スナック

連喜

第1話 幽霊の出るスナック

 俺は50のサラリーマンだけど、スナックに行くのが好きだ。ちなみに自分の金で行ったことはない。地方に出張した時に、地元のお客さんに何度も連れて行ってもらったことがあるというだけ。おばさんがやってるスナックは落ち着く。実の母親とは不仲だったのに、その年代の人がやっている店には、実家のような親しみを感じてしまう。ママたちは、お金をもらっているから相手をしてくれるんだけど、それでも、彼女たちの話には人生の含蓄を感じるもんだ。


 それに対して、銀座のクラブとかは気を遣うから苦手。キャバクラも若い子と話すのが疲れるから嫌だ。温泉場のコンパニオンとかはヤンキー風の人が多くて好きじゃない。フィリピンパブやゲイバーもNG。やっぱり、スナックっていう、アットホームな雰囲気がいい。


 今は酒離れが進んでいるから、20代の人はスナックやパブに行ったことがないという人が多いらしい。こういう店に定期的に行くのは30代以上の男性の1割くらいしかいない。わずかな人しか行かないのに、世の中にたくさんのスナックがあるのはむしろ不思議な感じがする。


 俺は昔から友達がいないけど、コロナで人に会わなくなって、さらに一人でいることが増えた。その中で、唯一、毎日顔を会わせるのは、会社の掃除のおじさんだ。名前は添田そえださん(仮名)。65歳。独身で葛飾区に住んでいる。葛飾区というと、寅さんで有名な柴又があるところだ。彼も気さくでいい人。俺は彼が好きだ。


「江田さん、行きつけのスナックがあるから一緒にいかない?」

 一緒に昼飯を食っている時に、添田さんが言った。

「えぇ!?スナック?」

 葛飾のスナックといったら場末感漂う、さびれた店という感じがする。きれいな人は絶対いないというのが行く前からわかる。

 しかし、葛飾といえば、せんべろのメッカとして有名な立石が再開発になると聞いていたし、美味しい総菜屋もありそうだ。ちょっと行ってみたい気もする。

「うん。俺、ボトル入れてるからそんなに高くないし」と、添田さん。

「そうねぇ。まあ、いいけど。俺、禁酒中だから。どうして?」

「実は・・・そのスナック幽霊が出るって有名だから。江田さん、好きだよね。そういうの」

「へえ、そんなところがあるんだ。行きたいけど、何だか怖いなぁ・・・俺、実はビビりだから、心霊スポットにはあんまり行かないんだよね。添田さんはそこで幽霊見たことある?」

「うん」

「どんな人が出るの?」

「男の人。そこの店の前のマスターが自殺したんだって」

「そのスナックで?」

「そう。クビ吊ったらしいよ。居抜きで安く譲ってもらったんだって」

「へえ、働いてる人は怖くないんだ」

「うん。ママは霊感ないんだって」

「繁盛してるの?そこ?」

「まあまあかな。常連さんはいるし」


 マスターが自殺したスナックか、、、想像しただけで怖い。きっと、売り上げが落ちて借金で首が回らなくて、、、ということだろう。よく、そんな所で商売する気になるなと思う。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る