第8話 1/2 その呪い、俺がやりました……
「プルメリア、別に俺は女性物の下着を洗うのに抵抗はない。ただ気になる事がある。どうして所々解れてるんだ? それが気になるんだよ」
今日は俺が洗濯物を洗う番で、休日一日目の朝食を済ませ、終わって寮に戻り、溜まっていた汚れ物を洗濯し、終わらせてから愚痴った。
プルメリアの持っている黒の大人下着が、所々解れていたので、洗濯籠から取り出して付きだした。
「普通に洗っただけだけど?」
「普通にゴシゴシと?」
「うん。普通に他の洗濯物と一緒に」
俺はため息を吐きながら片手で頭を押さえた。
「こんな装飾過多で布面積が少ない紐パンをゴシゴシ洗うとか正気か? こういうのは生地が痛まない様に、優しく丁寧に洗ってくれよ」
「えー、私のだからいいじゃん」
「俺が気になるの。ってか、少しは気にしてくれよ。解れてるのは本体と紐部分だぞ? 履いてる時に取れたら致命的だぞ?」
俺は洗濯物を紐に干しながら、プルメリアに背を向けながら言った。
「片方生きてればセーフ!」
なんか力強く言われた。そういえばプルメリアは、ノーパンでも気にしないタイプだったわ……。
「アウトだよ。取り込んだ後に縫っとけよ。休日にしか履かないかもしれないけど、王都の中で落としたら洒落にならん」
「思春期男子に拾われたら、大ハッスル!」
「止めろ。俺の父さんみたいに、良い笑顔で親指を立てんな。あとそういう事されてるって思ったら、気持ち悪くないのか?」
なんかどっと疲れて、俺はベッドに座ってため息を吐いた。
「んー実害はないし。あー、下着代に実害があるか……。けど買い換え時だと思えば、個人的な価値はないに等しいし……。あんな大人下着なんか雑巾にも継ぎはぎにもならないしさ。本当に価値はないんじゃない?」
使用済み下着ってなだけで、一定層にかなりの価値が出るんだよ……。問題は落ちてるから顔がわからないくらいか……。あれ? 顔がわかるから価値も出るんであって、落ちてる誰のかわからない、もしかしたら豊満すぎる中年マダムの可能性も出る訳で、地雷に等しい落ちてる下着には価値がない? 良くわからん。
「確かに価値はないのか……も?」
俺は腕を組み、首を傾げて答える。ヤバい……自信がなくなってきた。
十日に二回くらい使用して、一年くらいが寿命とか買い換え時、もしくは駄目になるまで履き続けるって人もいるし、大人下着という事も考慮して半分だとしよう。けど十回程度で駄目にするのはやっぱりおかしいよな?
あ、けど大半が学園の寮で過ごしてるから、学園の中で落とす確率の方が多いな。男子生徒大ハッスルじゃん……。
「それより、この間の飛竜の件でドワーフのお姉さんの所に行ったんでしょ? お金を払いに行かなくて良いの?」
「もちろん行くつもりだったけど?」
話題変わったから言いそびれた。
「ならデートで」
ベッドに座っていたプルメリアは、俺の目の前でパジャマを脱ぎ捨て、いつもの服に着替え始めた。
うーん。下着が黒の大人下着だけど、着替え方のせいで色気もなにもあったもんじゃない。
□
「でー、どうするの?」
「ブラブラしながら冒険者ギルドに行って、この間のワイバーンの件で入金されてるか確認。それからお金を下ろしてスラム。その後にブラブラデート」
学園の敷地を出てからプルメリアが聞いてきたので、とりあえずの流れを言う。レイブンとムーンシャインは留守番だが、そのへんの民家の屋根を見ると、足に銀色っぽい物を付けたカラスが見えたので、付いてきたみたいだ。
流石にロバはいないが、カラス……レイブンなら繋がれている紐を解いて連れ出すくらいは、平気でやりそうなんだよなぁ。帰りにニンニクと砂糖、もしくはビスケットを買って帰らないと拗ねるだろうな。
「貯金残高の確認と、大銀貨五枚を下ろしたい」
冒険者ギルドに付き、朝の喧噪はないし空いているので、銀行業務もやっている受付の女性の所に行き、認識票を提示した。
材料費は大銀貨三枚だけど、デート費用とかあるし。
「かしこまりました。少々お待ち下さい」
「おい、綺麗な嬢ちゃん。そんな変な髪のエルフなんかと付き合ってても、ろくな事ねぇぞ。寿命が違うんだから、俺達にしとけよ」
受付の女性からは事務的な返事が帰ってきて、しばらく待っていたが、後ろにいたプルメリアが冒険者に声をかけられていた。
俺は振り向くと、筋肉隆々で両手険を背負っている男の他に、三名ほどパーティーだと思われる獣人系を含む男がニヤニヤしていた。
「冒険者同士のギルド内の暴力沙汰、ギルド外の殺人はもちろん犯罪だから、喧嘩なら外でやってくれよ」
周りへの警戒心、重心の位置、武器が直ぐ取り出せるか。その他諸々の要素を総合して、俺は問題ないと思った。
「おいおい。エルフはお嬢ちゃんの事見捨てたぜ? なぁ、これから一緒に良い事しようぜ?」
普通はここで男である俺がかばう場面だが、プルメリアな時点で無駄な事だ。
ここは優しくかばうそぶりを見せるべきだろうが、俺が出た瞬間に確実に武器も必要になるので、刃傷沙汰になってしまう。そうすると牢屋に三日コースは確実。学校にも迷惑がかかり、学園長に小言を最低でも一時間は言われるだろう。
一時間あれば、既に小言じゃないけどな。
「さっさと終わらせるつもりだけど、お金を下ろし終わったら早く見に来てね」
「あぁ。殺すなよ」
俺がそう言うと、プルメリアは無言のまま笑顔で首を縦に一回振った。
「あの……。お連れの方が心配ではないのですか?」
受付の女性が文字の出てる水晶板みたいな物をこちらに回し、銀行を利用した履歴を見せてきた。
ふむふむ。振り込み人はリオンとなっているが、ジュリアンが通称として使っている名前だ。
大銀貨五枚ねぇ。毒の材料費を引いても、一応手間代くらいにはなっている。少し上の方にある、錬金術士ギルド名義の振り込みもあるので問題はない。
むしろ、金貨三枚・残り九十九回と振り込まれている魔法ギルドが目立つ。そりゃ金のあまりない組合が、いきなり現金で白金貨三枚分……日本円にして約三億円を要求されたら傾くな。俺を指名手配してた理由が良くわかった。
「金額の確認は大丈夫だ。ちなみに連れは俺より強いから問題はない。むしろやりすぎてないか心配だから早くお金を……。絡んでた冒険者の方が心配なんだ」
俺は出入り口の方をチラチラ見ながら、受付の女性に早く金を出せとアイコンタクトを送る。
「他の利用者も少ないですし、一時的に離れても問題ありませんが?」
「もしもがあったらさっさと逃げたいので。まぁ、その場合は証人が目の前にいるから、結局駄目ですけどね」
俺はため息を付き、奥の方からお金を持ってきた別の職員がトレーに乗せた大銀貨五枚を掴み、カウンターから逃げ出す様にして外に出た。
「あ、早かったね」
プルメリアが明るい声で言ってくるが、足下にはさっきの四人が倒れている。うなり声とかをあげているので、死んではいないだろう。外傷も見あたらないし、腕や脚が変な方向に曲がっているとかもない。
手には何も持っていないので、武器を抜く暇がなかったか、色々な理由で抜かなかっただな。
「まぁな。そっちも早かったな。それよりもプルメリアが殺しをしてないか、ヒヤヒヤしてたんだよ」
「そのくらいの手加減はできるから。じゃ、さっさと支払いに行こうよ」
「はいはい。行きますか」
そして倒れている男達をそのままにして、俺達は小さいドワーフの所に向かった。
□
「いらっしゃーい。お、手土産とは……気を使わなくていいのに」
一応支払いを待っててくれていたので途中でお菓子屋に寄り、日持ちするクッキーや茶葉を買ってきた。
「まぁ、義理みたいなもんだ。合い言葉があんな感じだし、食っているところを見た事はないが……一応な?」
「私だって酒以外を飲む事だってあるさ。なんなら淹れてやろうか? いつも素っ気ないやりとりばかりだし」
「催促したみたいで悪いな。ならもらおうかな? 時間は平気か?」
一応デートだし、隣に立っていたプルメリアにも確認を取る。
「別に宛もなくブラブラするだけだったし、隠れ家的な喫茶店だと思えばこれも立派なデート」
プルメリアは良い顔で親指を立てて言ってくれた。
「おいおい。惚気はよそでやってくれよ? そんな事したら、代金を上げるぞ?」
プルメリアとのやりとりで、小さいドワーフはニヤニヤしながら洒落たティーセットをカウンターに出し、そんな事を言いながら椅子も用意してくれた。
付き合ってた人の浮気で軍が出たくらいだから、変にイチャつくのは止めておこう。マジで値段が倍になりそうだ。
そしてお湯が沸いたのか、ティーカップとティーポットにお湯を注いで茶器を暖め、一回ティーポットのお湯を捨ててから、もう一度お湯を注いで茶葉を蒸らし始め、ティーカップのお湯も捨てて、少し暖めたミルクを先に注いだ。
「本格的に淹れるのは久しぶりだ」
「イメージ的に、お湯に茶葉をぶち込んで煮出して飲んでそうだしな」
「むしろ酒の方が多いよ? まぁ、お互い長く生きてると、こういう作法も覚える機会が多いからねぇ……」
小さいドワーフは、なんかしみじみと言った。言葉だけなら、縁側でお茶をすすっているお婆ちゃんだ。
「ですねぇ。私も母に教え込まれました」
「いつも豪快に飲んでるのにな」
俺は出されたお茶をゆっくりと口に運び、香りを楽しみながら飲んだ。
「こう……なんて言うんだろうな。本格的に淹れてくれるなら、もう少し高い茶葉を買ってくれば良かった。ティーカップも良い物っぽいし」
「私のイメージで決めるのが悪いな。
「極々一般的なグレードの少し上でいいか。とか言ってたもんね」
「そう言う事は言うなよ。こっちは何回も会ってて、毎回安酒をラッパ飲みしてるんだろうなー、としか思ってないんだから」
だって酒があるのに、カップがないし。
「まっ。意外な一面が見れただけでも、幸運だって事にしておいて」
「竹の花言葉みたいに言うなよ」
そんな事を言いながら俺はクッキーを食べ、一口お茶を飲むが、なんとなくティーカップが気になり、底を見て吹き出しそうになったのを必死に堪えた。
「お? 気が付いちゃった? お前が作ったティーセットだ」
俺の名前がバレている……。まぁ、こっちも知ってるからお互い様だけど。
「どこかで見た事があるなーと思いつつ、模倣品かと思ってたぞ?」
なんだかんだで人気が出て、模倣品が出回ったくらいだ。
「え? これお兄ちゃんが作ったの?」
プルメリアも、ティーカップとソーサーの裏を見て、制作者の名前を確認しだしたが、変な顔をしている。
名前である弓ルークにちなんで、創作系の名前は
「こういうのはドワーフが作ったのが多いけど、ドワーフには出せない繊細さとカップの薄さ、香りを楽しむための口の広さ、下品にならない程度の色合いに模様。ファンとコレクターが多いんだが、急に数が出なくなったとか貴族連中が騒ぎ出して、気が付いたら工房を辞めて旅に出たって事で、値段が三倍以上に跳ね上がった事があったんだ。その辺の工房で百セットくらい作ってやったら?」
「窯や土が違うし、
なんとなくで始めた陶芸っぽい事が、そんな事になっていたとは……。
「釉薬作りも、容器の底に残っていた奴を集め、錬金術師や魔法使いを呼んで鑑定して、なんとかレシピを再現させて、今じゃ有名な工房になってるぞ? 教えてやればよかったのに」
「親方は一子相伝とか言って、俺にその工房の秘伝の比率を教えてくれなかったのに、必死になりすぎだろ……。どんだけ儲けたかったんだ? 釉薬を入れてた容器とか綺麗に洗って、ぶっこわしてくればよかったわ」
俺はティーカップを持ち上げ、天井にある照明に透かす様にして目を細め、自分の作ったカップを良く確認する。
「ほぼ最初期の作品だな。少しだけ薄さにムラがあるし、色も少し濃いのか白みが強い。辞める直前は、ほのかに白の中に青みがあったはずだ」
「で、なんで辞めたん? 飽きたの? 始めた理由は?」
「ある程度技術と知識が身についたからかなぁ。当時暇だったってのもあるけど、偶然通りかかった山に窯があったから。かな?」
「まぁ、エルフだから。で通じる理由なんだよねぇ。同じ長寿種だからわかるわー」
小さいドワーフは、目をつぶってうなずきながら言ったが、文献をみる限り俺より最低でも百歳は上なんだよなぁ。こんな商売してるし、若い頃は行商人でもやってたのか?
「けど俺の最高傑作は、未だに模倣品は出てないし、王家が所持してたはずだ。値段はしらないし、献上された可能性もあるけど、金貨十枚で王家御用達の商人に売れた」
「どんなの作ったの?」
「光に当てると、無地なのに花の模様がカップ一面に浮き出る。もちろんお茶を淹れてもだ」
「へー、凄いの作ってたんだなー。作り方は秘伝だろうから聞かないけど」
「やろうと思えば誰でもできるさ。ただ、誰もできないだけなのか挑戦しないだけ。普通にカップを薄く作って、花の模様にさらに極力薄く削るだけだ。もちろん削り過ぎて一ヵ所でも穴が開いたら使い物にならない。薄さは……髪の毛一本の半分くらいまで削ったかな? 釉薬を塗って焼く前から光が透けてたし」
乾燥させて、刃物を入れるとボロボロ崩れる状態で削るけど。
「お前……馬鹿だろ? 精巧過ぎだ。ったく実はドワーフとエルフのハーフじゃないのか? これだから練り上げるタイプで凝り性は……」
「私はお母さんから教わって技の練習? してた。三十年くらい」
「プルメリアも極めつつ、さらに練り上げる系の長寿種タイプだな」
「それでも、純粋な技じゃお母さんにかなわなかったけど」
「あー、うん。百歳以上差が開いてたら仕方ない」
ふむ。おばさんも練り上げるタイプだったか。そこにプルメリアの力が加われば、ヤバい事になる。さっきの冒険者なんか、相手にならなかったんだろうなぁ。
ってかおばさんもやべぇ部類だったか。怒らせたら、最後に見た顔が笑顔だったってのもあり得るな。
そしてワイバーンの事に話が代わり、内臓が焼けてて鉄の破片があちこちに刺さった様な痕が残ってるけど鉄片がないとか。小指より小さい穴が二カ所あって、生きてるけど動かないし呼吸もしていないとか。内臓がグチャグチャだったとか、色々酒場で噂になっていたと聞いた。
錬金術で何もないところから魔力で作った矢だから、内包してる魔力がなくなったら自然に消えるから矢は見つからないはずだし、毒は傷から効く奴だし、肉は火を通せば問題ないから特に心配はしていない。
ヤドクカエルと似たようなもんだ。あれだって傷から効いて、その獲物を焼いて食っても問題ないし。
「ん? お客さんが四人いるね」
お茶を飲み終わらせて立とうと思ったら、小さいドワーフが出入り口の方を見てそんな事を言った。
「あ、本当だ。確かにそんな気配と良い香りが。さっきギルドで絡んできた奴ではなさそう?」
「ホワイトセージ、ローズマリー、ラベンダー……。教会関係者っぽいわよ? 何かしたの? あいつらに恨まれたらしつこいわよ?」
小さいドワーフは俺の事を見ながら、あきれた感じで言っている。
むしろ、ここから香りを当ててるって凄い能力だ。鉱脈か鉱石も匂いでわかったりするのかな?
あとプルメリアもヤバすぎる。良くわかったな……。
「思い当たる事が多すぎるんだよなぁ……。教会に所属してないのに勝手に格安で呪いを解く。格安で家に住み着いてた幽霊退治。世界樹の種の発芽実験に、樹液や木の香り成分を分析後に、代替品のお香の作成。神父のいない村で勝手に死者供養と結婚式に、新生児祝福。どれだろうか?」
俺はわざとらしく、顎に手を当てて首を傾げる。本当なら思い当たる事も言わなくても良いんだけど、一応意見が聞きたくて言ってみた。
「全部だな。金になるものばっかりだけど、世界樹の模倣品はまずいでしょ。教会関係者の祭事には、欠かせないって聞くし。ってかお前も大概ヤバい事してるんだな」
「まぁ、確かに悪いと思ってるけど、あいつら最初は代替品だって気が付かなかったんだぜ? そもそも世界樹は人族やエルフを含む亜人や、魔族にとっても神聖視されてるしなぁ。誰が何かしたって良いと思うんだよなぁ……」
お香は本物に近づけすぎた俺にも問題はある。けどそれはレシピの提示で許してもらえたし、金のない地方教会でも世界樹風の香を焚けるって事で大喜びだったはず。俺だって本気で教会関係者を怒らせる事はほとんどしない。だって恨まれたらマジで怖いし。
それに呪いだって教会関係者を呼んでたら間に合わずに死ぬ奴だったし、幽霊退治も簡単な奴だったからなぁ。
「お兄ちゃん……。流石に私でも、それはまずいと思う」
「大丈夫だ。世界樹に関しては和解してるし、向こうもかなり儲けてる」
少しずれてるプルメリアにそんな事を言われたら、なんか悲しくなってくるな。
「まぁ、会うだけあってみるか。最悪デートが台無しになるけど」
「仕方ないでしょ。なんかお兄ちゃんは有名人らしいし。それに、まだまだ寿命はあるからね」
「そうだそうだ。その辺りは長寿種の強みだな。ってな訳で、何かあったら店のドアを強く叩けば武器持って飛び出すから」
「軍隊が出る様な騒ぎは止めてくれよ?」
向こうもこっちの事を調べてたんだ。これくらいは言っても――
「おい、悪かった。頼むからその巨大なハンマーだかメイスから手を離してくれ」
そして速攻で謝った。目が笑っていなかったからだ。
「こっちもルークの事を調べてたから、お互い様って事で今回は許すけど、次からは気をつけてね?」
「はい、ミモザさん……」
今後絶対に怒らせない様にしよう……。あんなボウリングの玉の大きさくらいの鉄の塊に、柄の付いた長くて大きいハンマーだかメイスみたいな物で殴られたら、俺の死体を片づける人がかわいそうだ。
「んじゃ、せいぜい店に迷惑かけないようにするわ」
「そうしてくれると嬉しいね。国の地下組織の関係者御用達で、非公式ながら黙認されてるんだから、教会が関わるとややこしくなる」
「実は凄い店だったんだね」
「俺も初めて知ったわ」
そう言いながら立ち上がり、代金の大銀貨を三枚置いて出入り口に向かった。
「んじゃ、また来ます」
「一応お香の香りをさせてる教会の人間っぽい奴も、コソコソ何回もうちの店来てるけど、四人だから今回は客じゃないと思うよ」
「教会関係者も利用するんですねー。無縁そうなのに」
「教会は怖いよ? もうドロドロしすぎて、スラムの方がマシなくらい。じゃ、またのご利用をー」
ミモザさんは軽く手を振り、俺達がドアから出ると大きな閂かんぬきを乗せた音がしたので二枚目のドアを開けた。
通りには派手な修道服を着た髪を剃っている男と、それを守る様に立っている綺麗に磨かれた錆一つないフルプレートアーマーの聖堂騎士が三人。ご丁寧にバイザーまで下ろしていて顔が確認できない。
「言われた通り、変な髪型で後ろで結っているエルフ……。貴方がルーク様ですね? 申し訳ありませんが、大司教様が火急の件でお会いしたいとの事。言伝ことづてを預かっております。これを言えば、何が何でも来てくれるだろうとの事なのですが……」
大司教って言ったら超偉い人だな。そんな奴俺の知り合いにいなかったはずだが、もの凄く出世したんだろうか? つまりこの王都の教会で一番偉い奴? 総本山だと教皇だろうし……。
「では……。二十五番通りの一件目の喫茶店に来てくれ。だそうです」
「わかった。本当なら理由も訳も聞くが、その言葉を信じよう」
俺は親友と呼べるくらい仲良くなった奴には、一応暗号みたいな物を教えている。十数年会ってなくても、それさえ言えば偉くなって様と、顔が変わっててもわかるからだ。
ちなみに暗号は、とあるアニメで使われていた四桁の数字だ。01件目と言うと違和感があるので、一件目と略しているが、多分01だろう。
集合が来てくれって事になってるし、道路風に言っても、本棚を正面に見て右か左から二十五個目の一番上の一冊目とか図書館風に言っても、報酬は銅貨2501枚でも何でも良い。
「ただし条件がある。連れの同行の許可がなければ、このまま去るぞ?」
「その辺は聞いておりませんが、何が何でも連れてきてくれとの事ですので、私の裁量でどうにかさせていただきます。大通りに馬車を止めてありますので、そちらにお乗り下さい。お連れしなさい」
「「はっ!」」
そして聖堂騎士二人が返事をして、手の平を大通りの方へ向けた。
「あんたは?」
まだ動こうとしない、頭を剃っている教会関係者に聞いた。
「乗車の許可がありませんので、護衛の馬に二人乗りです」
「大変だな……」
「だね。一緒に乗ればいいのに……」
「そう言う訳にも行かないのが、ちょっと格のある組織の面倒なところなんですよねぇ……」
頭を剃っている教会関係者は、丁寧な言葉使いを止めてため息を吐いた。
「とりあえずかなり急を要する事態なので、急いで下さい」
俺はその言葉を聞き、早足で先行する聖堂騎士を追って行くと、なんか装飾過多な、転生前の日本で走らせたら、確実に警察に整備不良で止められる様な馬車が止まっていた。
「冗談だろ……コレに乗れってか?」
「白塗りでなんか羽付いてるし、ユニコーンが彫金してあるねぇ。ってか引いてるのもユニコーンだよ?」
「処女しか乗せないとか聞いてるけど。実際どうなんだ?」
いるとは聞いていたが、見るのは初めてだから聞いてみたくなった。
『別に関係ありません。私は雄なので、人族や魔族の筋肉隆々の毛深いオッサンが全裸で乗るのだけは嫌です』
「ふむ……。同じ男として何となくわかる。なんで清き乙女しかー、って噂が流れたんだろうか……」
『我々の自然界での生存率の低さと、絶対数が少ないというのもあり、毛色は白が多く、神聖な生物と認識されています。そういうのもあるのではないでしょうか?』
独り言だったが、二頭目のユニコーンが答えてくれた。こいつら頭良すぎじゃね?
『頭も良く、悪意のある生物の認識が安易ですので、無垢な少女なら比較的そういう思考をしないのが原因かと』
『利己的な奴もいますからね。あ、どうぞ。お乗り下さい』
「この子達、礼儀正しすぎて動物として異常じゃない?」
「だな。常に一緒にいたら疲れそうだ」
『我々は管理され、共存して生きる道を選び、対価として食事と寝床、繁殖を約束されています。種の繁栄としてはこういうのも一つの答えです』
『森にはそういうのを嫌った方もいますが、それも答えです』
「まぁ、そういうのもありだな。答えは一つじゃないし。ありがとう、話せて良かったよ」
けど、そういうのを家畜って言うんだけどな……。
『こちらこそ、動物や魔物と話せるエルフと会話でき有意義でした。それと偉い方にこうお伝え下さい。最近食事に偏りが見られるので、改善して欲しいと言っていたと』
『具体的に言うなら、ニンニクと人参や塩を増やし、たまに砂糖や油分の多いものがあれば毛艶も良くなり、より人の目に映えると思います。菜種油とかが良いですね』
「お、おう。言っておくわ」
「なんか偉い人と、堅苦しい世間話してる気分になってきた」
「奇遇だな、俺もだ」
「まだ出ていなかったのですか? 早く馬車に乗って向かって下さい」
そんな事を話していたら、頭を剃っている教会関係者がスラムの方から走ってやってきた。
「すまん。ちょっとユニコーンと話しててな。食事を改善して欲しいって言ってるから、責任者に伝えてくれ」
そう言って俺はユニコーンの要望を伝え、泥一つない装飾過多な馬車の車内に乗り込むと、女性の御者ぎょしゃが手綱を振って走り出した。
周りには聖堂騎士が馬で併走して護衛している。本当に選ばれた人しか、この馬車に乗れないみたいだ。
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