無自覚コワモテ聖人高校生が見た目で誤解をうけ、孤立しながらも頑張って人気者になるまで

白米王子

第1話 プロローグ

 木漏れ日村は長い年月、時間が止まったように風景に変化のない村だった。

 電車ではなく汽車しか通っておらず、その本数も日に数本程度。

 いわゆる都会にいくためには本数の少ない汽車電車を乗り継いで数時間を要する。

 見渡す限り山に囲まれ、いたるところに畑を見かける風景は、長閑といえば聞こえはいいが、ただ開発の手が付けられていないだけの行政政策の損得勘定の上に成り立つものだった。


 そんな田舎に『新堂大河しんどうたいが』は幼いころに両親の希望で引っ越してきてから16歳に至るまで10数年の年月をすごしていた。

 身の丈は180センチ程の高身長、体つきは日々の農作業の手伝いや日常的な運動の甲斐もあってか健康的な筋肉がつき、がっちりとしたものだ。

 炎天下で過ごす時間が多かった影響か肌は焼け、少し日に焼けた様は炎天下で練習をする高校球児のようにも見える。

 村は過疎化の道をたどりつつあり、村民や友人たちは幼い頃から代り映えなく、もはや友人知人というよりは家族に近い関係性だった。


 幼い頃から大河はずば抜けた知力、並々ならぬ運動神経、表現豊かな芸術力とあらゆる分野で才覚を見せた。

 せっかく自然豊かな土地で生活するのだから色々な経験をさせたいという両親の教育方針と本人の努力の賜物であったが、彼の類をみない才能に、周囲の人は苗字にかこつけ新堂あらため『神童』と、彼のことを村始まって以来の天才であるともてはやした。


 面倒見がよく、年下の子ども達には時に教師に変わり勉強を教え、困ったことがあれば相談にのる、頼りになる兄貴分としての役割もこなした。

 村きっての秀才、心優しい性格で大人から子どもまでが彼を頼りにし、将来行き着く先は学者かスポーツ選手か、はたまた芸術家と村人みんなが想像をめぐらせたという。


 大河は村が大好きだった。村の名前のとおり優しく暖かい人たちに囲まれ、自分の手に収まる程度の些細なことや日常に幸せを感じ毎日過ごす。

 かつて村にいた年上の友人達の大半は村での生活に辟易とし、あこがれのシティライフをかなえるために都会の高校や大学に進学し、理由をつけて下宿生活を始めるとめっきり帰ってくることが減った。

 大河はといえばそんなことを考えることはなかった。

 確かに都会での同年代の人たちとの出会いや派出な生活に多少の興味はあった。しかし、今の生活に不満を抱いているわけでもない。今後ものんびりと村で過ごすつもりだった。

 特にここ数年はインターネット社会の発展により、距離があろうと多くのものを身近に感じることができることで、不便さを感じることもなかった。

 しかし、そんな考え方とは逆に彼の両親は大河に外の世界での生活経験させるつもりでいた。

 村の狭い世界ででこのまま過ごしていても確かに不便もなく生きていけるだろう。しかし都会にでて多くの経験を積めばもっと大河の将来に選択肢が増えると大河を思ってのことだった。

 彼の両親は今の仕事に一区切りつけると、木漏れ日村から少し距離のある街への転居を決断したのであった。

 そういうわけで高校一年の教育課程を修了し、2年へと進級するのタイミングで都会の高校への転校を余儀なくされたのだった。


「今日で新堂はこの村をさることになった。みんな泣くんじゃない…。新堂、お前の成績なら転校先の高校でも上位に入れるだろう。勉強怠るんじゃないぞ」

 大河が村の学校へと通う最終日、村唯一の学校に勤務する担任教師は大河が都会の高校へ転校することを伝えた。

 大河の通う学校は過疎化の進んだ田舎ならではの風景で、一つの教室で小学生から高校1年である大河までが一緒に授業をうける、ごった返したものだった。

「大河兄ちゃん…いっちゃやだよ」

「たいがくん…向こうに行っても元気でいてね…」

「俺も大河兄に負けないくらい勉強がんばるよ!チビ達の面倒も俺がしっかりみるから安心して都会生活満喫してくれよな…」

「大河くん、向こうでも元気で体調にきをつけてね」

「大河なら向こうでも人気者になるだろうし、可愛い彼女なんかもできるんだろうな。うらやましいぜ」

 友人達は自分たちの頼れる兄貴分である大河の引っ越しに涙を浮かべながら代わる代わる言葉をかける。

 大河自身も弟分、妹分達からの暖かい応援に胸があつくなり、目じりにはジワリと涙がにじんだ。

 これが今生の別れになるわけではないと分かっていても、都会へ引っ越せばおいそれと帰ってくることはできない。

「にーちゃんがんばってくるからお前たちも元気でやるんだぞ!友達もたくさんつくるし夏休みなんかには新しい友達つれて帰ってくるさ!その時はみんなでもてなしてくれな」

 順番に子どもたちの顔見ていくと、幼いころからの面倒を見てきた子ども達の成長が頭によぎり、ついには目じりにたまった涙は橋をかけ、白い線が残った。

 兄貴分である大河が涙ぐむ姿をみて、教師も生徒も皆が涙を流し、抱きしめあい別れを惜しんだのだった。

 そして、春休みに入ると新堂大河は村を後にし、都会の高校へと転校したのだった。



 村人にとって新堂大河という人物は人格、能力ともに秀でた村自慢の優等生だった。

 誰もが転校先で彼の高校生活が充実することを願っていたし、その成功を確信していた。

 それほどまでにこれまでの彼の行いは村中の人間にとって大きな存在感があったのだ。

 お年寄りが歩くのに困っていたら手を引いて一緒に歩き、泣いている子どもがいればかけより放っておかなかった。

 彼の行動には打算などはなく、ほとんどが純粋な善意からくるものだった。

 だからこそ、長年の付き合いである村人達は彼のことが大好きだった。

 それゆえにある一点において、完全なひいき目にみていることには誰一人も気づくことができなかった。

 村から一歩でた先の人達が新堂大河という人物に抱く印象を誰一人想像すらしていなかったのだ。

 彼は180センチほどの身長に筋肉質であることもあり、プロレスラーのような体型をしている。

 その大柄の体躯は周囲に対して相当の威圧感を醸し出す。

 それだけならまだしも、頭髪は老爺の営業する村唯一の床屋でばっちり刈り整えられた角刈り。

 年相応にはみえない老け顔にキリリと吊り上がった目がついており、相手を刺すような視線をむける。

 一つおまけに右眉の上には農作業中に転倒した際についた古傷が今もなお残っている。

 とてもではないが、一般人には見えず、第一印象で優等生として彼を見るものは皆無だろう。むしろ高校生にすらみえない。

 ただならぬ風格を放ち、どうみてもゴロツキや少し顔の老けた番長の様にうつる。

 村人の楽観的な思いとはうらはら、初対面の人間に胃が痛くなるような緊張感を与えること間違いなかった。

 例えるならば、ゲームにでてくる山賊のボスや百戦錬磨の武将、不良漫画にでてくる武闘派番長のような容姿をしていた。

 ここで誰か一人でもその事実に気づき、アドバイスをしていれば彼は迫りくる不運を回避できていたのかもしれない。

 結局誰一人そんなことには誰も思い至らず、皆が引っ越し当日も両手を振って笑顔で彼を見送ったのだった。


 この物語は不動明王のような容姿をもつ心優しい一人の青年が転校先で巻き起こす青春スクールライフである。

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