第21話~駅長の当直~
自分はとある小さな田舎町にある、小さな鉄道駅で駅長をしている人間である。
ここの駅長に赴任してから、はや五年が経つが毎日様々な客が乗降する。
たまにいるのが酔った客がホームの椅子で寝てしまうサラリーマンだ。その人をホームから出すのに、一体何時間かかることか。
過去にサラリーマンを追い出す作業をしている間に朝日が昇ったことがある。あの時は流石の自分もキレ気味になりながらもサラリーマンを追い出した。
それとか、酔ったOLがホームに転落してしまったこともあった。ここの駅のダイヤはあまり多くはないため、事故には繋がらなかったものの、背筋が凍る出来事でもあった。
酔ったときは自己管理だけはしてくれ、人に迷惑をかけるほど飲むなと思いながらも、日々を仕事をこなすだけであった。
そんなある日、冬の寒い深夜のことであった。時間は午前0時半を回っている。
一人の女性がホームに佇んでいた。もうすぐ最終電車が来るため、その乗客かと思いながらも、少し不穏な空気を察したため、しばらく見つめていた。
奥から最終電車の光が、小さくこちらのホームを照らしていたとき、女性が履いていたヒールを脱ぎ捨てて、黄色い線の外側に足を踏み出した。
これは確実に飛び込み自殺だと思い、すぐに職務室から飛び出て、女性を抱いてホーム内側に連れ戻した。
慌てていたため、二人は転んでしまい、女性は泣いてしまった。
自分は大きな声で
「何をやっているんだ!!」
と叱ると、女性は泣きながら
「死なせてください」
と言ってきた。これは確実に訳ありのはずだと思い、女性をホームの椅子に座らせ、最終電車を見送ってから、女性を連れて職務室に移動した。
今年の冬は一段と寒いため、女性の薄着のシャツの上に毛布をかぶせた。女性は正気を失っており、黙って俯いていた。
自分は女性に優しい声で
「何かあったんでしょ」
その声に、女性はゆっくりと頷いた。俯いているが答えははっきりとしてくれることに安堵しながらも
「本当だったら、このまま保護ということで警察に通報する。しかし、俺は君を信じる。通報もしない。だから話してくれ、何があったんだ?」
この言葉の真意は本当である。自殺を希望する九十%は悩みや苦しみである。そのため、自分にはその苦しみを話してほしかったのだ。
自分は小さな駅をただ守っているだけだが、言葉を換えれば一人の人間である。自分でも役立つことをしたいと感じているため、自分でよければその相手になりたかったのだ。
すると女性は泣きながらも、話してくれた。
どうやら恋人に別れを告げられたらしく、元カレの借金の連帯保証人を勝手に自分にされたため、家も車もすべて取られたため、もう生きていく価値がないと思い込み、自殺を選んだと明かしてくれた。
「ご両親には相談したのか?」
どうやらしていないみたいだ。自分は少し悩んだ結果、財布から自腹で一万円を渡した。
「これで好きなのを食べなさい。そして、必ずご両親に相談しなさい。必ず味方になってくれるから、それに俺から言えることはただ一つ。必ず生きなさい」
それをきつく言ってから、最後に微笑んだ。それを聞いた女性は涙ながらに自分に礼を言った。
しかし一人にはできないため、そのまま実家まで送ることにした。勤務中だが、構わない。
何故なら、人を一人助けたからだ。
~終~
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