第26話~予算委員会~

俺は内閣官房長官をしている一人の男だ。


以前は、保守政権与党の幹事長をしていたのだが、先月行われた内閣改造にて内閣官房長官に任命された。


正直、俺は幹事長のままで良かった。


政権与党には代表職がある。それが内閣総理大臣をしている男のことだ。しかし、総理を兼務をしても体力的に限界が来てしまうため、実質、幹事長が与党のトップを握っているのだ。


今後の政権の運営方針や、与党の人事も操ることが出来る。


俺は党内第二派閥『国岡派』の事務総長をしているため、この派閥のメンバーから重要閣僚に推進することもできるのだ。


色々と権力の多いポストではあるが、内閣改造というタイミングで、俺は官房長官に無理やりならされたのだ。


恐らく総理は俺と同じ、保守タカ派の人間であるため、次の国会では是非とも『国防軍創立』『安全保障条約改定』など、国防を強めるための法案を提出したいに決まっている。


そのタイミングで、同じ思想信条を持つ俺に声をかけたのだろう。


余計なお世話である。


しかし、一番面倒なのは予算委員会での野党の質問だ。


何からなんでも批判・反対をする野党にはうんざりしており、総理がいない時には何故か俺にまで火種が飛んでくるのだ。


今日も総理は海外に出張しているため、俺が実質トップとして席に座っている。


「今日は総理がいないので、官房長官にご質問いたします。現在法案を進めている『国防軍創立』に関して、これを作る意味をご説明いただけたいなと思います」


だったら防衛大臣に聞けや。


俺は確かに「安全保障担当」を担っているが、実質トップは防衛大臣だ。


何故俺が質問に答えなきゃいけないのかと思いながら


「えぇ、意味についてはですね。資料の通り、我が国の安全保障、そして国際情勢を判断した結果、国防軍を創立する決意に至ったと存じます」


「それは分かってるんですよ。ですけど、自衛隊のままではだめということでしょうか」


「そういうことではございません。自衛隊をより強化するためにも、国防軍という名で我が国を恐縮ながら守ってほしいという意味も込めまして、創立のする予定でございます」


「ですけど、自衛隊を強化するだけで国防軍って名前を付けなければいいじゃないですか」


「えっとですね。来月、憲法改正についての国民投票が控えております。これが可決すれば、自衛から国防にシフトを切り替えます。そのタイミングで名前を変えることにする所存でございまして、ちゃんとした意味もありますので、ご理解いただければ良いと思います」


「自衛隊と国防軍とはどう違うのでしょうか」


何から何やでうるさい奴らだな。


ちゃんと理解しろって言ったら理解しろよと思い、つい腹立たしく思いながら


「うるせぇな。理解しろよ!!」


つい言ってしまった。言うつもりじゃなかったのに。


辺りは静けさで包まれた。


これは気まずくなり、しばらく下を俯いていた。


その先の官房長官会見ではこのことばかりを質問され、俺はやむを得なく辞任を決意したのだ。


「幹事長のままで良かったなぁ~!!」


~終~

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