第28話~官房長官の会見~

俺は内閣官房長官をしている一人の男だ。


普段は内閣総理大臣の女房役、そして内閣の要として、仕事をしているのだが、もう一つ重要な仕事がある。


それは内閣のスポークスマンとして、平日の午前と午後に定例会見を開かなければならない。


内閣の方向性・政策・閣議の概要などを、会見を通じて報告する義務があるのだ。


俺としてはかなり苦痛な職務である。


何故なら、質問内容によっては、記者と真正面で対決をしなければならない。


記者によっては、内閣の方向性に疑問を持ち、直接投げかける者もいるし、口調もかなりきつい記者が多くいる。


俺も一人の人間であるため、もう少し丁寧に優しく対応してほしいのが、正直な気持ちなのだが・・・


中には答えられない質問もあり、答えに苦しんだ時は「差し控えさせていただきます」という魔法の言葉を使うことが多々ある。


俺は出来れば無視で行きたいのだが・・・


今日も、普段通りの真顔で壇上に立ち、記者の顔を伺った。


男性の一人が手を上げたため、指した。


「えぇ、昨日法案が成立をした税制改革について、官房長官としてのご意見を伺いたいです」


「えぇ、税制改革法案に関しては、本当に与野党の合意の元で、成立したことは、大変ありがたく、感謝の限りでございます。えぇ、今後も国民に税の負担を軽減するためにも、法案や政策に活かしたいと思っています」


今まで経済・財政法案に関して、何年もかけて慎重に議論が行われてきていたのだが、与野党の多数合意で成立をしたため、総理もかなり安堵していたのを思い出した。


次に女性の記者を指した。


「昨日、木之下財務大臣が突然辞任を表明されたことについて、官房長官は何かありますでしょうか」


「それについては、突然のことで、私も総理も大変驚いております。今後、事実関係をまとめまして、ご報告いたしたいと思っております」


木之下財務大臣は、政権発足後、長きにわたって財務大臣を務めており、事実上のナンバー2とも言われている政権の柱ともいうべき存在である。


だが、裏金疑惑が週刊誌によってスクープされ、その影響もあってか辞任表明をしたのだ。


これに関しては、辞任を促したのは俺である。


実は、この疑惑は全て真実であり、財務のトップである木之下が最も犯してはならないことであるため、例え財務省のトップだろうが、容赦なく辞任を促したのだ。


俺はそれに関しては、恩義など一切感じないし、通用しない。


この政権に必要のない人物は容赦なく斬り捨てる。それが俺の仁義なのだ。


次に別の女性記者を指した。


「えぇ先日、閣議にて決定を致しました「国防諸外国連携協定」について、国民からの反対が多数を占めている中、強引に決定したことによって、長官はどのようにお考えでしょうか」


この質問が来ることは事前に予想出来ていたことである。


「国防諸外国連携協定」というのは、名前の通り、国防について、諸外国に同盟までは行かずとも、連携や協力を求めることによって、敵国からの戦争を回避する手段を考えようということで、この案を閣議決定したのだ。


これについては、一部のリベラル・左派団体や野党からは、かなりの不信感や反発を招いており、マスコミからのかなりの追及を受けている最中なのだ。


我々は保守・タカ派政権として、教科書問題や安全保障については何度もタカ派政策をまとめて来た。


それもあり、若者を中心に支持率が急上昇しているのだ。


それに、この協定案についても、保守・右派からはかなり信頼感や合意の声を頂いており、この国の未来のために取りまとめた案でもあるため、それに関して、官房長官の立場として


「えぇ、それに関しましては、多数の方からは信頼感やお褒めのお言葉を頂いておりますので、全く強引などとは思っておりません」


「ですが、この国は長年にわたって平和を維持してきました。しかし、それが脅かされるのではないかと言う声も上がっていますが、それに関してはどう思ってるのでしょうか」


「平和国家の我々としては、それを維持するつもりです。しかし、平和だけを謳っているだけでは、真の平和とは言えないのではないでしょうか」


「それは、真の平和の為なら、戦争もやむを得ないということでしょうか」


平和は確かにこの国にとっても、世界にとっても大事なことだ。


しかし、近隣諸国の問題を考えると、あまりにもこの国に対して敵視をしている国が多すぎる。


そんな国からいつ攻撃が来るか分からないため、それなりの準備をするためにこの協定を決めたのだ。


平和・平和だけを言っているだけでは、この国は守れないのだ。


そのためには武器製造・兵器輸出入などを今後考えなければならない。


現実を考えずにうるさく言ってくるマスコミに嫌気がさした俺は、表情を重くしながらも


「この国を守るためなら、それもやむを得ないと考えております」


すると、周りの席からは「どういうことだ」というヤジが飛んできた。


あまり会見において、ヤジ自体飛んでこないのだが、今日に限っては、まるで番犬の犬のように飛んできた。


俺は司会者の方に顔を向けた。


そのまま司会者の判断によって、今回の会見は中止となった。


俺はすぐに裏に回り、官房副長官の男性に


「あいつら、うるせぇな」


「仕方ないです」


「出入り禁止にしろ」


つい本音が漏れてしまった。


官房副長官は苦い顔をしていたのだ。


~終~

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