク○ピカ理論は知ってる。
「人は迷った時に、無意識に左を選ぶ傾向が強い。だから右に行けば……って事もあるが、統計を取ってないからわからないなぁ。とあるギャンブラーは、今自分と考えている逆の事が正しいとも言っていた。だから当てにはならん。ちなみに迷路だが、右手左手の法則ってのがある。これは片方の手を壁に着けて歩けば、反対側にあるゴールにたどり着ける。階段が孤立した真ん中にあったら無意味だけど」
俺は一応、迷路の法則も言っておいた。
「最終的に選ぶのはアッシュだ。俺はその選択を恨んだりはしない」
「あたしも気にしないぜ?」
「俺もだ」
「そうか……。んー右に行くぞ」
「ちなみに自然にできた洞窟とかだと、煙の動きや音の反響で行き止まりとかはわかる」
「おい。折角決めたのに、迷わせるような事を言うなよ」
「言い争ってるところ悪いが、ゴブリンが右側から来てるぞ? どうする?」
「ちくしょう! 右だ右! なんか左に誘導されてそうで気分が悪い」
「わかった」
カルバサが短く返事をし、釘バットを持ったまま走り出し、思い切りゴブリンに叩きつけて一撃で頭を吹き飛ばしていた。
一応魔法の杖の部類だったはずだが、打撃武器を無理矢理魔法の杖にしたって言った方が正しい感じがする。
「狭い通路でブンブン得物を振り回すな。あたしも戦闘に参加できないよ」
「このくらいなら……問題ない!」
そしてカルバサは思い切り釘バットを両手で振り抜き、ゴブリンそのものを吹き飛ばしていた。
綺麗なフォームだったよ……。プロ野球からスカウトがかかるくらいには。
「やるな。僕には到底できない」
「鈍器と刃物の違いだろう。あと、俺は魔力を全て肉体強化に使ってるからな」
うーん。良い笑顔で言ってるけど、バットは折れないのかな? 本当発想が異世界だわ。後は素材だよな、なんの木材でできてるんだろうか?
俺はそんな事を思いながら、後ろを警戒しつつ付いて行き、時々通路から顔を半分出してこちらをうかがっている奴の頭に矢を中てて処理しておく。
「やることがない……。いや、警戒はしてるよ? けどお兄ちゃんが後方の魔物を全部処理しちゃってさ」
少し広いエリアに入り、糸巻きの糸を使い終わろとうとしている頃、プルメリアがなんかションボリとしている。今まで交代要員として温存って事をしてこなかったからだろう。
「交代要員の温存だと思えばいいさ。丁度糸がなくなる頃だし、カルバサかヒースと代わるか?」
「ってか、思ったより広いダンジョンだな。学園のだからって舐めてたわ。糸がなくなる頃には階段があると思ってたが、これは授業だし区切りが良いし、ルークの言うとおり交代しておくか……。本当はもっと時間が経ってからするんだろうけど」
アッシュがプルメリアの事を見ながら、授業と言う事を強調して提案している。まぁ、代わってやれって事だろう。
「あ、今までの魔物の傾向として、このくらいなら私も前衛できそうですよー」
マリーナも暇だったんだろう。杖をブンブン振りながらそんな事を言っているが、危ないから止めて欲しい。だって刃がむき出しだし……。
「なら交代してくれ。一応授業だし、経験するのも勉強だ」
カルバサが笑顔で言っている。一応正しい事なんだけどな……。ゴブリンを吹っ飛ばした、返り血の付いた笑顔で言わないでくれ。スキンヘッドも含めて怖いんだよ。
「よし、階層主の部屋まで行っちゃいますか」
「良いですねー。行っちゃいましょー」
「二人とも元気だねぇ……」
プルメリアとマリーナが片手を上げて意気込んでいるのを見て、ヒースが呆れていた。確かに緊張感はないけどさ。
「で、階層主はなんなんだ?」
アッシュが俺の方を見て、そんな事を聞いてきた。一応撃たれ弱そうなマリーナがいるから心配しているんだろう。
プルメリア? 多分単独制覇できる戦力はあるだろうから、多分この班で心配する奴はいないと思う。知識も技術もそのうち付くだろうし、来年くらいには行けそう。
「学園長の気分。具体的に言うなら、冒険者ランク3から4のパーティーで倒せる程度。ホフゴブリン数匹だったり、オーク一匹だったり、大量のスケルトンだったり。あと二人とも、気の緩みは大怪我につながるから真面目にな?」
「うっす!」「はーい」
本当にわかっているんだろうか? プルメリアは性格的にちゃんと返事しないからなぁ。
その後は、プルメリアはいつも通りだった。むしろ魔物なんかいないかの様に歩いている。
マリーナは片刃剣の付いた杖を振り下ろしたり突いたりで魔物を倒していくが、刃物が通らなそうなスケルトンが出た時は、魔石部分で殴っていた。
この班脳筋しかいねぇな……。魔法の魔の字もでねぇぞ? ヒースは火属性が得意とか言ってたが、俺があまり使うなって言ってたから使っていないんだろう。模擬戦の時なんか、嫌らしいタイミングであったら嫌だなって場所に的確に放つのに。
まぁ、魔力の温存なんだろうけど。
「お、宝箱だな。これがランダムに出るって言われてる奴か。馬鹿みたいに目立つ色をしてるんだな」
通路を抜けて少し広い広場に出ると、アッシュが隅にある宝箱を指さして、あきれた感じで言っている。
「こんなに自己主張の強いのは、ナニかから注意を反らしたい場合が多いぞ」
「つまり罠って事か? あたしが去年潜った最初のダンジョン実習では、どの班もそんなのはなかったぞ?」
ヒースが何かを思い出す様に右上を見ながら言っている。
「学園長が、暇だから業務の片手間に見てるかもしれないし」
「そんな事してんのかよ。仕事してろって」
「憶測だけどな。けどない訳じゃない。俺が教師をしてる時にたまたま学園長室に行ったら、執務机の隣に青白い板が浮いてたから多分見てるぞ? それに声も拾ってた」
「やっべ、次に顔を合わせ辛いな」
「で、ルーク的にどう思う? やっぱり罠か?」
アッシュは心配なのか、一応意見を聞いてきた。
「一階だし死ぬ様な罠はないだろ? 鍵開けの練習でもしたらどうだ?」
「できない」
「……だよな。他は?」
「できると思うか?」
うん。カルバサはそう見えるね。
「全部任せてたよ」
ヒース。一応ここは学校ですよ?
「鍵開けの授業はー、まだやってませんよー?」
確かにやってないね。そもそも聖職者で鍵開けの技術が高かったら、少し引くわ。
「力業で」
はい、プルメリアは論外。確かにこじ開けそうだけどさ。
「持ち上げたり傾けたり強い衝撃を与えると、中身が壊れる可能性がある。ってか、宝箱の中身にそういう振動感知型の仕掛けがしてあるのもある。技術者に作らせたのかなんなのかは知らないけどな」
俺は宝箱の正面の下の方を軽く蹴ると、少し遅れてカシャンと薄いガラスが割れる様な音がした。
そして靴に仕込んでない方の、ピッキングツールで難なく鍵を開けて蓋を開ける。
「二重になってる左右の板が、中身を押し潰す。多分ポーションだなこりゃ。最悪毒針や毒霧とか、矢が出てくる時もあるから気をつけろよ」
そう説明している時に、なんかガコンと音がしたので二歩ほど急いで横に移動すると、カコーンと良い音と共に、風呂なんかに置いてある小さい手桶が落ちて鳴った。
「鍵開けを戸惑ってると、時間差でこんなトラップが発動する事もある。落とされた高さと、頭に角が当たると涙目になってうずくまる程度には痛い奴だから良かった。酷いのは壁から丸太とか矢が飛んできて、宝箱を開けている奴を負傷させる系や殺傷系が発動する。今までの経験上一階でこんな罠はないから、確実に見てるよ……な!」
俺は特に変哲もない隅の方の天井に向かって矢を射つと、石なのに矢が刺さっている。
「何をしているんだ? いきなり天井なんか射って」
皆が天井の方を見ているが、アッシュが不思議に思ったのかそんな事を言ってきた。
「ん? なんかその辺の壁や天井に比べて、やけに違和感のある物を見つけてな。多分部屋を見渡す魔道具だろう。今までもあったが、今回ばかりは少しやりすぎだと思って破壊しておいた。ちょっとした訴えだな」
良く店なんかにあった黒い半球状で、この世界? 学園ダンジョンでの防犯カメラだか監視カメラみたいな物だ。
前世の知識があるから何となくそうだとは思ったし、学園長室で少し見た映像がだいたい斜め上からの視点だったから、かなり前から怪しんではいたけど、矢が刺さっているので内側からなら透過できる材質だったんだろう。
「そんなのもあるのか……。安心して良いのか、見られてて嫌だと思うか……。ダンジョンマスターってのはいやらしいな」
カルバサが矢の刺さっている方を見て、左手人差し指の第二間接辺りを口元に持って行き何かを考えている。
「もしかしてよ、その……トイレとかも?」
なんか驚いた顔をしながら、ヒースがトイレの話題を出した。女性にとってはかなりの問題だろう。
「角度的に見えないだろうが、してるって事は丸わかりだろう。男だったら? って俺も思ったが、その辺は学園長の良心にかけるか、ダンジョンマスターの運営試験やら禁止項目にその手のたぐいがある事を祈ろう」
壁際でホースを出して排水だし、女性よりはモノが見えやすいし。けど今更だ。俺だって何回も学園ダンジョンで排泄している。
「んー。今後少しだけためらっちゃいますねー。もういっその事トイレでも生成してくれないかしらー?」
マリーナも少し困った感じで言っているが、そこまで心配している感じじゃなさそうだ。
「あの学園長の事だから、別なダンジョンや、戦場の事とか出されて言いくるめられるだろうな」
「ですよねー」
マリーナはいつも通りの声で言った。あれ? あまり心配してなさそう……。
なんかずぼらっぽいし、厳粛げんしゅくなシスターっていうより、修道服を着てるだけの子っぽいんだよなぁ。
『おいルーク、装置を壊すんじゃぁない!』
そしたら部屋に、学園長の声が響いた。スピーカーの機能もどこかに付いてるみたいだ。
皆はきょろきょろと辺りを見回しているが、魔道具的な物だから存在自体知るのは初めてなのかもしれない。
「学園長の声だ。こっちの音も聞こえてるし、向こうの音もこっちに送れるらしい。悪い事はできないな。すみませんでした」
俺は一応補足しつつ、謝っておいた。じゃないと、変に嫌がらせをしてくるかもしれない……。あ、カメラが生えてきた。
「まぁ、普段通りにしてれば問題ないだろ。次行くか」
「いや、直ぐにはできないだろ……。ってかなんでそんなに落ち着いてるんだ?」
アッシュが生えたカメラと、俺の方を交互に見ながら突っ込んできた。監視カメラの存在自体初めて知っただろうから、いきなりは無理があるか……。
「一応こういう魔道具があるってのは知ってたからな」
前世で。とは言わないが、なんで昔の人はプリンターを作らない。多い情報量を手書きするのはだるいんだよ。
そんな事を思いつつ、俺は次の部屋に通じる道の方に歩き出した。
「アレもそうだな。あそこにもあるぞ」
俺は監視カメラの位置を指さしつつ、どんどんプルメリア達が魔物を倒しつつ進んで行っているが、二本目の糸巻きの糸がなくなる頃に大きな部屋に出た。
「多分階層主の部屋かな? 奥にダンジョンには似合わない木製のドアも見えるし、反対側に通路が見えるから、なんだかんだでどこに行ってもこの部屋にたどり着けるっぽいな」
「にしては何もないぞ? 普通はわかりやすく、階層主が待ってるんじゃないのか?」
「まぁな……。一階の難易度的にゴブリンの強化版が数匹だと思ったけど……。プルメリア、これを部屋の中央に投げてくれ」
そんな事を言いながら、必要のない松明に火を点けて渡した。そしてプルメリアが軽く松明を投げた様に見えたが、一応届いているのでそれなりの力で投げたみたいだ。
そしたら灰色のゴツゴツした人形みたいなのが、モリモリとせり上がってきて大きさが三メートルを越えた。
「アイアンゴーレムだなー。絶対に一階じゃ出ないし、確実に学園長の手が入ったな。俺がいるって事で、急に階層主を変えたんだろう」
ゴーレムは自分で動く土人形って意味らしいが、この世界では石でできた奴とか、鉄でできた物もある。もちろん粘土だったり鉱石類と種類は豊富だ。
「おい、でかくないか? やばいぞ? さすがにあの体格差とアイアンゴーレムは、このパーティーじゃ攻撃が通らないだろ! ってか攻城兵器として見た事があるぞ!」
「そんな事より、アイアンゴーレムなんか先輩の話でも聞いた事ねぇよ! 初めてだよ!」
なんかカルバサとヒースが慌てているが、プルメリアが状況を把握したら即走り出してアイアンゴーレムの足の関節部分を蹴ったが、振り抜いて綺麗に足が千切れて横に倒れ、間接がロボットアニメの合体シーンみたいに直ぐにくっついた。
「なんか感触が嫌なんだけど!」
「そんな事よりもう立ち上がろうとしてるぞ! 逃げてこいプルメリア!」
ヒースが叫んだが、プルメリアは胴体を殴りつけてよろめかせてたり、攻撃してきた腕を素早い蹴りで攻撃を弾いていた。
よく骨とか平気だな。俺には絶対無理だ。
「表面は一応鉄で硬いから、核をどうにかして攻撃しないと倒せないぞー。とりあえず戻ってこーい」
俺は緩く言いながらバリスティックナイフのピンを抜き、プルメリアが戻って来てる時にスイッチを押して刃を監視カメラに射出し、手を振って中のバネを落として銀貨一枚程度の魔石を入れる。
そしてアイアンゴーレムに接近し、視線の少し上の方から振ってくる様なパンチを避けながら柄を握ってイメージをしながら魔力を込める。
イメージはターボライターの様な感じで、純粋に魔力を熱量に変換して放出するだけだ。
そうすると白に近い青の棒状の物が延び、筒状の剣っぽい物になる。色的にかなり高温だと思うが、ライターみたいに手元は不思議と熱くはないし、柄が溶ける事はない。
見た目が控えめに言わなくても、どうしたって某ロボットアニメの光るサーベルとか、某有名映画の光るセイバーになってしまう。これは本当にどうにもならなかった。魔力を筒から放出するだけだし、形なんか変えられるかよ。
違いと言えば先端に行くにつれて魔力が四散し、
ま、後は突き刺すだけだ!
そして特に抵抗もなく、魔力の剣はアイアンゴーレムに刺さって動かなくなった。刺した回りが溶ける様にドロドロになっていたので、鉄ではなくて融点の低い合金の可能性があるな。
俺は既に刀身が消えている柄を下に向け、完璧に濁った魔石をそのまま床に捨て、監視カメラの辺りに落ちている射出した刃を拾いに行き、帰りながらバネも拾った。
放射時間は魔石の質で変わるが、今回は十秒くらい出てたな。
「お、おい。今の何だよ……」
「それって光の剣……だよな……。聖剣? 魔剣?」
「ないない。強いて言うなら魔法剣に近い物だ。それとこっちはただのダガーだ」
ヒースが驚きながら俺の持っている柄を指したので、ニコニコしながら見せつけ、アッシユは俺の手元を凝視していたので否定した。
個人的にはエネルギーブレード? とか言いたい。かといってストーブの熱の表記みたいに、カロリーブレードだとダサいし、ファイアブレードとか?
「刃が飛んだぞ? なんか白いのが生えてたぞ?」
カルバサが驚いていたが、俺はニコニコしたまま人差し指を立て唇を押さえた。
「黙っててくれよ? 一応禁呪指定じゃないが、学園長でも知らない魔法なんだから。目カメラは潰したが声は向こうに聞こえてるだろうし、それがヒントになる。皆も頼むぞ?」
「お、おう……」「わかった」「あいよ」「わかりましたー」
四人が一斉に返事をしたが、プルメリアが手の平から黒い炎を出して、なんか不満そうにしていた。
「鉄ならドロドロにはできたと思うんだけどなー。あんまりダンジョンじゃ火は使うなって言ってたし仕方ないかー。相性も悪かったし、アレが石とかだったら多分殴りでいけてたと思うんだけど」
不満しかなかったわ。あ、アイアンゴーレムがダンジョンに吸収された。
「極端に硬い相手なら仕方ない。そういう時は、できる奴に任せてサポートに徹しろ。あとは換気されてるっぽいから、そこまで大規模じゃなければ平気だったかも? 鉄っぽかったけどこいつは合金だな。思ってたより早く溶けた」
ちなみにだけど、最初の魔法の授業でプルメリア独特の魔法は知れ渡っているので、皆は驚いてはいない。
「僕の出番がなかったぞ? ってか何もしてないんだけど?」
アッシュは構えていた剣を鞘に戻し、ため息を吐いていた。
「指示と最終判断はしてただろ? 責任は全部アッシュに行くから、それだけで十分だろ」
俺は糸を引っ張り、なんとなく抵抗がなくなったのでそのまま糸を巻き取る。
「何もしてないのに、責任だけ来るってなんか嫌だな。ってか一匹くらい倒したかった……。どうにかならないか?」
「向かいの通路に行くか? 多分出てくるぞ?」
「いや。階層ボスが復活する場合もあるんだろ? さっさとドアに入って終わらせよう」
アッシュがため息を吐きながら、ダンジョンには似合わない木の扉の方に向かったので、専用の道具を使ってバリスティックナイフのバネを柄に戻し、刃もセットしてピンを挿した。
『おいルーク、何度言ったらわかるんだ! 放課後に学園長室にこい! いいな!』
そして学園長の怒っている声が響き、新しい監視カメラが生えてきた。
「わかりました。放課後に行きますね……。怒られた、何でだろうか?」
俺はわざとらしく皆の方に振り向き、軽く手を広げて首を傾げる。
「いや、ルークが注意されたばっかなのに、魔道具を壊したからだろ……」
ヒースが槍の石突きを地面に突き、寄りかかる様にしながらジト目で言ってきた。
「あぁ、知ってる。でもなぁ……、見られたくなかったし、さっきのは仕方ない。それにアイアンゴーレムっぽい奴を出してくる学園長が悪い。学園ダンジョンの下層でも見た事ないし、絶対俺に対する嫌がらせにしか思えない。あと、壊さないとは一言も言ってない」
俺はバリスティックナイフを元の場所に戻し、糸をリュックに挿してドアの方を向く。
「んじゃ、皆と合流するか」
そしてプルメリアと目が合うと軽く頭を縦に振り、ドアの方に向かって歩き出したのでそれに皆が付いていく。
ドアを開けると円状の部屋になっており、壁に沢山ドアがあり、各班がそこから入って来るんだろう。
「なんで映像を皆で見てんの?」
そしてクラス全員がそろっており、モニターにはドア越しに俺の背中が見えていた。ってか、俺が生徒や教師の時はこんなのなかったぞ? 見学用か? それとも学園長の嫌がらせか?
「おい、なんで時々魔道具壊してんだよ。見えなくなったと思ったら、アイアンゴーレムが消えてるしよ。どうやって倒したんだよ! ってかやっぱりルークは凄ぇよな」
「時々こっちを指さしてたわよね? どれが魔道具なのかわかってるの?」
うん。監視カメラ壊してて良かった。それと、ここにスピーカーはないみたいだ。
「色々と見せられない魔法もあるんだよ。魔道具は注意深く見ればなんとなく違う感じがするから、もしかしたらって思っただけだ。ってか一番早い奴はどこから見てた?」
俺は気になったので、何となく皆に聞こえる様に言った。
「宝箱を蹴って、何か言ってるところだな。桶が落ちてくるのを避けたところもばっちり見てたぜ」
「そうか、ってか早いな……」
「全員全速力で駆け抜けたからな! ろくな物がないって話だし、宝箱も無視してたぜ」
ドヤ顔で言うなよ。一階のタイムアタックでもやってたんか? 一応早さも評価に入るけどさ……。
「そうか。今後……っていうか、中層は足下のトラップに気をつけろよ?」
それだけ言って、ヨシダ先生の方を見ると目があった。
「はいはい。皆戻ってきましたね? では、そこに下に行く階段がありますが、このドアの向こう側に上り階段があるので、それで帰りましょう」
ヨシダ先生は手を叩きながら注目を集め、帰ろうと促していたが。腋にはバインダーが挟まっていたので、きっちり評価はしているみたいだ。
□
「学園長室に行ってくる……」
今日の授業が全て終わり、ため息を吐いた後にそんな事をプルメリアに言った。
ダンジョンから出た後は、反省やら報告やら情報交換で、授業らしい授業はなかったが教壇に立たされた。
監視カメラの見つける方法とか、宝箱の罠の種類とか事細かに聞いてこないでくれ。他のダンジョンじゃあまり通じない。それに俺が学園長に怒られる。
ってか、鍵開けの技術を四人くらい本気で聞きに来たから、鍵の断面図を横から描いて内部の説明を詳しくした。
簡単な構造で、高さを合わせれば横に回るピンシリンダーだから、説明が楽だった。もちろん道具は見せていない。殆どの奴が各自工夫して、自分に合った状態に仕上げるからだ。
本当鍵に対しての技術が低くて助かった。ディンプルキーだったら、俺も鍵開け技術の方法を魔法式に変える覚悟もあったし。まぁ魔法式はそっちはそっちで別な技術が必要だけど。
「失礼します」
俺は学園長室のドアをノックし、返事があったので入室した。
「言い訳があれば聞きましょう」
「じろじろ見られるのが嫌いなんで。ってか便宜上アイアンゴーレムって言いますが、アレは私情ですよね?」
「一応安全上の理由って事で、この学園ダンジョンには監視用の魔道具を設置してるから、壊されると困るのよ。他のダンジョンマスターは状況把握でしょうけど。で、アイアンゴーレムの件は、設備を壊して回っているから警告よ。即座に倒されちゃったけど」
学園長はため息を吐きながら、執務机に乗っているお茶を一口飲んだ。
「ふむ……。以後気をつけます。で、表向きの用件だけですか?」
何となくだが裏がありそうなので、ストレートに聞いた。
「鍵開けやらトラップの説明をしていたわよね? あれを皆に教えてあげて欲しいのよ。どうしても学園ではスカウト系って、軽く見られがちだから」
「そんな事ですか。クラスで斥候を希望する生徒にはもう済んでます」
実際に、スカウトを希望するっぽいクラスメイトに教えてたし。
「相変わらず変に優秀ね。本当教師に戻って欲しいくらいだわ」
「担任の代わりに説明させられたり、お前の方が詳しいからって理由で教壇に良く立たされてますが、詳しい報告書を出しますか?」
「別に良いわ。その方がクラスの質も上がるでしょうし。そうすると給金を時間で出さないと行けないわね……。それだけ三十日に一回報告してくれればいいわ」
ディル先生やヨシダ先生への聴取はないのか。
「授業の半分だった場合は、二回で一回としときますね。以上でしょうか?」
「アイアンゴーレムを倒した方法も、個人的には聞きたいわね。刃が飛んだ直前までの映像を見たけど、白い刃がどうのこうのとか言ってた? 奴をね」
やっぱり聞こえてるよなー。しかたねぇか。
「熱ってのは、熱くなればなるほど白くなります。以上です。じゃ、帰りますね」
「待ちなさい」
ヒントだけ与えて帰ろうと思ったが、呼び止められた。
「こうかしら?」
そして学園長が手の平を上に向け、火を出して何か集中し始め、どんどん火の色が変わっていくが、不安定なのか火が大きくなっていく。もちろん表情も険しくなっている。
人を火傷させて、最終的には重度の火傷になる、広範囲にある程度の時間を使用するのとは訳が違う。だから対人用広範囲殲滅型? 撃滅型? の学園長には厳しいだろう……。
「そうですねー。鉄が溶けるくらいの温度を維持して、それを剣の形にして切りかかれば良いんじゃないですかー?」
「ずいぶんと……適当じゃない……」
学園長は集中力を維持するのに、言葉が途切れ途切れになっている。精密作業はやっぱり駄目みたいだ。
「創造した魔法は財産みたいな物ですし? 言葉だけ聞かれてたからそこまでは教えますけど、学園長でも教えられませんよ?」
「いくらで教えてくれるのよ!」
あ、諦めて魔法を解除した。維持できなかったんだな。
「逆に聞きますけど、近接戦をやるおつもりで? 敵の攻撃を避けながら、魔法を維持したまま攻撃できます? できるなら教えますが?」
「でき……ないわね」
「なら諦めてください」
「もし接近された時用よ。回避して、瞬時にナイフやダガーくらいの長さを出し、剣や鎧を破壊。あわよくば無力化できるなら安全でしょ」
「魔法ギルドで正規の手続きを踏み、誓約書とか諸々書いてお金を出せば閲覧できますよ?」
「その魔法ギルドの元お偉いさんが、ここにいるんだけれど? 論文提出した人もここにいるし」
「元お偉いさんが、そんな事したら駄目でしょ……。はぁ……。数日以内に手続きしてくださいよ? 俺もバレたら怒られるんですから」
俺はため息を吐きながらソーサーを横にずらし、バリスティックナイフを取り出して鞘をはずしたが、鈍く光る射出される武器を見て、学園長が少し警戒している……。射出しないから平気ですよ?
「ただの魔力をそのまま解放です。バーっと出す感じで。もう少し詳しく言うと、エネルギー? 熱量? そんな物を筒状の物から放射する。純粋にそれ自体をぶつける感じです。無属性の魔法と火属性の間みたいな物ですかねー?」
そう言って俺はそろそろ限界が来そうなチャクラムと、胸ポケットから屑魔石を取り出し、そのまま鞘に入れて上を向けて解放すると、二十センチくらいのブレードが出現したので、チャクラムの中から外に手首を振ると、視力検査のマークみたいな形になった。
ちなみに筒状ならやりやすい。太くても細くても。魔石が入らなくても。
太いとその分魔力消費量が増えるし、媒介になる魔石がないと個人的に太いのは辛い。
「コレが純粋な魔力を筒状に放出したエネルギーです。そうするとこんな感じに散る事なく、熱として利用しやすくなると思います」
「……ふむ。面白い考え方をするのね。手とか火傷しないの? ってか炭化か」
学園長が顎に手を当ててチャクラムを見たので、俺は使い終わった屑魔石をテーブルに落とした。
「発動条件を小指とか人差し指の先から、どのくらいの場所と決めておけば平気です。個人的に筒状の物を使っているのは魔石を媒介にしやすいのと、安全性を考えてですね」
俺は右手の親指だけ曲げて手刀の様な形を作り、エネルギーブレードを四本束ねた感じに爪から五センチくらいの所から発動した。
「こんな感じとか? 親指を使わないのは、一本だけ角度が違うので他の指を落とす危険があるからです」
そして手を払う感じで手首を曲げ、チャクラムをえぐり取る様にして視力検査のマークの幅を広げた。
「ま、どんな感じなのかってしか書いてないので、その人が使用して怪我とかしても責任は取りません。気をつけてください」
「キャッ!」
そしてエネルギーブレードを消し、俺は残っていたお茶を飲み干そうとした瞬間、学園長がティーカップからエネルギーブレードを発動し、天井に俺の拳くらいの穴が開いた。
「……気をつけてくださいね?」
「え、えぇ……。わかってるわ」
学園長はひきつった笑顔で返事を返してきたが、執務机の上にモニターみたいなのが現れ、警報的な感じで赤色で一秒に三回くらい点滅していた。しかも音がうるさい。
あと驚いた声が少し可愛いと思ってしまった。
「警報……出てますね。学園内で何かあると出るんですか? それとも校舎内?」
「境界になってる壁からよ。設定した時間外に、壁を乗り越え様としても出るわ」
「たまに夜中に乗り越える奴がいますからね。記憶に止めておきます」
俺はそう言って、まだ手に持っていたティーカップのお茶を飲み干して立ち上がった。
○月××日
今日は学園内ダンジョンに挑戦したが、事前の説明できなかった事を直前で説明した。監視カメラを破壊したら怒られて、学園ダンジョン一階では絶対に出ないアイアンゴーレムが出た。程々にしないと駄目だな。
久しぶりにエネルギーブレードを使ったが、聖剣や魔剣と疑われた。なので魔法剣だと言っておいた。学園長にバレて教えるハメになった。
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