第32話~冷たい運転手~
この世には様々なタクシーが走っている。
都会に行けば行くほど、タクシーの数は数えきれないほどある。手を上げればタクシーを止められるとは、地方の人には衝撃の光景だと思う。
しかし、運転手の人にも様々な性格の人間がいる。話しかけてくる運転手もいたり、一言も喋らない運転手もいる。
今回はそれをテーマにした少し不思議な物語である。
一人のサラリーマンは、都会に長年勤めているベテラン社員だ。今では開発部の部長をしており、子供も嫁ぎ、孫がもうすぐ生まれるという、充実した生活を送っていた。
今日もいつも通り、電車に乗って帰りたいところだが、今日は華金と言われる金曜日、我々サラリーマンにとっては、かなり嬉しい日でもある。
そのため、今日はちょっとした贅沢を。タクシーを使って帰ろうと思った。
いつもは電車に揺られて、ぎゅうぎゅう詰めの満員電車の中を、きついという感情を押し殺しながら、家へと向かって行く。
それをたまには解消したいため、今日はタクシーを使い帰ることにした。
すぐにタクシーを捕まえることが出来、手を上げると一台のタクシーが目の前で止まった。
運転手は少し年配で、あまり無口で頑固そうな感覚を覚えたが、仕方なくタクシーに乗ることにした。
「すいません、八王子まで」
そこから何十分、揺られていたのだろうか。その間にもタクシー運転手とは一言も喋らなかった。
よく俺はタクシーを使うが、そのほとんどは気さくに話しかけてくれたが、こんなにも無口で冷たい運転手を見たのは初めてである。
この場合は一体どうしたらいいのだろう。話しかけるのも一つの手かもしれないが、もしそれで無視された場合、ただ気まずい時間が流れるだけになる。
それだけは避けたいが、俺の家までは結構時間がかかる。それまでこの空気はちょっと嫌だなと思いながらも、これはどうにかしないといけないと感じて、運転席に貼ってある運転手の名前を見て
「あの、唐沢さんというんですね」
しかし、無口のままである。これは乗るタクシーを間違えたと思いながらも外の景色を見ていると
「カーラジオつけてもいいですか?」
突然、運転手が重い口調でそう言ってきた。
俺も突然のことで驚きながらも
「あっ、はい」
そう言うと、運転手はカーラジオを点けた。そこから
「ひっくんのオールナイトポンポン!!」
突然カーラジオから、深夜ラジオ番組が始まった。もうそんな時間かと思いながらも、聞いていると
「お客さん」
「はい?」
「このひっくんは、僕なんですよ」
「え?」
何言ってるんだこの人はと思いながら、聞いてみると、どうやら副業でタクシーをしているみたいで、本業はラジオパーソナリティをしていると聞いた。
俺は内心、こう思っていた。
〈副業でタクシー?〉
~終~
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