第23話~ソロ活動~

「俺、バンドをやめたいんだ」


そう言ってきたのは、人気ロックバンド「チェイス」のギター担当だ。


ボーカル担当の自分としては、やはり考え直してくれとしか言えなかった。これは本音だからである。


「チェイス」はボーカル・ギター・ベース・ドラムス・キーボードをそれぞれ担当している五人組であり、五年前に発売されたデビュー曲「ロック・チェイス」が人気ドラマのタイアップもあり、空前の大ヒットをしてから、音楽界の第一線を走っているバンドである。


今でさえ、来月の全国ツアーライブや、四枚目のオリジナルアルバム・そして初のベストアルバムを制作中であるのに、突然のギター担当から出た一言に、他の四人はただ唖然とするしかなかった。


しかし、彼にも当然理由がある。


実は、彼のギター才能を見た他の音楽会社から、ソロ活動のオファーが届いているらしく、彼は確かに前からソロ活動はいつからかしたいと望んでいたため、良いチャンスだと思っているという。


しかし、人気急上昇中のこのバンドの活動量を踏まえて、ソロ活動とバンド活動を両立が難しいため、このバンドを脱退する決意に至ったという。


しかし、その理由だと自分たちも納得が難しくなる。


今までインディーズ時代から常にメジャーデビューを夢見て苦楽を共にしたため、メンバーを脱退してソロ活動に移行しても、失敗する可能性だって大きい。


他のメンバーからにしては、この決断を裏切りと捉えられてもおかしくないことだ。


苦楽を共にしたメンバーを見捨てて、自分一人で羽ばたくことになるからだ。


それに、大事なギタリストが脱退となれば、当然バンド活動も一旦休止せざるを得ない状況になる。最悪の場合「解散」も視野に入れなければならない。


それを含めての決断なのかを聞いてみることにした。


彼は黙っていた。確かに黙る気持ちも分からなくはない。


何故なら、オファーが来ている音楽会社は日本の五本の指に入る一流企業だし、それにソロ活動もしたいと口ずさんでいた男が、今二つの決断を迫られている。考え込むのも無理はない。


しばらく無音の時間が続ていると、キーボード担当がこういった。


「じゃあ、そこの音楽会社に移籍するか」


今まで自分たちは、インディーズバンドを主流とした音楽会社に長年お世話になっていたが、気楽にソロ活動ができるように、その音楽会社ごと移籍するが、デメリットもあるかもしれないが、恐らくメリットは計り知れないものになると、キーボード担当は説明してくれた。


確かにそれも悪くはないし、そしたらソロ活動とバンド活動の両立も恐らく調整してくれると思うし、これは良いと思い、急いで会社に連絡をした。


その二か月後、自分たちは会社を移籍し、ギター担当はソロデビューを果たした。


もちろん、バンドは抜けて・・・・


~終~

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